Inside Russia

日立製原発に反対したリトアニア 「日本の原発は危険」 背景にあったロシアのプロパガンダキャンペーン

関屋泉美 (せきや・いずみ)

ロシア在住ジャーナリスト。

Inside Russia

2011年12月の下院選挙以降、度々起こった反政権デモが話題となっているロシア。国内で今何が起き、国民は何を感じているのか。日本ではなかなか得られない情報でありながら、日本人が知っておくべきことを、ロシア在住のジャーナリストが詳細にレポートする。

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 しかし、この原子炉はチェルノブイリ型という安全性への疑念が常についてまわった。結局、リトアニアは欧州連合(EU)の加盟決定と同時に、この原発の稼働停止を決定する。EUが、チェルノブイリ型原発を保有しないことを加盟の条件にしていたためで、2004年に1号機、09年に2号機が閉鎖された。

 その結果、この国で起こったのは、ロシア産天然ガスの依存が高まったことと、電気料金が「EU加盟国でも最高レベル」(地元住民)に跳ね上がったことだった。2012年の段階で、光熱費はかつての6倍以上。冬の長い同国にとって、暖房費の値上げは生活にこたえる。そして、エネルギー源のロシアへの依存度はいつのまにか80%にもなっていた。

 ロシアが不当に、ガス価格をつり上げている――。リトアニア政府は法的手段に出る。10月、ストックホルムの仲裁裁判所に、余分に支払ったガス代1500億円を取り戻そうと、損害賠償訴訟を起こした。

 原発国家であることを捨てた代わりに、表面化したのは国民の生活が著しく苦しくなったことだった。EUに加盟したが故、電力の生命線をロシアに握られるという皮肉な結末。リトアニアにとって、新たな発電所が必要となったのは言うまでもない。同政府は、イグナリナ原発の経験や人材を有効活用するために、人口が最盛期の3分の2まで落ち込んだビサギナスを再度、原発の街にしようとしたのである。

 2007年、リトアニアは新原発を作る方針を決定した。

「ロシアのプロパガンダ情報戦略」

 バルト三国は、ソ連併合からの独立という共通の歴史を持つ。しかし、ラトビアの大臣が、よその国の国民投票の結果に、「ロシアの勝利だ」と漏らしたことには、さらなる状況説明が必要となる。

 ロシアへのエネルギー依存を下げたいバルト国家にとって、厄介な存在は、まるで血管のようにロシアとつながっているガスパイプラインだけではない。独立から20年たった今も、送電網はソ連式で、欧州の統一送電網とリンクされていないのだ。つまり、EUに加盟したバルト三国のほとんどの地域は欧州からの電力供給を受けることができず、まだ「ソ連の状態」から抜け出せていないのである。

 イグナリナ原発の閉鎖への痛手は、ソ連時代にこの原発から電力供給を受けていたリトアニアの西のカリーニングラード州、東のベラルーシも同様だった。電力不足に陥った両国は、ロシアの国営原子力企業ロスアトムが主体となって、原子力発電所の建設計画を立てた。その予定地もリトアニアとの国境に近いわずか十数キロの地域に設定された。

 “ソ連のくびき”から外れたいリトアニア人にとって、ロスアトムの2つの計画は、「ビサギナス原発つぶし」に映った。

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