韓国の幹細胞研究、捏造事件のトラウマ

 米国オレゴン健康科学大のシュークラト・ミタリポフ教授らのチームが、人のクローン胚から胚性幹細胞(ES細胞)を作ることに世界で初めて成功したと発表し、研究者に衝撃を与えている。

 クローン胚からのES細胞生成は、幹細胞の商用化で日本が主導する人工多能性幹細胞(iPS細胞)と対抗し得る存在となる可能性が高まった。一方、かつてES細胞研究の分野をリードしていた韓国は、黄禹錫(ファン・ウソク)博士による論文捏造(ねつぞう)事件によるトラウマを拭い去れず、クローン胚由来のES細胞研究を中断した状態で、iPS細胞の分野は先進国を追い掛ける立場となっている。専門家は「世界をリードする幹細胞技術を確保するためには、一方に偏らないさまざまな研究を支援すべきだ」と注文を付けた。

■政府投資はゼロ

 昨年11月に韓国政府が発表した「幹細胞技術開発投資戦略案」によると、韓国での幹細胞研究投資は、2008年の387億ウォン(約35億円)から12年の1004億ウォン(約92億円)へと年平均27%増えた。投資の65%が骨髄、脂肪、へその緒、血液などから抽出した成体幹細胞に集中している。ES細胞への研究投資は行われていない。政府自らがほかの幹細胞に比べ治療効能が低いと判断した成体幹細胞に研究費をつぎ込むという矛盾が生じている格好だ。

 病気で損傷した細胞を幹細胞で補うには、欲しい細胞を容易に生成させることが求められる。そうした細胞分化能力はES細胞が最も優れている。成体幹細胞は特定の細胞にのみ分化する。また、ES細胞は患者と遺伝子が完全に一致するため、拒絶反応がない。

 最近の幹細胞研究で大勢を占めるiPS細胞に比べても長所がある。延世大医学部の金東旭(キム・ドンウク)教授は「iPS細胞は本来細胞が持たない遺伝子を導入し、人為的に作ったものだが、ES細胞はそれよりはるかに自然だ」と指摘した。韓国の保健福祉部(省に相当)は、今回の研究成果を分析した資料で「ES細胞はiPS細胞の短所である発がんの可能性がない」と指摘した。

李永完(イ・ヨンワン)記者
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  • ▲ミタリポフ教授らのチームが作製したクローン胚。細胞数が150個程度に増えた胚盤胞と呼ばれる段階で、ここからES細胞が得られる。/写真提供=米オレゴン健康科学大
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