そこが聞きたい:水俣病最高裁判決の意義 山口紀洋氏
毎日新聞 2013年05月22日 東京朝刊
まず企業を守ろうとする行政の姿勢です。チッソは補償を担う親会社と事業を担う子会社に分離され救われました。東京電力もこれほどの被害を引き起こしながら潰すという話になりません。「加害者」が被害者認定をする点も同じです。水俣病の場合は04年判決で国も県も明確に加害者とされたわけです。その加害者が今も患者認定を担っています。そんなばかな話があるでしょうか。
◇聞いて一言
大規模な弁護団を組まず、「ブレーン」と呼んで全幅の信頼を置くボランティアの仲間と共に訴訟を闘ってきた山口弁護士。行政の対応と司法の判断を舌鋒(ぜっぽう)鋭く批判する姿からは強い正義感と揺るぎない信念がにじんだ。公式確認から57年が経過し既に多くの患者が亡くなった。もはや行政の失態は明らかで、速やかに柔軟な対応を取ることが求められると改めて思う。と同時に、福島第1原発事故が、終わらぬ水俣病問題と重なり、被害補償をはじめとした行く末に大きな不安を感じた。
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■ことば
◇1 最高裁が示した判断
国が1977(昭和52)年に定めた水俣病認定基準(52年判断条件)は感覚障害や運動失調など複数症状の組み合わせを患者認定の要件とし、感覚障害しかない場合、行政は申請を棄却してきた。だが、判決は「感覚障害だけの水俣病が存在しない科学的実証はない」として、複数症状の組み合わせがない場合でも水俣病と認定する余地があると指摘。52年判断条件の柔軟な運用を促した。
◇2 水俣病関西訴訟
熊本、鹿児島両県から関西に移住した未認定患者が、排水を垂れ流したチッソのほか国と熊本県に賠償を求めて82年以降順次提訴。大阪高裁は01年、3者に賠償を命じ、チッソは上告を断念。最高裁は04年、「排水規制を怠った」として国と県の責任を認めた。
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■人物略歴
◇やまぐち・としひろ
1940年東京都生まれ。72年弁護士登録。水俣病問題をはじめ、数多くの公害訴訟や薬害訴訟に関わった。日蓮宗僧侶でもある。