1-3月設備資金新規貸出が7.1%増、リーマン前の5年ぶり高水準に
5月20日(ブルームバーグ):国内銀行による1-3月の設備資金向け新規貸出額は前年同期比7.1%増え、12兆976億円となった。前年同期比でのプラスは6四半期連続で、新規貸出額はリーマンショック直前の2008年1-3月以来、5年ぶりの高水準となった。
日本銀行が20日発表した統計によると、全体の半分を占める非製造業向け設備資金新規貸出は同14.3%増となった。特に運輸や卸売業向けが大幅に伸びたほか、医療・福祉向けは15四半期連続で増加している。一方で、全体の5%である製造業向けは同1.7%減った。
安倍晋三首相は「アベノミクス」の3本目の矢となる成長戦略の一環として、製造業の国内投資を促進させる規制改革・新制度を導入し、リーマンショック以前の設備投資額に回復させる目標を掲げている。
日本政策投資銀行産業調査部の五十里寛課長は「何年か抑えられてきた設備投資が出始めており、足元の景況感回復もあって、今年度はプラスになって出てくる。ターニングポイントだ」とみる。さらに調達環境の良さを背景に先行して増加に転じていた設備資金向け新規貸出も、今後の設備投資回復で一層拡大する可能性があるとの見方を示した。
製造業向けでは、輸送用機器と繊維を除くほぼ全ての業種で減少した。ただ日銀による異例の緩和を背景に円安・株高が進行し、企業業績や景況感に改善の兆しが見え始めている。ホンダや東芝、三菱電機などの製造業でも、設備投資に前向きな動きが出てきている。
新興国で投資増ホンダは海外販売増に加え円安効果で、業績は大幅に改善。岩村哲夫副社長は4月28日の決算会見で、業績が上向いたこの時期に「新興国で早いうちに」事業規模を広げたいと述べた。同社は主にメキシコやタイの工場整備のため、今期(2014年3月期)の設備投資を前年度比18%増の7000億円にする計画だ。
すそ野の広い自動車業界の動きは、関連産業に大きく影響する。車体向け切削工具を製造する三菱マテリアルの浜地昭男常務取締役は「中国のみならず新興国を中心に全世界で自動車市場は伸びる」との見方を示す。同社の今期の設備投資計画は前期比46%増の773億円。切削工具は「主力の筑波工場で増設することも考えている」という。
一方で、一部企業にはリーマンショック前の投資が今も重くのしかかり、投資に慎重な姿勢が残る。実際の1-3月の設備投資は前期比0.7%減と、依然低迷している。
石油化学で広く使われるエチレンの国内生産から撤退することを決めた住友化学は、引き続き投資を抑制し、財務体質の改善を優先する。同社の野崎邦夫常務執行役員は「国内実体経済が上向いてくるだろうという期待はあるが、それが具体的に手ごたえというところまでは至っていない」と指摘している。
パナソニック前期に大幅赤字を計上したパナソニックは、今期の設備投資を前期比1000億円圧縮して2050億円とする。河井英明・最高財務責任者(CFO)は15日のインタビューで、海外に移した生産拠点について「円安だからと言って、一度進出したものの簡単な逆戻りはできない」と指摘。このまま円安が進行した場合の対応策として「日本でラインを増やしていくという可能性はある」と述べた。
安倍首相は17日の講演で、戦後の高度成長の原動力となった製造業の投資意欲回復のため「国内投資を阻害する要因は、何であろうが、一掃する」と強調。今後3年間を民間による「集中投資促進期間」と位置付け、リーマンショック前の年70兆円規模に回復させる意向を示した。
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更新日時: 2013/05/20 18:49 JST