「ここが御地蔵様通り」と道路の愛称を紹介する矢島信之さん=伊那市で
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伊那市美篶(みすず)青島区で、これまで特定の名前がなかった生活道路に、名前を付けて定着させようとする動きが進んでいる。行政主導の愛称募集でなく、住民の発案。触発された隣接区でも、同様の活動が始まった。関係者に思いを聞いた。
高さ六十センチほどの地蔵の前に、お供えの草餅が並ぶ。「お地蔵さんのそばだから御(お)地蔵様通り。分かりやすいでしょう」。幅二・五〜三メートルほどの生活道路に立ち、近くに住む矢島信之さん(68)が話した。
愛称付けを発案したのが矢島さん。以前から温めていた構想を、今年一月に区総会で示し、了承された。対象は区を南北に走る八本の道路。従来は「あの道」「こっちの道」といった呼ばれ方だったが、諏訪社に通じる道を「宮前通り」、古くから「横井」と呼ばれる水路沿いを「横井通り」などとした。
橋爪依二区長(63)は「通りの名を通じ、若い人に歴史や文化を伝えていこうという狙い。地域全体で取り組むという点も大切」と語る。当面、大きな看板を設ける計画はない。市の広報配布時に周知を図ったり、清掃や年中行事に合わせて浸透させる予定だ。
矢島さんが提案した背景の一つには、伊那市が本年度から本格的に始めた古い地名の調査事業がある。二〇一五年度までの計画で、住民も参加したグループで市内全域で地名の由来や移り変わりを調べる内容だ。
新たな通りの命名と、古い地名調査は、相反するようにも見えるが、地名調査を担当する市教委生涯学習課の竹松亨さん(68)は「地域への関心を呼び起こす意味で、思いは共通」と言う。矢島さんも「通りに名前があれば、地元を語り合うコミュニティーが生まれる。それがひいては文化や歴史を守る。地名掘り起こしのきっかけにもなり得る」と熱く語る。
青島区の取り組みを知った隣の日影区でも四月下旬、田中利幸区長を会長とする「日影の道に愛称(呼び名)を付けよう会」が発足した。南北の通り七本を対象に、名前を公募する計画だ。関係者は「多くの住民に参加してほしい」と話す。
住民の地元への愛着や語り合いが深まることへの願いの背景には、今取り組んでおけば、それらが薄くなり過ぎるのを防げるはず−といった思いがあるとも言えそう。名前を与えられた通りが、住民の気持ちにグッと近づくよう期待する。
(近藤隆尚)
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