いきなりですが、勇者って、どんな存在だと思いますか? 世界を救う英雄? 悪い魔物を退治する人? 人類の絶対的な守護者?
どれも当てはまりそうですけど、私にとっては『女の敵!』以外の何者でもありません!!
私、ルイザ・アトキンソンは普通の娘です。特別美人でもないし王侯貴族の生まれでもない。生まれつき特殊な能力に秀でている訳でも、特別頭がいい訳でもない。
でもちょっと普通じゃないところがあります。前世三回分の記憶があるんです。はいそこ! 今嘘だー、とか思ったでしょ!? 本当なんですよ! 証拠はないけど。
そりゃあ私だって他人がそう言ったら嘘だと言いますよ。自分以外に前世の記憶、それも三回分も持っている人なんて、聞いた事ありませんから。
そして何の因果か、その三回の人生で勇者と恋仲になったんです。三回ともですよ? すごい確率じゃないですか?
でもその後が悪い。彼らは旅立つ時必ず私に言うんです。
「必ず生きて帰ってくるから、それまで待っていてくれ」
ほぼ同じ内容です。三人が三人とも、そう言って旅立ちました。でも!
一人目は自国の王女と結婚。
二人目は一緒に旅をした聖女とわりない仲に。
三人目に至っては同行した女神官と出来ちゃった結婚ですよ!
私が『女の敵!』と言うのも、おわかりいただけるかと思います。あの連中に関しての恨み辛みを言い始めたら一日二日じゃ足りないので言いませんが、とにかく勇者なんてものは信じちゃいけません。
なのに。ああ、なのに! 今度こそ大丈夫だろうと思っていた今生の恋人、グレアムまでが勇者に選出されるってどういう事ですか! 女神様! 私そんなに悪い事したんですか!? 覚えがないんですけど!
そんなグレアムも大魔王を倒しに旅立っていきました。先程と同じ言葉を残して。でもね、人生四回目、勇者と関わるのも四回目となれば、少しは知恵もつくんですよ。待ったりする気、さらさらありませんからね!
彼が旅立ってすぐ、私も故郷を離れました。わざわざ故郷から出ることもないだろうって? チッチッチ、甘いな。
私とグレアムはこの広くないけど狭くもない街中で、隣同士で生まれ育った幼なじみなんです。当然周囲のおじさんおばさんじいちゃんばあちゃんみんなが二人の間柄を知っています。
そんな中、旅を終えて帰ってきたグレアムの隣に、私以外の女がいたらどうなると思います?
あっという間に私は『勇者に捨てられた女』という事になってしまって、同情とそれ以外の何かが含まれた生温い視線にさらされる事になるんですよ。耐えられますか? そんな事。私はごめんです。
なので故郷脱出です。不幸は重なるもので、グレアムが勇者に選出される少し前に、私の両親は魔物に殺されてしまいましたから、私を故郷に縛り付けるものは何もないんです。
丁度良い具合に王都に職も見つかったので、この際ですから王都へ出ようと思っています。
初めての王都は、何もかもが目新しく、新鮮に感じられました。ここまで来るのに地方都市で幼なじみのフェリシアに、
「あんたがいないのを帰ってきたグレアムが知ったら、草の根分けてでも探し出すわよ」
なんて脅しを受けましたけど、大丈夫です。彼が帰ってくる頃には、その隣に今回のお相手が立っているでしょうから。
王都で私が働くのは『エドウズ商会』という所です。オーダーメイドのドレスを中心に扱っている店で、私がやるのはドレスの飾り製作です。
店の上に住むので家賃はかかりませんし、仕事は楽しいしで言う事なしです。工房のみんなともうまくやっていけそうです。
そんな王都生活を始めた矢先、勇者の出立パレードをやるという報せが入りました。工房のみんなが行くので私も行かざるを得なくなり、渋々ながらも行きましたよ。
パレードには今回の勇者一行も参加していました。国一番の剣の腕と言われる騎士、公爵令嬢で国一番の魔導の才を持つ魔導師、ちっちゃいのにこれまた高位の女神官。今回はこの魔導師と女神官でグレアムを争うのかしら。
途中ちょっと気持ち悪くもなったりしましたけど、無事パレードは終了しました。グレアムの視線がこちらに来たような気もしましたけど、気のせいですよ気のせい。
その後も祭りがあったり新人が入ったり王宮に行って王女殿下にお会いしたり辞めた新人が泥棒に入ったりしましたが、なんとか元気に過ごしています。
冬の大祭、降臨祭。そこに会わせて工房の仲間の一人、アリエルが結婚する事になりました。この頃は私もちょっと考えを改めて、家庭を持つのもいいんじゃないかなあ、とか思い始めました。
王都の降臨祭にはフェリシアも来ました。生まれた赤子を連れて。小さな赤ん坊は可愛いですねえ。こんな子を見ていると、自分も欲しくなるから不思議です。
結婚式は、独身者にとっては出会いの場になったりもします。なので私も少し期待してみようかと思います。
と思っていたら、近所の寝具店の店員さん、パトリックさんからお誘いを受けてしまいました。これも出会い?
でもお試しで、と思って行った植物園デートは、失敗に終わりました。何かが違う、と思ってしまったら、もうそこから先へは気持ちが動きません。
無理はしないでおこう。そう思います。最初から一人で生きていくつもりだったんですから、だめならだめで当初の予定通りになるだけです。
冬が終わり、春がもうそこまで来ていると感じられるある日、工房の裏口が騒がしくなりました。
青い顔で私を呼ぶアリエルに、何事かと思ったら、あり得ない人物がそこに立っていて、あっという間に私のいる場所までくると、その広い胸の中に閉じ込めてしまいました。
てか、グレアム!? なんで勇者がここにいるの!?
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