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【暮らし】

少子化対策で妊娠、出産の啓発 「女性手帳」に批判相次ぐ

「女性手帳」に反対するグループが開いた会合=東京都文京区で

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 内閣府の「少子化危機突破タスクフォース」が、少子化対策の一つとして提案した「生命(いのち)と女性の手帳(仮称)」。妊娠や出産にまつわる知識を知らせる目的で、来年度からの配布を目指す。一方、専門家や女性たちからは「女性の自己決定権を侵害する」などと批判が相次いでいる。このため政府は、男性を含めた希望者に限定して配布する方針を固めた。(稲熊美樹)

 内閣府によると、検討されている「女性手帳」は二部構成。妊娠適齢期など妊娠や出産に関する知識や、妊娠、出産の支援に関する情報を載せる「啓発・学習」と、健康データなどを書き記す「記録」の機能を盛り込む。高校・大学の入学時や成人式など、複数回の配布を想定している。

 タスクフォースのメンバーの一人、国立成育医療研究センター不妊診療科の斉藤英和医長は、不妊治療に長年携わってきた。受診する夫婦の多くは四十歳前後。「年を取ると妊娠しづらくなるなんて知らなかった」と、後悔する患者を多く見てきた。医学雑誌「Human Reproduction」に今年掲載された調査によると、日本は他の先進国に比べ、妊娠に関する知識の習得度は低い。

 こうした現状を踏まえ、斉藤医長は「男性にも女性にも、体には妊娠適齢期がある。正しい医学的情報を知り、どう人生を設計するかのヒントにしてほしい。産むか産まないかの選択は、情報を知った上ですればいい」と考えている。そこで生まれたのが「女性手帳」の案。女性だけでなく、男性にも同じように知識は必要で、対象を女性だけに限定する意図ではないという。

 斉藤医長は「現代は若いうちに産み育てることが難しく、知識を普及しただけで子どもが増えるわけではない」と強調。待機児童の解消や、長時間労働や非正規雇用といった働き方の是正など、社会基盤の整備や、学校での性教育の重要性も指摘する。

     ◇

 専門家らからは異論が相次いでいる。インターネット上で関西地方の女性を中心に結成した「全日本おばちゃん党」は、「身体や心のコンディションや経済的な事情で、産みたくても産まれへん人もいっぱいいてはりますやん」などと声明を発表。産科医療不足や男性の育休取得者が増えない現状も、改善を求めている。

 十九日には東京都内で「『女性手帳』に反対する緊急ミーティング」が開かれた。人工妊娠中絶を罰する刑法の条文撤廃を求める「SOSHIREN女(わたし)のからだから」は、「産むこと、産まないことの選択や、自らの性/生をどのように生きるかを選択する女性の自己決定権を侵害する」と、反対を表明。

 参加した約六十人からも「夫婦と子どもという伝統的な家族像の押しつけだ」「入社後すぐ、実績もないうちに育児休業を取るのは現状では無理」「教育費が高く、共働きでも収入が足りないから産まない」「セクシュアルマイノリティー(性的少数者)への配慮がない」「婚外子差別が残っていて産みづらい人もいる」などと意見が出た。

 同志社大大学院グローバル・スタディーズ研究科の荻野美穂教授は「第二次大戦中の『産めよ殖やせよ』政策を思い起こさせる」と話す。「今回はうたい文句が『卵子老化』に変わっただけ」と分析。出生前診断の技術進歩も併せて考えると、政府による知識の普及は「単なる善意ではなく押し付けだ」と批判する。

 来年度からは高校二年生を対象に妊娠可能性の教育が始まる予定。性教育に詳しい産婦人科医の河野美代子さんによると「日本ではセックスさせないための教育ばかりがされてきた」という。体の仕組みをきちんと教える正確な性教育があれば「わざわざ手帳を作る必要はない」と話す。

 

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