21. 2013年5月10日 00:57:43
: nJF6kGWndY
「幸せな結婚」という偽装工作で男をハメる「タガメ女」とは深尾葉子・大阪大学大学院准教授に聞く「家族関係の欺瞞の原点」 2013年5月10日(金) 秋山 知子 高収入、大企業勤務、将来性あり――。こんな高スペック男性をがっちり捕まえ、“搾取”する「タガメ女」。様々な社会病理の背景に、欺瞞に満ちた男女・親子関係が作り出す呪縛があるという。深尾葉子・大阪大学大学院准教授に聞いた。 (聞き手は秋山知子) 早速ですが、『日本の男を食い尽くすタガメ女の正体』(講談社α新書)。いやーまいったな、と思いました。最初は単純な専業主婦攻撃の本かと思いましたが、読んでみるとそうじゃない。日本社会にたくさん存在する、あるタイプの夫婦・親子関係が、現代社会の様々な病理を生み出しているという指摘ですね。 読んでいて、笑いと恐怖が交互にこみ上げてきたんですが、たぶん女性よりは男性、それもいわゆる「高スペック」男性にとっては、恐ろしい本でしょうね。 深尾:ある男性は、読んでいてお腹を下してしまったそうです。ちょうど「ママ友地獄」について書いてある章だったらしいですが。 タガメ女:田んぼに生息してカエルを捕獲するタガメのごとく、収入や社会的地位のある男性を捕獲し、「幸せな家庭」というタガにがっちりとはめて自由を奪い、リソースを吸い尽くす女性。夫だけではなく子供、ママ友など周囲の人間関係をもタガによって呪縛する。搾取される側の男性は「カエル男」と呼ぶ。 この手の女性って現実にたくさんいるし、しかもそういう要素はたぶん多かれ少なかれ誰にでもあるので、これまであまり意識していなかったと思うんです。でも、「タガメ女」という名前がついたら、これまでよく分からなかったいろいろなことが一気に腑に落ちました。 深尾葉子(ふかお・ようこ)氏 大阪大学大学院経済学研究科准教授。87年、大阪市立大学大学院前期博士課程東洋史専攻修了。中国内陸農村部における環境問題の社会的歴史的分析などを手がける。著書に『魂の脱植民地化とは何か』(青灯社)など。 (写真:山田哲也) 深尾:最初に気づいたのはもう10年も前なんです。当初はそれほどリアルな事例というのは知らなくて、例えば商社の海外駐在員の奥さん社会が結構すごいらしいとか、エリートと結婚した勝ち組の主婦が恐ろしい殺人事件を起こしたりとかはありましたけど、ごく一部の人たちの話かと思っていました。でも、自分も子育てをして、いろいろな事例を見聞きするにつけ、だんだんこれはちょっと尋常じゃないなと。これは一体何なのか、これを考えないことには日本社会の息苦しさみたいなものを解明できないと思い始めました。それで、事例を集め始めたんです。
タガメ女に搾取される側の男性をカエル男と呼んでいますが、これがまた「あるある」という感じの日本人男性像ですね。 深尾:私の研究室には中国からの留学生がたくさんいるんですが、彼らが「日本は男尊女卑の国って聞いたから、もっと男が偉そうにしてるかと思ったらびっくりした」と言うんです。中国語を勉強しに来るサラリーマンが「今日、コーヒー代300円しかないねん」とか、とにかくお金に関してえらくしみったれてると言うんですよ。 奥さんにがっちり財布を握られてて、お小遣い1カ月3万円とかだから。 深尾:中国の女性も強いんだけど、中国で男性がそんなしみったれた言動をするなんてあり得ないんですよ。メンツが立たないというか、人間として扱われない。その点、日本の男性は大きな子供みたいで、国際的にみても異様に映るというんです。 いろいろ事例を集めるうちに、これは単なる夫婦関係だけの話じゃなくて、日本経済にも多大な影響を及ぼしているんだということが見えてきました。 どんなことですか。 深尾:例えば知り合いに不動産の営業をやっている人がいるんですが、節税目的の投資用マンションを売ろうとする時、既婚男性にいくらセールスしても、奥さんに話が行った段階で断られる。その人にタガメ女とカエル男の関係を説明したら「これまでうちがどれほど無駄なマーケティングをしていたか、よく分かりました」と。実際に投資用マンションを買う人の多くは、独身女性か、共働きの女性が夫に内緒で買う、というもの。でも、夫が妻に内緒で買う、という選択肢はほとんどあり得ないそうです。 消費経済のいびつな男女格差の裏に「タガメ」がいる 先日(4月26日)、大阪・梅田にグランフロント大阪がオープンして、スーツ1着10万円ぐらいのお洒落な男性向けのイタリアブランドのお店ができていましたけど、ああいう服はカエル男は買いませんね。 カエル男は年収1000万円ぐらいでも、自分の可処分所得はせいぜい年に数十万円で、奥さんに頼んで許可が出たものだけ買える。じゃそれ以外のお金はどこに行ってるかというと、婦人服と子供服、そして住宅ローンと子供の教育費。奥さんは、自分や子供の服なら10万円ぐらいでも平気で出す。 夫に浮気させないためにも、夫に回るお金が少なくなるほうが家庭がうまく行くというか、下手に男性に自分がかっこいいとか思わせないようにする見事な策略が働いている。つまり、お洒落な男性向けブランド店のライバルは紳士服店ではなくて、婦人服や子供服ブランドなんですね。 確かに、ちょっと不況になると家計の中で真っ先に削られるのはお父さんの洋服代です。 深尾:財布を握ってるのは女性だから、デパートでも、10フロアあったら8フロアは女性向けの売り場でしょう。男性向け商品は本当に数がなくて、選択の幅もない。例えば男性もののブーツなんかほんのちょっとしか置いてないのに、女性ものはそれこそ1000足ぐらいある。このバランスは異様です。何がそうさせているかというと、やはり背後にはこのタガメとカエルの関係がある。 本の中に「タガメ女度チェックシート」がありますが、その中で(タガメ女は)「ドコモの携帯電話ユーザーである」というのがありますね。 深尾:これは結構当たるんですよ。タガメ女にソフトバンクユーザーは、まずいないんです。ドコモかauのユーザーです。 auのTVコマーシャルで、星飛雄馬が出てきて、家族だと割引になるから結婚しましょうみたいのがありましたよね。家族の中だけで割引になるというのがタガメさんは好きなんですね。 ソフトバンクだと、同じソフトバンクユーザー同士なら無料通話できる。どこかの女にかけても無料っていうのは気に食わないから、厳格な家族割引のドコモかauを選ぶんですね。 たぶん、電話会社で割引サービスを企画する人の周囲にもカエル男がいっぱいいるので、こういうサービスなら家庭の奥さんがオッケーするだろうとか無意識に分かるんでしょうね。 「イクメン」も姿を変えたカエル男? 本の中で、戦前はほとんどが見合い結婚だったけれども、1970年頃に恋愛結婚の数が見合い結婚を上回り、現在では自由に恋愛結婚ができるようになったはずなのに未婚率は上がる一方で、男も女も結婚しなくなっている。それは、恋愛結婚には実は「恋愛」はなく、条件を満たす者だけが結婚に至れるからだという説明があります。何か身も蓋もない感じですが、確かに非正規労働者の比率が上がるにつれ、未婚率もさらに上昇していますね。 深尾:高スペックのカエル男が少なくなっている。つまりタガメにとっては「エサ不足」ですね(笑)。 だけど一方で、最近の若いカップルはスペックで相手を選ぶのではなく、一緒に生活を築いていこうという意識も強いのではないですか。育児に積極的に参加する「イクメン」も増えていると思います。 深尾:イクメンも、一見すると男女共同育児というのでいいと思うんだけど、何か違うなという事例もあります。 ある男性の話なんですけど、仕事でくたくたなのに、家に帰って子供のオムツも替えないと妻に怒られるから頑張ってやっている。それでも妻はいつも不機嫌で、もう耐えられないと。結局、夫婦とは言っていても、実態はお母さんと、お母さんに怒られる息子の関係であり、やはり形を変えた支配関係だと。 そのタイプの男性が例えば子供を遊ばせたりしてると、何か分かるというか、醸し出す雰囲気がありますね。どこか頼りなくて、子供が何かするとムキになって怒るんです。そこで自分が怒らなかったら自分が妻に怒られるから。つまりゴッドマザーがもう1人いて、ゴッドマザーの指令で怒ってるんです。子供にしてみれば、パパはママの子分、手先にすぎない。ママに怒られたらパパが守ってくれるんじゃなくて、ほれ見ろとさらに怒られる。 子供にしてみたら行き場がないですね。そしてタガにはめられ続けた結果、家庭内でカエル男とタガメ女が再生産され続けると。 深尾:タガメ女は自分自身も実は苦しんでいるんです。でも一番苦しんでいるのは、本来の魂を押し殺されて育つ子供たちですね。 タガメママに育てられた子供たちは、大学に入った後になっても、いつもどこかでママの「いけません」という声が聞こえるんです。自分らしく生きたら悪い子であると刷り込まれてしまってる。そして、就職活動で苦しみますね。将来何になりたいかといっても分からない。うちの大学のゼミにも相当重症な学生さんがいました。卒論でも何をしていいのか分からない。自分で何かを決めたことがない。自分というものが全くのブラックボックスなんです。 それでも、あるきっかけで本来の自分自身を押さえつけていたものに気づいていく。ああ、そういうことだったのか!と。かつてある学生が自分自身についての感動的な卒論を書いたのですが、それを同級生や後輩が読むことで次々にほかの学生に波及していくということが起きました。 恋愛で悩んでいたり、親との関係で悩んでいる学生にタガメ女とカエル男の関係の話をすると、いろいろな反応が返ってきますね。一瞬凍りついたり、「やべえ、うちの父ちゃんカエル男や」とか。女の子だと「私、もう少しでタガメ女になるところでした」とか。いろいろな気づきのプロセスのきっかけになっているようです。 実はタガメ女と共犯関係にある、カエル男の罪 今回、本の発売前からツイッターではかなり“炎上”していたそうですが。 深尾:本のタイトルと紹介文と表紙のイラスト。これだけで、内容を1行も読んでいないのに逆上してツイートしてきた方が結構いましたね。 ある意味、ツボにはまってしまった人がたくさんいたんじゃないでしょうか。先ほど、タガメ女とカエル男の事例を集め始めて10年近くになると言われました。その原型となったブログを拝見して、長い間熟成させていたというか、満を持して本にされたのかと思いましたが。 深尾:実は、本当はもっと早く本にしたいと思っていました。 先ほども言いましたように、身内の間ではどんどん事例が集まっていて、タガメ女の犠牲者もどんどん増えていってるから早く本にしてくださいという声はあったんです。 実際に編集者の方は何人も来られて、面白いですね、是非うちで出しましょうとか言ってくださるんですが、いざ話が出版社の組織の上の方へ行くと、上司がOKを出さない。 それは、もしかしたら上司がカエル男だったせいでしょうか。 深尾:それはもちろん分かりませんが、何社も話が流れました。最終的には、かなり過激なあしらいの本になったんですが(笑)。 男性にとっては不都合な真実というか、目を背けておきたいものがあるのでしょうね。
深尾:怖いから見ないことにするというのが多くのカエル男の反応ですね。あるいは薄々気づいてはいても、それを是としている。そういう意味でタガメ女とカエル男は共犯関係にあるんです。 家でタガメ女に血肉をチューチュー吸われて、自分で何も決めることもできず、僕お小遣いは月3万円とか言っているような男性たちが社会の中枢にいるわけですよね。 今の日本の、利権の構造が揺らがない最大の理由は、支えるカエル男の後ろに妻子がいて住宅ローンがあって、彼らがそこを絶対に捨てられないから。日本が変われない大きな理由の1つは、カエル男かもしれません。実は続編では、日本を滅ぼしかねないカエル男の正体を解き明かそうかと思っています。日本は高度経済成長期のモデルにいつまでもしがみつくのではなく、もっと柔軟で新しい社会を作ってゆく必要がありますが、カエル男の硬直化した思考や生き様はそうした変化への大きな障害になるからです。タガメ女・カエル男構造の解体は、少子高齢化社会の日本が進むべき重要な方向を示していると考えています。
|