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勇者の帰還
43 凱旋パレード
 結局その後もうまくチャンスを見つけられなくて、あれこれを言えないまま過ごしています。
 それに着々と結婚に向かって進んでいるようで、それに関しても戸惑いやら悩みがつきません。
 何というか、外堀が確実に埋められていってるのがもやもやするというか。今更といえば今更なんですが。
 いや、勇者なんぞに選出されなければ、ゆくゆくはそうなってた可能性は高いんですけど……。
 本当、私にとって勇者というのは完全なトラウマ状態ですよ、まったく。と、今はそれよりも切実な問題があるんでした。
「グレアム、いつまでこの部屋にいるつもり?」
 朝食の席で切り出してみました。ここらではっきりさせておいた方がいいと思ったんです。
 彼が王都に帰ってきてからもう数日経っています。外をうろつかないから、一時期の勇者騒動は収まってるみたいだけど、だからと言っていつまでもこの部屋に居続ける、というのも無理があると思うんですよね。
 生活基盤をきちんとしないとならないし、何より『勇者』が王都のど真ん中の普通の店の上に住む、というのはやはり騒動の元だと思うんです。
 グレアムが帰って来た日も、店の周囲を人が囲んで大変な騒ぎになりましたし。今はどういう訳か落ち着いていますけど、それもこの先いつまでもつかはわかりません。
 もっと警備というか、一般人の来づらい場所の方がいいと思うんですよね。なのに。
「ルイザがここにいる間は、俺もいるよ」
 こら待て。いくら部屋代無料にしてもらってるとはいえ、それは店の周囲を掃除するからであって、私の労働の対価としてだぞ。
 それにいくら世界を救った勇者といえど、その後が無収入の職なしというのはいかがなものかと思うのですが。
 なので脅し半分で言ってみました。
「ちょっと、私の収入じゃあんたを養うなんて出来ないわよ?」
 グレアムってば昔からよく食べるし。一応勇者なんてやってたから、下手な衣服着せられないし。衣食住って金かかるのよ。この部屋にいる間は、『住』に関しては無料にしてもらってるけど。
 今の所外に出ないおかげで、服は適当に買ってきたもので間に合わせています。それだってこの先もこのままって訳にもいかないでしょう。
 エドウズ商会は婦人物の店なので、紳士服は扱っていないんですよ。頼めば一から作ってくれそうですけどね。どうなんだろう。今度いくらくらいで作ってもらえるか、聞いておこうかしら。
 ただでさえ神殿だ王宮だと呼びだされる立場なんだから、きちんとしたものを何着かは持ってないとならないだろうし。
 こんなんで今月予算内でやっていけるのかしら? フェリシアも言ってたけど、王都って物価高いのよ。
 なのに本人はけろっとして
「養ってもらうつもりはないって」
 と言いましたよ。はて、知らない間に職探しでもしてたのかしら。そんな素振り見えませんでしたけど。
「……じゃあ今何か仕事してるの?」
 勇者になる前は、街の自警団に所属してて、それが仕事でした。どこの道場でも相手がいなくなるほどの腕前だったんだもの、当然といえば当然ですね。
 でも王都には自警団、ありませんよ。きちんとした王国軍があるんだから、街の警備やなんかも全部軍がやってるし。見回り組に入るとか?
 考えたら勇者ってつぶしの利かない職業かもね。の前に職業か? あれ。
「仕事は終わったばっかりじゃないか」
 私が首を傾げていると、何でもないことのように言いましたよ、この人。ああ、まあ世界を救う仕事は終わったばっかりよね。でもあれって収入あるの?
 討伐の旅の間は各国で軍資金がもらえるとは聞いてたけど、もう討伐の旅は終わったものねえ。
 またしてもそれが顔に出たらしく、グレアムが苦笑してます。だって勇者稼業なんて知らないもの。
「お金の事なら心配いらないよ。世界を救ったとして俺には死ぬまで年金が出るから」
「は!? 年金!?」
 何!? 勇者ってそんな制度があるの!? 知らなかった……。てっきり世界を救った後は普通に何か他の仕事探して生きていく物だとばかり思ったわよ。
 もしかしなくても今までの勇者もそうだったのかしら……。まあ世界を救った一人を養うくらい、国としてもどうって事ないわよね。
「そう。この国だけでなく、世界を救ったとして神殿側で各国と調整して、それぞれの国から資金を調達するんだ。それをまとめて俺や一緒に戦った仲間に分配してくれるって訳。いま聞いてる金額だと年額で……」
 金額聞いてびっくりしましたよ。なんだその額。年収に換算して私の年収の十倍以上は軽くいくよ。この年にしてはいい給料もらってる身なのに、私。
 例の花飾りや蝶の飾りが流行ってくれたおかげで、店側から給料増額してもらってるんです。一人で作り出した訳ではないけど、一応一番の功労者って事で。
 しかも店周りの掃除と引き替えに部屋代無料にしてもらってるので、貯金額は結構いってます。
 なので養えない、と言ったのは口から出任せで、その気になればなんとか出来ます。そのくらいの収入はあるんですよ。
 ……この部屋追い出されてしまっては、ちょっときびしいかも知れませんが。あれだけの騒動があった後も、快く滞在を許してくれたオーガストさんには本当に感謝です。でもそれもそろそろ考えなくてはなりませんからね。
 それにしてもすごい額ですよ、勇者の年金。そりゃあ方や王侯貴族にも顧客を持つとはいえ一介の仕立屋に雇われている身、方や世界を救った英雄様ですからね。比べる方が間違ってますよね。
 ああそうだ、今月の予算使い切ったらお金、預け先からおろしてこなきゃ。いつ行こうか考えてると、いい笑顔でグレアムがいいました。
「だから安心してルイザはお嫁に来るといい」
「いやいやいや、その話はまだ納得してないから」
 私が王都に来た本当の理由を聞いたら、そんな気もなくすかも知れないんだし……。今それ言おうかしら。でもいきなり言い出すのも変ですよね。結局ふんぎりがつかなくて、言えないままです。
「何が問題? 母さんに話してないから? それなら今度の犠牲祭の時に話せばいいよ。きっと祝福してくれる」
 デリアおばさん。そうだろう。彼女は私が子供の頃からとっても可愛がってくれた人だもの。
 グレアムの母親というだけでなく、私の母の友達としても親身になってあれこれ世話を焼いてくれたし……。
 うちの両親が亡くなった時だって、呆然とする私を励ましながらも手続きや葬儀のあれこれを進めてくれたっけ。正直デリアおばさんがいなかったら、私一人じゃ何も出来なかったと思います。
 過去三回分の記憶があったって、葬儀に関する手続きだのなんだのって結構変化してますよね。そりゃ百年近くブランク開けばそうなるよな。
 にしても、犠牲祭か……。グレアムが戻らなかったら、親の墓参りにすら行けないままでした。覚悟の上ではありましたけど。
 両親の死後、勇者に選出されたにも関わらず、側にいてくれたグレアムと、デリアおばさんのおかげで全ての手続きを済ませる事が出来ました。親を亡くすのは、やはり堪えます。
 その後、長く悲しみに浸ることなく動けたのは、ある意味グレアムが勇者に選出されたからかも知れません。
 葬儀が終わって七日程で、私は行動を起こしていましたから。こっそりとですけど。
 試作品を作って地方都市へ行き、職探しをしようとしていた所に運良くオーガストさんと出会う事が出来たんです。
 きっとあの時は、動くべき時だったんだと思います。だから全てがとんとん拍子にうまく行ったんです。後の雇用条件などの詰めの話は全て手紙でやりとりしていました。よくグレアムに見つからなかったものだと思います。
 その後も遺品の整理と平行して自身の荷物をまとめました。街でも少し離れた所にある古道具屋さんに頼んで、大きい家具は引き取ってもらう算段も付けました。
 家の方も、離れた場所の不動産屋に売却する手はずを整え、そうこうするうちにグレアムの出立の日が来ました。思えば私があの街を出る前日に彼が出立する事になったのは、天の配剤だったのではとも思えます。
 二度と戻らないと誓った故郷に、帰るんですね。グレアムが私の元に帰って来た事といい、本当、故郷を出る時に思い描いていた未来とはまったく違う形になりそうです。

 その訪問者が工房に来たのは、それから二日ほど経った日でした。
「失礼します」
 言いながら裏口から入って来たのは、フード付きのマントを羽織った男性でした。フード部分を目深にかぶっているため、顔が判別できませんが、この体型にこの声で女はないでしょう。
 何だかグレアムが神殿から戻ってくる時の格好のようですね。ってかあれ? この声聞き覚えがあるぞ?
「どうしたんだ、ゴードン」
 今日も工房にいるグレアムが立ち上がって人物の方へ向かいました。ああ、ゴードンさんですか。フードの下から現れたのは、確かに彼の姿でした。いいんですかね? 近衛の人がこんな時間に街中なんかいて。
 近衛というのはその名が示す通り君主を側近くで守る存在を言います。今の時間帯なら国王陛下の側にいてしかるべきなんじゃないんですかねえ?
 あの狸な国王の側に、と思うとちょっと同情心が起きますが、この騎士も大概したたかだからどうって事ないよな。
「もちろん、勇者殿に話があっての事ですよ。陛下よりのお召しです。王宮までご同行願います」
「嫌だと言ったら?」
「今回はそんなにたいした事ではありませんよ。ただ凱旋パレードや祝勝会の予定を組みたいというだけですから」
 ほほう、パレードに祝勝会とな。パレードの方はまだしも、祝勝会に関してはうちにも需要がありますから聞き逃せませんよ。あ、よく見たらみんなの視線も輝いています。稼ぎ時ですからね。
 今から予定が組まれる祝勝会に、新しいドレスを注文する人はいないでしょうけど、手直しなら頼んでくる顧客もいるでしょう。もちろん有償です。
 今でも十分忙しいんですが、こういう稼ぎ時はどこも目の色変えますよ。ちょっと無理しても仕事を取りたいですからね。
 なのにグレアムときたら。ゴードンさんの話の内容を聞いた途端、渋い表情になってますよ。
「大仰な事はやりたくない」
「これも勇者の務めの一つと思ってください。国としても、民衆に対して脅威が去ったと、大々的に広めたいのですよ」
 確かにね。新聞で勇者が大魔王城に突入したってのは見ましたけど、勝利したってのはまだ見てないですね。それって王宮の方で情報止めてるって事?
 でも勇者がここにいるって、周囲にはこの間のでバレたと思うんだけど。大丈夫なのかしら?
「でも勇者様が王都に戻ってるって、この周囲の人ならみんな知ってるんじゃないですか?」
 エミーの問いかけに、ゴードンさんはああ、と軽い軽い調子で答えてくれました。
「あの件に関しては、勇者一行のなりきりの人達だ、という噂で片が付いたそうですよ」
 偽物って言い張ったんですか!? 無茶ありすぎるだろうに!! ……でも片が付いたという以上はみなさん、信じたんでしょうか。本当に?
 ゴードンさん見ていると、そんな無茶も笑顔一つで押し通したんだろうな、と納得できます。って別にゴードンさんが噂流した張本人って訳じゃないんでしょうけど。
 でもそうか……偽物という噂が広まったからこそ、あれ以来店の周囲に人が集まる騒動もなかった訳ですね。
 あの騒動があったからこそ、偽物情報を即座に流したといった所でしょうか。今はもう工房の窓に目隠しする必要もない状態です。
 渋るグレアムには頓着せず、ゴードンさんは笑顔で押してきます。したたかさではゴードンさんの方が上ですね。
「では勇者殿、お支度を」
「だから」
「行ってらっしゃい、グレアム。これもお仕事の一つ! よね?」
 断らせませんよ当然。ここにこのままいても何する訳でもないんだし。うちの稼ぎの元になるであろう祝勝会があるなら、それもつぶさせる訳にはいかないんだから。
 にっこり微笑んで手を振れば、観念したようにグレアムは軽い溜息を吐きました。幸せ逃げるわよ。
 よしよしとほくそ笑んでいると、仕返しとばかりに、
「じゃあ行ってくる」
 そう言うが早いか私の顎を持ち上げて、思いっきり濃いキスを仕掛けて来やがりましたよ!
 その場に残された私は、当然ながらみんなの話題の餌食となったのでした。

 凱旋パレードの予定自体は既に整っていたらしく、グレアムがゴードンさんに連れられて王宮に行った翌日に発表され、翌々日にはパレードが行われるという事でした。告知一日だけですか。
 準備も全部終わっていて、何故彼が王宮に呼ばれたかと言えば、どういう形でパレードを行うかと簡単な打ち合わせ程度の内容だったようです。
「俺らが出立してすぐ凱旋パレードの支度を進め始めてたんだと」
 帰って来てそう報告してくれたグレアムが、半ば呆れた様子でそう言いました。そういや祝勝会の支度って言って、早いうちからドレスの注文あったっけな。
 ただ今まで勇者は一度も負けた事がない事実がある以上、今回も負けるはずがないと信じての支度だったのではとも思います。
 もし万が一勇者が負けるような事があれば、遠からず人間は滅亡の道を辿ったでしょうから、パレードや祝勝会の支度を早くから仕込んでいたくらいで目くじらたてる気にもなりませんよ。
「いいんじゃない? それだけみんなに信じられてたって思えば」
「ルイザは?」
「え?」
 テーブルに肘をつき、手の上に顎を乗せる形でこちらを見ています。穏やかな表情で、ただの世間話の延長線上のような言い方です。
 その何でもない事のような口調で聞かれたのは、言葉だけなら本当に何でもない内容でした。
 思いも寄らない切り返しに、一瞬言葉に詰まりました。
「ルイザも、俺を信じてた?」
 どきりとしました。どっちの意味で言ってるんだろう……。
 勇者として大魔王を倒す、という意味では信じてました。生きて帰ってくると、心のどこかではそれは決定事項だったと思います。私の場合は経験則ですけど。
 ただ、例の約束の意味でいうなら……。今が言うべき時なんでしょうか。
「……グレアムは出来る子だから、心配はしてなかったよ」
 のど元まででかかった言葉を制して、結局こういう形で逃げました。それに対しての反応は大してなかったので、彼が望んだ答えではなかったのかも知れません。
 言わなくては、と思う反面、言った後の彼の反応が怖くて言えない状態です。今が安心出来る状態であればあるほど、口が重くなって告げるのに勇気がいるようになってしまった。
 やっぱり私は、ずるい人間です。
「さあ、明日も早いんだから、もう寝ようっと」
 私は会話を切り上げる為にも、わざと大きめの声で言いました。でもそろそろ寝る時間なのは本当です。
「なあ、ルイザ」
 ……先程までの物思いを吹き飛ばしてくれる程の無駄な艶ですよ、このエロ勇者め。声に色気がだだ漏れているぞ。名前のその先に何が続くかは想像がつきます。
 でもお断りだ!
「お・や・す・み」
 そう言って先にベッドに入ってしまえばこっちのもの。グレアムが無理強いしないのは知っているから。
 卑怯と言わば言え! 保身は大事だってーの!!

 翌日には新聞で大々的に勇者が帰還した事が告げられ、同じく王都での凱旋パレードも発表されました。また人が大勢王都へ押しかけるんだろうなあ。
 今朝もいつもと同じ攻防を繰り広げ、同じように勝利を収めた私はいつも通り工房での仕事に従事してました。
 グレアムの方は明日のパレードとその後の祝勝会が終わるまで王宮に留まることが義務づけられたらしく、帰ってくるのは明後日の昼頃になりそうだという事でした。
 出がけに離れている分と言ってキスだのなんだのされましたが、まあ今回は多めに見ておく。最後のラインは死守したし。
 昨日グレアムが王宮に呼ばれてから、続々と手直しの注文が舞い込んでいます。ははは、手直しとはいえ、これだけの数があると、残業は必至ですね。
 何せ祝勝会までには間に合わせなくてはなりませんから。時間との勝負になりますよ。
 中にはうちのではないドレスも混ざってます。ええ、よその店で作らせたドレスでも手直しもすれば飾り付けもいたしますよ? その場合少なくない持ち込み料をいただいておりますが。
 今日も今日とて手と口を同時に動かしながらのお仕事です。不思議とそこそこ忙しい時って、おしゃべりも盛り上がるんですよね。何でだろう?
「勇者様、今頃王宮かあー」
「じゃあ王女殿下と会ってるのかしら?」
「お嬢様も一緒じゃない? あ、それ言ったらちびっ子もか」
 そういや忘れそうですけど、あの二人も勇者一行の一員でしたね。話を聞く限りじゃ大した役には立ってなかったらしいけど。
「またあの二人で騒いでそうね」
「いいんじゃない? 喧嘩するほど仲がいいっていうから」
 ……あの二人にその言葉を当てはめてもいいもんなんですかねえ? 首を傾げざるを得ませんよ。
「そういやお嬢様はともかく、ちびっ子って友達いなさそうだもんね」
「お嬢様もあの思い込み激しいって話が本当なら、友達少ないんじゃない?」
 ああ、さもありなん。巨乳ちゃんの空気読めなさ加減とか、ちびっ子の誰彼構わず攻撃性を見せるあの態度とか、言われてみれば納得できますよ。
「ルイザは心配じゃないの?」
「はい?」
 いきなりのご指名に、本気でびっくりしました。何がどうして私の名前が出てくるんだ?
「だから! 王宮で勇者様、王女殿下だのお嬢様だのちびっ子だのと一緒な訳でしょう? 取られちゃわないか、心配じゃないの? って言ってるの!」
 ああ、そういう意味ですか。
「お嬢様達だけでなく、他の貴族のご令嬢とか王宮に出入りが許されている連中の注目の的だもんね、勇者様。身分の差とか、彼に関しては許されそうだから、どこのご令嬢方も狙ってるって噂だしね」
 昔からその手の話は多かったからなあ。まあ今はその相手がやんごとなきお立場のお嬢さんに変わったってだけで、奴の周囲に女がいなかった試しはないんだ。本人はその全てに無関心で通してたけどね。
 今回は……どうなんだろう。巨乳ちゃんとかちびっ子は、曲がりなりにも一緒に旅をした仲だし、王女殿下は一国の王女様でこれ以上の身分の方はいないだろうし。
「心配……という面でなら、帰ってくるかどうかの方が心配だったからね……」
 嘘です。心配ではなく帰って来ないと思ってました。いや、討伐は無事終えると思ってましたけどね。
 だからこそ、あの時、工房にグレアムが入って来た時には驚き過ぎて、頭の中が真っ白になりましたよ。
 そういえばあの衝撃の日から、まだ十日も経っていないんですね……。何だかもっと経ってるような気分です。
「そうよね……いくら勇者様とはいえ、大魔王討伐だもんね……無事で帰ってくるまで心配だったよね」
「うん、私がルイザの立場だったらって思うとやっぱり心配になるよ」
 周囲は良い感じに勘違いしてくれてるようなので、そのままにしておきます。

 晴れ男グレアムの面目躍如と言わんばかりの晴れ渡った空の元、凱旋パレードは行われました。
 出立パレード同様、沿道には多くの人が詰め掛け、歓声も凄いです。前回の教訓から、私はみんなと人の少ない穴場へと行くことにしました。例の壁の上です。
「今回も来れて良かったわねー」
「他に人もいないしね」
「ここって本当にいい穴場よね」
「うわあ……人が一杯……」
 壁の上からは大通りが一望出来ます。ここは東門近くの壁の上ですから、遠くに見えるのは西門ですね。その方向からパレードが王宮に向けて大通りを行進してくる訳です。
 私たちが壁の上に到着してまもなく、西門の方からパレードが始まりました。先導するのは騎士団の中でも下位に位置する騎兵隊です。でも騎士団自体が軍の上層部に当たりますからね。
 整然とした馬の列の後ろにまずゴードンさん、その後ろに巨乳ちゃん、ちびっ子と続いて、最後にグレアムが例の白馬に乗って通ります。
 彼らが着ているのは、出立の時に着ていたのと同じものです。グレアムも例の甲冑を身につけています。あれ、勇者の正装なのかしら?
 ゴードンさんは多分騎士の正装、巨乳ちゃんは魔導師のローブ特別仕立て、ちびっ子は灰色の法衣です。
 沿道の人の歓声は今や割れんばかりです。遠目にも巨乳ちゃんやゴードンさんが手を振って観衆に応えているのがわかります。ちびっ子は相変わらず真正面を向いたままのようです。愛想ぐらい振りまけばいいのに。
 グレアムも正面を向いたままお愛想の一つもする気配がありません。まあ彼の場合はあの場にいるだけでも良しとしておきましょう。
 実は半分くらい当日になったらバックレるんじゃないかと心配してたんですけどねえ。良かった、大人な対応してくれて。
 こんな所にも国の威信とやらが現れますからね。この模様は各国の新聞社に記事として配られるでしょうから。


 とにかくパレードが無事に終了してくれて良かった。


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