横浜ベイスターズの売却交渉が破談に終わってから、約1カ月が経つ。ひとまず騒動は鎮静化したように映るが、結局は元のさやに戻っただけで何も状況は変わっていない。親会社であるTBSホールディングスは9月の中間連結決算で2期連続の最終赤字となり、球団を取り巻く環境は以前よりも厳しくなってきている。売却話がいつ再燃するかは予断を許さない。6年前に巻き起こった球界再編騒動の際、近鉄買収、新球団設立に名乗りを上げた堀江貴文氏は、プロ野球経営の現状をどう捉えているのか。当HP編集長・二宮清純が久々にインタビューを試みた。『Financial JAPAN』誌上で掲載されている内容の一部を紹介したい。
(写真:プロ野球ビジネスを発展させるプランを大胆提言!)
二宮: 今回、横浜ベイスターズの売却騒動では、結局、住生活グループが買収を断念することになりました。6年前に近鉄バファローズの買収を試みた当事者として、このニュースをどう感じましたか?
堀江: 最終的には球場の問題がネックになったんでしょうね。プロ野球の経営はスタジアムで得られる入場料や売店の売り上げなどの収入が入ってこないと苦しい。
ところが横浜スタジアムの場合は、売店や広告看板の収入を球団側が得られない構造になっている。その上、約8億円ともいわれる球場使用料を払わなくてはいけないとなると、本拠地を移転しない限り、黒字経営は難しいでしょう。それでも本拠地は横浜で継続してほしいという話では、交渉はまとまらないですよね。
二宮: 一部には住生活グループは球団買収よりも売名行為が目的だったとの声もあります。
堀江: それは違うと思いますよ。だって、住生活グループの名前は有名になったかもしれないけど、肝心の新社名である「LIXIL(リクシル)」は浸透しなかった。
あの会社は、もともとINAXとトステムが合併してできた会社です。この2つのブランドのほうが知られているのに、あえて今回「LIXIL」に統合しようとしている。そんなコストと時間のかかることをしている会社が単に売名だけで球団買収に名乗りを上げたとは思えませんね。まぁ、強いて言えば下調べが甘かった。
二宮: 現状の横浜は成績も観客動員も低迷して、買い手もつかない。まさにお荷物球団になっています。しかし、やり方を変えたらうまくいくのではないでしょうか。
その証拠に1998年に日本一になった時は、球場はいつも賑わっていました。同じ年にサッカーW杯でフランスが優勝した際に、シャンゼリゼ通りでの熱狂ぶりを目の当たりにしましたが、横浜も負けず劣らず盛り上がっていました。何といっても東京に次ぐ大都市をホームグラウンドに持っているわけです。もっと横浜ブランドを生かせないものかと感じます。
堀江: もったいないですよね。パ・リーグの球団もオリックス以外はみんな、球団に地域名を入れて成功しているんですから。
加えて、プロ野球の球団経営では税制上の優遇措置が適用されます。1954(昭和29)年の国税庁通達で映画、新聞、地方鉄道などの事業を営む法人が球団を保有した際には、その損失を補填するために支出した金額を広告宣伝費として計上できる。
たとえば、横浜は年間20億円の赤字を出していると言われています。その分を親会社が支出して広告宣伝費として計上すると、この20億円は課税対象から外れるんです。同じことを普通の会社がやるとどうなるか。20億円は赤字を穴埋めするための寄付金とみなされ、課税されます。
これは隠されたプロ野球の利権ですよ。だって、サッカークラブには適用されていないんですから。しかも「映画、新聞、地方鉄道など」と業種を限定しているのも不公平ですよね。誰もここを指摘しないのは、絶対におかしい。中小企業の経営者が知ったら怒り狂う話だと思います。
二宮: 公共性の観点からいえば、Jリーグは企業名を名乗っていないのですから、むしろスポンサー企業に税制面での優遇があってもいいくらいです。
堀江: この通達はスポーツ振興のために、企業が支援しやすい環境を整えることが建前上の趣旨でしょう。それなら野球だろうがサッカーだろうが、すべてのスポーツにおいて適用すべきです。
(現在発売中の『Financial JAPAN』(ナレッジフォア、2011年1月号)ではインタビューの続きが読めるほか、「喝っ!! 日本のプロスポーツ」と題したスポーツビジネスに関する特集記事が掲載されています。こちらもぜひご覧ください)