生活保護予算の99.5%は適正に執行されている—「不正ゼロ」主義の問題点

2013/05/22


法改正の話もあり、生活保護の話が気になっています。


99.5%は適正に執行されている

生活保護に関しては正しい認識が持たれていない印象があります。特に、不正受給は実は0.5%に過ぎないということを、どのくらいの人が知っているのでしょう。いいかえれば、99.5%は適正に執行されているんですよ。

 11年度の生活保護費は総額で約3兆5千億円。不正受給が全体に占める割合は0・5%(前年度0・4%)。不正受給額の増加の理由について厚労省は、受給者が増えて保護費そのものが増えたことに加え、自治体福祉事務所による収入調査が進んできた影響と分析している。

 不正の内訳は、就労で得た収入の無申告が最も多く45%。年金の無申告が25%と続く。このほか、親族から得た仕送りを申告していなかったり、交通事故の示談金を申告していなかったりした事例があった。不正が見つかったきっかけで多かったのは、自治体による照会や調査で90%だった。
朝日新聞デジタル:生活保護不正受給、最多173億円 11年度、1万件増 – 経済・マネー


不正ゼロはありえない

99.5%が適正に執行されている、これはかなり良いパフォーマンスなのではないでしょうか。

不正受給は法の力をもって裁くべき悪事ですが、これはいじめと同じで、決して「ゼロ」にすることができないものです。本気でゼロにできると思っている人は、世界の認識を見誤っているお間抜けな楽観主義者です。


不正受給は少なければ少ないほど良いのは間違いありません。が、それを減らそうと思ったとき、弊害が発生することも忘れてはいけません。

今回の法改正はまさにその動きであり、不正受給を減らそうとするあまり、肝心のセーフティネット自体を「頼れないもの」にしようとしています。ここで語ると字数が消費されてしまうので、詳しくは問題点を整理した、もやいの稲葉さんの記事をぜひ。

 関連書類の添付が法律で義務付けられれば、こうした場合、「添付すべき書類を持参していない」という理由で申請できなくなる恐れがあります。生活の拠点を失うくらい困窮度の高い人ほど、申請が困難になるという状況が生まれかねません。

「水際作戦」を合法化させる生活保護法「改正」法案(稲葉剛) | BIG ISSUE ONLINE


「不正ゼロ」主義の害悪

生活保護問題に限らず、「不正をゼロ」するという理想主義は、それを突き詰めれば突き詰めるほど、現実的な害悪となって現れます。

難しい話ではありません。みなさんの会社で、長ったらしい手続きってありませんか?書類ひとつ出すのに上司のハンコが4つくらい必要だったり。

なぜそういうめんどくさい仕組みができあがるかといえば、それは「不正を防ぐため」です。みなさんが会社の資産を搾取しないよう、目を光らせた結果なわけですね。みなさんは常時疑われているので、会社が認める正式な手続きを踏まないと先に進めないのです。


役所の手続きが煩雑なのもここにあります。ぼくらは役所に「不正をゼロにしろ」という圧力をかけています。ゆえに、彼らは不正を減らすために、実にめんどくさい手続きをぼくらに課します。

ここでの力学は、「役所がめんどくさい手続きを好んでいる」のではなく、「厳格な手続きをするよう、市民が仕向けている」わけですね。

これはユートピアですが、もしも、すべての市民が「ある程度の不正は仕方ないものだし、役所のみなさんを信頼するよ」と語りかけるのなら、役所の手続きは今よりもずっと簡便になるでしょう。


不正を減らすためには、コストが掛かります。そして、不正をゼロにすることは基本的に無理です。この二つの真理を忘れて「不正受給を撲滅せよ!」と語ることは、蒙昧もいいところです。

すでに99.5%の水準まで来ているのですから、不正受給をこれ以上減らしたいと願う人は、しっかりとその負のコストも計算すべきでしょう(もっとも、人の命が絡んでいるのでコスト計算は不可能かもしれませんが…)。

感情に任せて「不正を減らせ!」と叫ぶだけでは、今回の法改正のように、世の中は悪い方向に向かっていくだけです。


そりゃぼくも、生活保護の不正受給のニュースを見て、いい気分はしません。今日もこんなニュースがありました。

福岡県中間市の生活保護不正受給事件で、福岡県警は19日、北九州市八幡西区浅川学園台1、中間市職員で元福祉事務所保護課係員、藤崎靖彦容疑者(44)を詐欺容疑で逮捕した。一連の事件で逮捕された市職員は3人目。

生活保護不正受給:福岡・中間市職員3人目の逮捕- 毎日jp(毎日新聞)

でもそれは、あらゆる事件と同じレベルでの不快感です。生活保護だろうが、殺人事件だろうが、外交問題だろうが、ネガティブな事件を見ていい気分はしないものですから。犯罪は憎むべきで、減らしていくべきです。でも、ゼロにすることはできないという達観は、常にもちつづけるべきです。


ぼくの主張に対しては、「不正受給は氷山の一角だ!」という批判もありえるでしょう。2chでよく見ますね。

そう考える人は、ぜひ生活保護問題の識者や統計の専門家を巻き込んで、「不正受給の実態調査」をしてみてください。今はクラウドファンディングもありますし、賛同する人集まるんじゃないでしょうか?ぼくも5,000円くらいは拠出しますよ。

放射能の問題もそうですが、「国の調査が信用ならん!」と言っていたらキリがありません。そもそも、不正がゼロにならないのと同じように、調査にはある程度の誤差があるものです。「実は30%が不正受給だった!」なんてことはまずありえないでしょうし、ぼくは国の調査を信用します。


みなさんは生活保護の不正受給についてどう考えますか?

ぼくは99.5%が適正に執行されているのなら、これ以上減らすのは難しいと思いますし、弊害も大きいと考えます。みなさんのご意見をください。


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