title
beforeb backb nextb
            
■第8回   災害防除と災害予防の街づくり。
キーワードは「安心、安全、プラス安定」
(第1回)
東京消防庁の予防部長として、日夜、東京の街の災害予防を指揮されていらっしゃる北村吉男消防司監。その活動、思いなどについてお話しを伺いました。
    
北村吉男(きたむら よしお)

東京消防庁 予防部長、消防司監
出身地:石川県
北海道大学 大学院 修士課程土木工学研究科修了。
略歴:
昭和53年、東京消防庁入庁
平成12年、多摩消防署長
平成14年、府中消防署長
平成15年、参事兼防災課長
平成17年、第六消防方面本部長
平成19年、予防部長
kitamura
ダウンロード用PDF版pdficon get
----現在、開口部に関する事について、どのような取組みをなされているでしょうか。

北村:私共では開口部に関わるものとして2つの実験をしています。
 まず1つ目は、ALCパネルを使った遮煙性能の実験です。超高層建築では、工期の問題や軽量化などの関係で、ALCパネルを貼付けて用いることが多いかと思います。
 ある超高層建築で火災が発生した際に、どうも煙がエレベーターシャフトから漏れ出て、上階や周囲の廊下などに拡がったのではという事例がありました。火災の発生場所を特定する時、なぜ煙が出ているのか分からない、どこを消火作業したらいいのかということで、時間を要した事例でした。
 実験をしてみて分かったことは、ALCパネルのつなぎ目を目地処理していないと、煙が漏煙する場合があるということ。100m位ある竪穴区画の中で煙が発生すると、下と上ではドラフト現象と言いまして圧力差がでるんですね。目地処理をしている所は煙は出てきません。ところが超高層建築の上の方に機械室がある所などは、目地処理をしておらず裸処理。ドラフト現象で圧力が掛かることで、そういう所から煙が漏洩すると分かりました。
 最近のマンションでは、土地の有効利用のため、建物の中央部分、通常では中庭となる部分を、高層の立体駐車場とするものが増えており、二酸化炭素消火設備を設置する場合があります。火災があった場合、二酸化炭素が住居内に漏れないよう、ALCパネルの目地処理をしていくことが重要となります。
 国土交通省や関係業界とも打ち合せし、必要な所には目地処理が行われるよう、施工基準について検討を行っており、我々からも示していこうと思っています。

----もう一つはどんな実験をされたのでしょう。

北村: 火災が起きた際、避難階段などの防火区画まわりに設置されたガラスが、どういう影響を受けるか。
 防火戸や耐震壁には防火ガラスが使用されることがありますが、火災時に問題となる輻射熱については、基準が設けられていません。
 防火ガラスには、複層ガラスなど色々あります。例えば、中のゲルが溶け出して輻射熱を遮断できるようになっているドイツ製のガラスは、層が6層にもなっており、輻射熱は非常に低減されることが分かりました。
 消防隊員が背負っている空気ボンベが当たることも考えられますので、熱せられた状態で衝撃を受けた場合はどうなるかもやってみました。結果、局部的にひび割れが入っても、全体がどすんと割れ落ちることはないことも分かりました。  
 避難階段は、避難する際の通路としても、消防活動をする上でも、安全性が重要な場所ですので、このようなガラスを使っていく必要があるんじゃないかと。どういう場所にそういうガラスを使った方がいいかという、安全の指標みたいなものを検討していきたいと思っています。


----消防という仕事には、どのような側面があるのでしょうか。

北村:消防の役割には、重要な二つの使命があると思っています。
 一つは災害防除。災害に対処していくという使命。もう一つは災害を少なくしていく予防という使命。消防というのは二つを同時にやっているのです。
 予防の視点で一般住宅をみると、住宅用火災警報器の普及や、住宅火災での高齢者の死者をどう減らしていくかということが重要となります。企業さん側がビルを造っていく際に、安全を担保していただくように指導することも、我々の職務の一環です。
 そのような使命を具体化していくのが消防の仕事だと理解しています。


----一般住宅の場合は、住宅用火災警報器の普及と高齢者の被害の死者に重点。

北村:東京の街は、木造密集地域もまだまだありますが、建替えが進み年々不燃化してきています。一方で、高齢者の方が増えてきているという事実もありますので、住宅用火災警報器の普及を現在進めています。
 高齢者の方は、つい身近な所に可燃物を置いてしまうので、注意しなければいけません。1階で出火した場合、2階に寝ていらっしゃると、煙が部屋に入ってくるまで分かりませんので、住宅用火災警報器を居室や階段、台所にも付けていただく、というのが今の考え方です。
 火災避難シミュレーションを、一般の住宅にも応用して先日整理しました。火災警報器をつけている場合と、つけていない場合はこれだけ違いますというのが、明確に分かります。防火座談会、防災訓練などの場でお見せして、都民の方々にも知っていただきたいと思っています。


----東京の街ならではの消防、というのはありますか。

北村:東京の安全は、防災全体の試金石でもあるんです。例えば、墨田の白髭防災拠点は、日本で初めて建物における防災都市づくりが形になった街でしょう。東京ドームの場合も、あのような巨大なドームに対する消火設備として、どのような物を備えればいいかと。ドームの中には、放水銃など大量放水ができる設備があります。
 このように、ケース・バイ・ケースで各部局で総合的に判断し、手を加えた物が東京都には結構あります。  高層建築物に対しては、緊急離発着場等を設置していただいています。東京消防庁が基準化し、航空局さんや建築側にも理解をいただいており、今では高さ100mを超す建物でヘリの離発着ができるようになっているものが増えています。 例えば、東京モード学園さんのビルはいざとなるとゲートが開放され、緊急救助用スペースが機能するようになります。 このような整備を東京消防庁は従前から指導しています。
 
 現在、夏季オリンピック誘致も東京都全体でやっています。我々東京消防庁も消防サイドから、オリンピックの開催には安全な都市であるとPR、積極的に取組んでく必要があると考えています。
 東京消防庁の消防総監がアジア消防長協会の会長でもありますし、東京消防庁は災害防除もするし、災害予防の面でも全国をリードしていくという誇りを持っております。



----霞ヶ関ビルが完成した時には、火事が発生した際にはどうするのだろうと、幼心に心配でした。それが今では、その霞ヶ関ビルよりも背の高いオフィスや住居も増えました。

北村:はしご車の届かないビルには、自動的に消火できるようスプリンクラーを設置。消防隊が非常用エレベーターを使いホースだけを持って上階に行き、連結送水管につなげば、下からポンプ車で高圧で水を送るので消火活動が行える。霞ヶ関ビル以降、法律で高層建築の消防設備というのは規制され、有事の際も、効率的に消火活動に当たれるようきちんと普及している。
  こちらも日本が世界に誇れる内容だと思っています。

----地震が発生した場合の対策にも、積極的に取組んでいらっしゃるようですが。

北村:首都圏直下型の地震が発生する可能性のあることを前提に、東京は地震対策を重要視しており、消防は勿論のこと各部局で様々な安全対策を取り入れています。
 元々、災害防除のため自治体消防ができました。県にまたがって消防活動というケースは想定外でしたから、市町村を単位としてやっていた。しかし、広域地震の発生や、広域災害、有事の際のテロを想定した場合、組織を連携させて活動をしていく必要があります。
 もし東京で直下型の地震が発生した場合には、1000隊以上の救援部隊が地方から来て支援をする仕組みになっています。
 我々の部署の仕事は、事前の災害予防から、被災後の市町村と連携しての、り災証明の発行までと、活動のスパンが長いんです。


----予防の仕事は広くて深いですね。

北村:そうなんです。予防の分野に携わるメンバーというのは、技術の最先端だとか、それがどう行政に影響を与えるかに携わっています。そして、世の中の経済状態、都民のニーズなども加味し、予測していかねばならず広くて深い分野。
 元々アメリカの消防の制度を戦後日本へ導入したのですが、その時は消防機関は災害防除が中心の組織でした。災害予防の概念と災害防除の消防機関というのは、世界の街を見回しても他にありません。
 ただ、消防官になりたい人の動機をみても、映画などの影響があるのでしょうか、ハイパー・レスキューなどのように瓦礫の下からの救助や、火の中で消火しながら救助というのが消防のイメージとして強いようです。  
 災害予防という仕事も、実は奥が深く色々な事に携われるという側面があるということを、知っていただきたいと思っています。

----ご自身が東京消防庁に入られたきっかけは?

北村:大学で土質工学を専攻、地盤の安全性に携わっていました。例えば、大きな危険物施設の地盤はどうあるべきか、というのをやりたくて消防に入りました。災害予防という概念の仕事に携わりたかった訳です。
 ただし東京消防庁では、コマンダーとして指揮活動の上位になればなるほど、ファイアー・ファイターとして現場で災害経験も積んでいかねばいけない。指揮は現場を知らないとできませんから。本庁組織にいても、階級を上がる度に、現場の消防署へ出て、実災害の経験をしていくという繰り返しなんです。私も署長を2署経験していますし、年間で担当した火災の焼損床面積の合計が4000uを超したこともありました。
 現場でコマンドをすることで、「予防的にこうした方が」ということも分かってきます。東京消防庁の場合は、常に現場経験に基づく内容を予防行政でも反映させており、皆さんに納得していただくことが多い所以です。

 
----火も消せるコマンダー。

北村:消火活動は消防の基本ですね。現在の立場だと現場で指揮をとるコマンダーの役割が中心なので、実際の消防活動は若い時に限られましたが。
 現場というのは紙一重の部分の時もありますので、危険性を予知するという点で指揮者の役割は大きいです。爆燃性の倉庫の火災で、退去命令を出すという決断をしたことも。そこの判断は消火活動をしている人間というよりも、指揮をとっている人間達の判断になります。
 やはり、命を扱う危険と隣り合わせの仕事ですので、瞬時の判断が非常に重要となります。
 ―――本日は貴重なお話しをありがとうございました。次回も宜しくお願い致します。
 (2009年3月10日 東京消防庁にて,インタビュー:外島美紀子)
ページのトップへ
©2007. All Rights Reserved. O-safety