憂楽帳:逆さば
毎日新聞 2012年05月09日 西部夕刊
スポーツの現場で選手と立ち話をしていて、「この人、さばを読んでいるな」と感じることがある。年齢ではない。身長を実際より高く言うのだ。例えばプロ野球や大相撲、ラグビーなどなど。公式データの身長を数センチ水増しすることで、対戦相手に少しでも威圧感を与えようとしているのだろう。
逆の例もある。女子バレーボールなどでは実際より低く発表する選手がいる。大きいほうが有利なのになぜ? 当人に聞くと「あまり大きいと思われると、お嫁に行けなくなるから」。
毎年、女子バレーの日本代表合宿に集合した選手はまず、互いの背中を合わせて背比べする。整列するときの並び順を決めるのだ。数年前、当時公称182センチの木村沙織選手が背比べをしたところ、184センチの選手よりも大きいことが分かった。木村選手は「これ以上伸びたくないよ……」と天を仰ぎ、周囲の苦笑を誘った。
ロンドン五輪の出場権が懸かる世界最終予選が今月中旬に始まる。木村選手はプレーでも精神面でも大きく成長し、今や日本のエースだ。今、彼女の公式データは185センチ。もう、さばは読んでいない。【田内隆弘】