ヒバクシャ広島/長崎:’13春/4 資料館の再現人形撤去 「伝えるため残せ」

毎日新聞 2013年05月17日 東京朝刊

撤去されることになった「被爆再現人形」の前に立つ原広司さん。「悲惨さを伝えるために、残さなければいけない」と訴える=広島市中区で、川平愛撮影
撤去されることになった「被爆再現人形」の前に立つ原広司さん。「悲惨さを伝えるために、残さなければいけない」と訴える=広島市中区で、川平愛撮影

 春の陽光が、広島市の原爆ドームに降り注いでいた。すぐ脇を流れる元安川の対岸で被爆者の市民画家、原広司さん(81)=同市安芸区=は四季のドームを描いてきた。周辺には高層マンションが建ち並び、国内外からの観光客には、鉄骨がむき出しになったドームのほかに爆心地の痕跡を見つけるのはむずかしい。

 だが原さんの脳裏には68年前の惨禍が焼き付いている。それだけに納得できないことがある。近くの原爆資料館に展示されている、原爆投下直後の被爆者を再現した人形の撤去が決まったのだ。

 「人形をのける理由が『作りもん』じゃ言うなら、わしの絵も『作りもん』じゃろ」

 原さんは、いつになく強い口調で憤った。

 資料館の展示を2018年度までにリニューアルする計画が3月にまとまり、人形撤去が盛り込まれた。資料館は「実物中心の展示で被爆の実相を伝える」と説明するが、やけどでむけた皮膚を垂らして歩く姿は、訴える力があり、人形撤去に反対の声は根強い。

 原さんは13歳の夏、広島湾に浮かぶ江田島の祖母宅で、原爆のきのこ雲を見た。翌日に広島市に入り、惨状を目の当たりにした。「首のないのや内臓が出ているのや、いろんなものを見たんじゃ」。やけどの被爆者が手を合わせて「水をくれ」と懇願する姿。大やけどをし、何か叫びながら走り回る裸の女性……は人形の姿と重なる。

 「原爆で全て焼けてしまった。『作り物』でもなければ、惨禍を伝える手段がないから作っとるんじゃろうに」。証言できる被爆者が少なくなる中、「今(人形を)なくしてしまえば、いずれ再現することは不可能になる」と危惧する。

 さらに気になることがある。改憲の動きだ。「私たちは満州事変、太平洋戦争をよう知っている。戦争の、原爆の実相を知れば、憲法を変えようなんていう発想はしない」。この日も口癖の「ドームはただ黙って建っておるんじゃない。無残な姿をさらして、核兵器の恐ろしさを訴え続けておるんよ」という言葉を繰り返した。訪れては去っていく観光客を見やり、付け加えた。「多くの人にとって記念撮影するだけの場所になっとる」

 原爆ドームも、絵も、人形も、被爆資料も……。風化の後に、過ちが繰り返されるのではないか。「いろんなものを積み重ねて核の非人道性を訴えていかねばならん」

 陽光を浴びた原さんの顔に、決意のしわが刻まれていた。<文・吉村周平、写真・川平愛>=つづく

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