[トップページ] [平成11年下期一覧][Media Watch][070.15 「従軍慰安婦」問題][221 韓国][224 インドネシア][319 国際謀略]


         _/    _/_/      _/_/_/  Media Watch: 「従軍慰安婦」問題(下)
        _/  _/    _/  _/               〜仕掛けられた情報戦争〜
       _/  _/    _/  _/  _/_/                           13,284部 H11.10.02
 _/   _/   _/   _/  _/    _/  Japan On the Globe(107)  国際派日本人養成講座
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■1.強制を示す文書はなかった■

   宮沢首相は、盧泰愚大統領に調査を約束し、その結果が、4)
  (前号)、翌平成5年8月4日の河野官房長官談話となった。政
  府調査の結果、「甘言、弾圧による等、本人たちの意思に反して
  集められた事例が数多くあり、更に、官憲等が直接に荷担したこ
  ともあった」と発表され、慰安婦強制連行があったことは、政府
  の公式見解となった。
  
   この発表のために、政府はおおがかりな文書調査と、元慰安婦
  への聞き込みを行った。前号冒頭に紹介した米軍の報告書も、こ
  の文書調査で発見されたものだ。それでは、いかなる事実によっ
  て「官憲等が直接に荷担した」と結論づけたのか?
  
   この調査を実施した平林博・外政審議室室長は、平成9年1月
  30日、参議院予算委員会で、片山虎之助議員(自民党)の質問
  に対し、次のような答弁をしている。[3,p204]

     政府といたしましては、二度にわたりまして調査をいたしま
    した。一部資料、一部証言ということでございますが、先生の
    今御指摘の強制性の問題でございますが、政府が調査した限り
    の文書の中には軍や官憲による慰安婦の強制募集を直接示すよ
    うな記述は見出せませんでした。
    
     ただ、総合的に判断した結果、一定の強制性があるというこ
    とで先ほど御指摘のような官房長官の談話の表現になったと、
    そういうことでございます。
    
■2.総合的に判断した結果■

   資料はなかったが、「総合的に判断した結果」、強制性があっ
  たという。この判断の過程について、当時、内閣官房副長官だっ
  た石原信雄氏は、次のように明らかにしている。
  
     強制連行の証拠は見あたらなかった。元慰安婦を強制的に連
    れてきたという人の証言を得ようと探したがそれもどうしても
    なかった。結局談話発表の直前にソウルで行った元慰安婦十六
    名の証言が決め手になった。彼女達の名誉のために、これを是
    非とも認めて欲しいという韓国側の強い要請に応えて、納得で
    きる証拠、証言はなかったが強制性を認めた。
    
     もしもこれが日本政府による国家賠償の前提としての話だっ
    たら、通常の裁判同様、厳密な事実関係の調査に基づいた証拠
    を求める。これは両国関係に配慮して善意で認めたものである。
    元慰安婦の証言だけで強制性を認めるという結論にもっていっ
    たことへの議論のあることは知っているし批判は覚悟している。
    決断したのだから弁解はしない(櫻井よしこ「密約外交の代
    償」「文塾春秋」平成9年4月)[3,p58]

   元慰安婦からの聞き取り調査は、非公開、かつ裏付けもとられ
  ていないと明かされいるが、そうした調査の結果、「韓国側の強
  い要請」のもとで「納得できる証拠、証言はなかったが強制性を
  認めた」ものなのである。
  
   聞き取りが終わったのが7月30日。そのわずか5日後の8月
  4日、河野談話が発表された。同日、宮沢政権は総辞職をした。
  まさに「飛ぶ鳥跡を濁して」の結論であった。

■3.日本の言論機関が、反日感情を焚きつけた■

   「強い要請」を行ったという韓国政府の態度について、石原氏
  は国会議員との会合で次のように語っている。

     もう少し補足しますと、この問題の初期の段階では私は韓国
    政府がこれをあおるということはなかったと。むしろこの問題
    をあまり問題にしたくないような雰囲気を感じたんですけれど
    も、日本側のいま申した人物がとにかくこの問題を掘り起こし
    て大きくするという行動を現地へいってやりまして、そしてこ
    れに呼応する形で国会で質問を行うと。連携プレーのようなこ
    とがあって、韓国政府としてもそう言われちゃうと放っておけ
    ないという、そういう状況があったことは事実です。[4,p314]

   この「いま申した人物」について、石原氏は「ある日本の弁護
  士さん」として、名前は明かしていない。
  
   慰安婦問題は、日本の一部の人間が焚きつけた、という認識は、
  韓国側の盧泰愚大統領の次の発言にも、見られる。
  
     日本の言論機関の方がこの問題を提起し、我が国の国民の反
    日感情を焚きつけ、国民を憤激させてしまいました。(文芸春
    秋、H5.3 )[1,p302]

■4.インドネシアに現れた日本人弁護士たち■

   日韓関係と同様、インドネシアとの間でも、慰安婦問題が焚き
  つけられた。平成5年に高木健一氏(金学順さんらの日本政府に
  対する訴訟の主任)ら、日本の弁護士3人がインドネシアにやっ
  てきて、地元紙に「補償のために日本からやってきた。元慰安婦
  は名乗り出て欲しい」という内容の広告を出した。[5]
  
   兵補協会のラハルジョ会長は、「補償要求のやり方は、東京の
  高木健一弁護士の指示を受け」、慰安婦登録を始めた。会長は取
  材した中嶋慎三郎ASEANセンター代表に対して、「慰安婦に2百
  万円払え」と怒号したというから、名乗りでれば、2百万円もら
  えると宣伝している模様であった、と言う。
  
   インドネシアでの2百万円とは、日本なら2億円にも相当する
  金額なので、大騒ぎとなり、2万2千人もが元慰安婦として名乗
  りをあげた。ちなみに、当時ジャワにいた日本兵は2万余である。
  
   この様子を報道した中京テレビ製作のドキュメンタリー「IA
  NFU(慰安婦)インドネシアの場合には」に、英字紙「インド
  ネシア・タイムス」のジャマル・アリ会長は次のように語った。
  
     ばかばかしい。針小棒大である。一人の兵隊に一人の慰安婦
    がいたというのか。どうしてインドネシアのよいところを映さ
    ない。こんな番組、両国の友好に何の役にも立たない。我々に
    は、日本罵倒体質の韓国や中国と違って歴史とプライドがある。
    「お金をくれ」などとは、360年間、わが国を支配したオラ
    ンダにだって要求しない。

■5.慰安婦番組での仕掛け■

   ちなみに、この番組では、元慰安婦のインタビュー場面が出て
  くるが、ここでも悪質な仕掛けがあった。元慰安婦が語る場面で、
  日本語の字幕で
  
     戦争が終わると日本人は誰もいなくなっていたんです。私た
    ちは無一文で置き去りにされたんです。
    
   と出ているのだが、実際には、インドネシア語で、
  
     あの朝鮮人は誰だったろう。全員がいなくなってしまったん
    です。私たちは無一文で置き去りにされたんです。
    
   と話していたのであった。慰安所の経営者は朝鮮人であり、戦
  争が終わると、慰安婦たちを見捨てて、姿をくらましたのである。
    
■6.あなた方日本人の手で何とかしてください■

   この番組の予告が、日本共産党の機関紙「赤旗」に出ていたこ
  とから、インドネシア政府は、慰安婦問題の動きが、共産党によ
  り、両国の友好関係を破壊する目的で行われていると判断したよ
  うだ。
  
   スエノ社会大臣が、すぐにマスコミ関係者を集め、次の見解を
  明らかにした。
  
    1) インドネシア政府は、この問題で補償を要求したことはな 
       い。
    2) しかし日本政府(村山首相)が元慰安婦にお詫びをしてお
       金を払いたいというので、いただくが、元慰安婦個人には
       渡さず、女性の福祉や保健事業のために使う。
    3) 日本との補償問題は、1958年の協定により、完結している。

   インドネシア政府の毅然たる姿勢で、高木弁護士らのたくらみ
  は頓挫した。この声明の後で、取材した中嶋氏は、数名のインド
  ネシア閣僚から、次のように言われたという。

     今回の事件の発端は日本側だ。悪質きわまりない。だが、我
    々は日本人を取り締まることはできない。インドネシアの恥部
    ばかり報じてインドネシア民族の名誉を傷つけ、両国の友好関
    係を損なうような日本人グループがいることが明白になった。
    あなた方日本人の手で何とかしてください。

■7.国内で急速に冷める関心■

   地道に調査を進める人々の努力により、奴隷狩りのような強制
  連行の事実はないことが明らかになると、さすがに慰安婦問題を
  糾弾する人々の間でも、強制性の定義を修正せざるを得なくなっ
  てきた。たとえば、糾弾派の中心人物である吉見義明・中央大学
  教授は、岩波新書の「従軍慰安婦」で、次のように述べている。
  
     その女性の前に労働者、専門職、自営業など自由な職業選択
    の道が開かれているとすれば、慰安婦となる道を選ぶ女性がい
    るはずはない・・・たとえ本人が、自由意思でその道を選んだ
    ように見えるときでも、実は、植民地支配、貧困、失業など何
    らかの強制の結果なのだ。[6,p103]

   「強制性」をここまで広義に解釈すれば、現代の風俗関係の女
  性たちも、貧困や失業など何らかの「強制の結果」であり、国家
  が謝罪と補償をすべきだ、ということになってしまう。さすがに
  このような暴論では、常識ある国民の理解を得られるはずもなく、
  国内の慰安婦問題に関する関心は急速に冷めていった。

■8.国連での攻防■

   しかし国際社会では、事実の伝わりにくさを利用して、慰安婦
  問題をスキャンダルに仕立てようとするアプローチが今も展開さ
  れている。その最初は宮沢首相の訪韓直後の平成4年2月17日、
  日本弁護士連合会の戸塚悦郎弁護士が、国連人権委員会で、慰安
  婦を人道上の罪と位置づけ、国連の介入を求める発言をした事で
  ある。
  
   平成8年3月にジュネーブで開かれた国連の人権委員会に提出
  されたクマラスワミ女史の報告書は、家庭内暴力を主テーマにし
  ているのに、その付属文書に「戦時の軍用性奴隷制問題に関する
  報告書」と題して、半世紀以上前の日本の慰安婦問題を取り上げ
  ている。
  
   戸塚弁護士は、この時にもジュネーブで本岡昭次参議院議員
  (社会党→民主党)とともに、デモやロビー活動を行っている。
  
   報告書は、やはり吉田清治の本や、慰安婦たちの証言を取り上
  げている。その中で、北朝鮮在住の元慰安婦の証言として、
  
     仲間の一人が一日40人もサービスするのはきついと苦情を
    言うと、ヤマモト中隊長は拷問したのち首を切り落とし、「肉
    を茹でて、食べさせろ」と命じた。
    
   などという話が紹介されている。この元慰安婦は、1920年に生
  まれ、13歳の時に一人の日本兵に拉致されたという拉致された
  というのだが、1933年の朝鮮は平時であり、遊郭はあったが、軍
  専用の慰安所はなかった。その程度の事実確認もされていない証
  言が、4例紹介され、その上で日本政府に対し、被害者への補償、
  犯罪者の追及と処罰を勧告している。
  
   日本のジュネーブ外務省はこの文書に関する40頁の反論を作
  成し、根回し工作をしたもようだ。西側諸国代表の間では、クマ
  ラスワミ報告書の欠陥が理解されたが、韓国、北朝鮮、中国、フ
  ィリピンなどの関係国は立場上、強く反発した。
  
   このような攻防の結果、人権委員会では家庭内暴力に関する本
  文は「賞賛する」という最高の評価を得た一方、慰安婦に関する
  部分は、take note(留意する)という最低の評価であった。
  [1,p259]
  
■9.情報戦争から、いかに国益と国際友好関係を守るか■

   平成10年8月、今度は、ゲイ・マクドゥーガル女史が、旧ユ
  ーゴスラビアなど戦時下における対女性暴力問題を調査した報告
  書を作成したが、その付属文書で、またも慰安婦問題を取り上げ、
  「レイプ・センターの責任者、利用者の逮捕」と「元慰安婦への
  法的賠償を履行する機関の設置」を日本政府に勧告した。
  
   慰安所は「レイプ・センター(強姦所)」と改称されている。
  しかし、これは人権小委員会の勧告としては採択されず、日本政
  府はマ女史の個人報告書に過ぎない、としている。
  
   本年8月には、米カリフォルニア州上下院が第二次大戦中に日
  本軍が行ったとされる戦争犯罪について、「日本政府はより明確
  に謝罪し、犠牲者に対する賠償を行うべきだ」とする決議を採択
  した。この「戦争犯罪」には、捕虜の強制労働、「南京虐殺」と
  ならんで、「従軍慰安婦の強要」が含まれている。[7]
  
   カリフォルニア州議会の決議には、アイリス・チャンの「レイ
  プ・オブ・ナンキン」の影響が指摘されている。チャンの本につ
  いては、本講座60号で紹介したように、中国政府の資金援助を
  受けたシナ系米人の団体が支援している。
  
  ★ JOG(60) 南京事件の影に潜む中国の外交戦術

   南京事件と慰安婦問題は基本的に同じ構造をしている。チャン
  の本は、日米関係に対する楔であり、慰安婦は日韓友好への楔と
  して仕掛けられた。これらの問題について、米国や韓国の対応を
  非難することは、友好関係を破壊しようとする狙いに乗ることに
  なる。
  
   国家の安全を脅かすものは、テポドンや工作船のようなハード
  の武力だけではない。一国の国際的地位を貶め、友好国との関係
  に楔を打ち込むような情報戦争が、外国と国内勢力の結託により
  次々と仕掛けられている。こうした攻撃から、いかにわが国の国
  益と国際友好関係を守るか、ソフト面の自衛体制が不可欠となっ
  ている。
  
■ 参考 ■
1. 「慰安婦の戦場の性」、秦郁彦、新潮選書、H11.6
2. 「闇に挑む!」、西岡力、徳間文庫、H10.9
3. 「慰安婦強制連行はなかった」、太子堂経慰、展転社、H11.2
4. 「歴史教科書への疑問」、日本の前途と歴史教育を考える
  若手議員の会編、展転社、H9.12.23
5. 「日本人が捏造したインドネシア慰安婦」、中嶋慎三郎、
  祖国と青年、H8.12
6. 「従軍慰安婦」、吉見義明、岩波新書、H7.4
7.  産経新聞、H11.08.27 東京朝刊 4頁 国際2面

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