敵の弾道ミサイル基地などを攻撃できる能力を、自衛隊が持つことを検討する――。自民党の国防部会・安全保障調査会が、こんな提言をまとめた。すみやかに結論を出し、政府が年内に[記事全文]
福島第一原発事故は続いている。被害の全体像はまだつかめない。それなのに、賠償を求める権利は来年3月以降、時効を迎えるのか。被災地にのしかかる疑念である。権利を侵されて生[記事全文]
敵の弾道ミサイル基地などを攻撃できる能力を、自衛隊が持つことを検討する――。
自民党の国防部会・安全保障調査会が、こんな提言をまとめた。すみやかに結論を出し、政府が年内に策定する新防衛大綱に反映させたいという。
北朝鮮によるミサイル攻撃への対処などを念頭に置いたものだろう。
だが、これではかえって地域の不安を高め、軍拡競争を招くことにならないか。そんな危惧を抱かざるを得ない。
日本の安全保障政策は、専守防衛が原則だ。自衛隊は「盾」として日本防衛に徹し、米軍が「矛」として攻撃を担うという役割分担を前提にしている。
安倍首相は「盾は自衛隊、矛は米軍で抑止力として十分なのか」と語る。米軍に頼るだけでなく、日本も「矛」の一部を担うべきだという主張である。
北朝鮮のミサイル問題や核実験に加え、中国の海洋進出も活発化するなど日本を取り巻く情勢は厳しさを増している。そうした変化に合わせて、防衛体制を見直すのは当然のことだ。
しかし、自衛隊が敵基地をたたく能力を持つことが、本当に日本の安全を高めることにつながるのか。
政府見解では「相手がミサイルなどの攻撃に着手した後」の敵基地攻撃は、憲法上許されるとしている。一方、攻撃の恐れがあるだけで行う「先制攻撃」は違憲との立場だ。
とはいえ、日本が敵基地攻撃能力を持てば、周辺諸国から先制攻撃への疑念を招くのは避けられない。
装備や要員など態勢づくりの問題もある。
自民党内では、戦闘機への対地ミサイルの搭載や、巡航ミサイルの配備などが検討されているようだが、それで済むほど単純な話ではない。
北朝鮮のノドン・ミサイルは山岳地帯の地下に配備され、目標の把握すら難しい。情報収集や戦闘機の支援態勢などを考えれば、大掛かりな「矛」の能力を常備することになる。
その結果、各国の軍拡競争が激化し、北東アジアの安全保障環境を一層悪化させる懸念すらある。財政的にも現実的な選択とは思えない。
安倍政権は、集団的自衛権の行使容認や、憲法9条改正による国防軍の創設をめざす。敵基地攻撃論は、そうした動きと無縁ではあるまい。
いま必要なのは、ぎくしゃくした周辺国との関係を解きほぐす外交努力である。無用の緊張を高めることではない。
福島第一原発事故は続いている。被害の全体像はまだつかめない。それなのに、賠償を求める権利は来年3月以降、時効を迎えるのか。被災地にのしかかる疑念である。
権利を侵されて生じた損害の賠償を求める権利は、3年間で時効により消える。そう民法が決めているからだ。
だが原発の巨大な事故は、3年の時効が想定していない事態だ。今回はこの考えを当てはめることはないと、法律によって明確にすべきだ。
被害にあった人はまず、東京電力に賠償を求める。事故後、東電は約16万人に補償金を仮払いした。金額に納得できなければ、原子力損害賠償紛争解決センター(原発ADR)に和解を仲介するよう申し立てる。そこでも不調なら訴訟、というのがおもな賠償の流れである。
時効対策として政府が出した特例法案が衆院を通過し、参院に送られた。時効が成立する前に原発ADRに申し立てていれば、ここで和解できなくても、その後1カ月は裁判を起こせるようにするという内容だ。
これでは賠償を受けられない人が相次ぐ事態を防ぐには足りず、混乱もおこしかねない。
原発ADRは11年9月にできた。昨年末までで約1万3千人の申し立てにとどまる。広く知られて活用されているとはいえない。申し立てをためらう、避難生活でそれどころではないといった事情で、賠償を受けられなくなる人は出ないか。
ADR側の受け入れ態勢も十分ではない。審理に平均8カ月かかる。特例法案によって駆けこみの申請がふえれば、さらに長期化も予想される。
将来に問題になるかもしれない健康被害や、風評被害などへの賠償の可能性は、きわめて不安定な状況におかれてしまう。
東電は2月に、「時効の完成をもって一律に賠償請求を断ることは考えていない」と表明した。だが、この言葉は後の裁判で被災者に何かを約束するものにはならない。
すべての被災者が十分な期間にわたって賠償を請求する権利を使えるよう、時効について必要な措置をとることを、衆院の委員会は政府に求めた。
時効の制度の背景には、使うべき権利を使わぬ者は保護しないという考えがある。これは、家を奪われ、生活の立て直しに追われている被災者にあてはまらないのは明らかだ。
時効を使うべきか、その期間をどうはかるべきなのか。原発事故の今後を見すえて対策をとるべきだ。