記者の目:企画「ふるさと」を担当して=湯谷茂樹
毎日新聞 2012年12月12日 00時10分
政府は放射線量を低減させるため、1兆5000億円を投じて、除染作業を進めようとしている。学校や幼稚園などの除染は進み、子どもたちの被ばく低減化はかなりの程度はかられ、グラウンドでの運動などもできるようになった。除染作業に欠かせない、汚染土などを保管する中間貯蔵施設候補地の現地調査を地元が受け入れるなどの動きも出てきた。一方で、森からの再汚染など、除染の効果に疑問の声も上がっている。
福島第1原発事故について、国会の事故調査委員会の報告書は「人災」と明記した。さらに、事故原因として、津波だけでなく地震の揺れによる破損の可能性にも言及した。
政府は原発事故について、冷温停止状態だと宣言したが、事故収束のめどは立っていない。また、原発を運転すればするほど蓄積される使用済み核燃料の危険性は、福島第1原発4号機の燃料プールの温度上昇などでクローズアップされた。核廃棄物の処理方法も確立していない。
◇政治家は深刻に「声」受け止めよ
今月7日、三陸沖でマグニチュード7.4の地震があり、1メートルの津波が観測された。専門家は今回より大きなマグニチュードの余震が予想されること、東海・東南海・南海などのプレート型巨大地震、日本海側での大地震発生の可能性も指摘している。日本列島は地震の活動期に入ってしまったと言われている。この世界有数の地震国には、未解決の問題を抱えた原発が50基以上、存在している。
11月の「ふるさと」で紹介した福島県教組書記次長の国分俊樹さんは、政府の対応について、自分たち福島県民が政府によって「棄民」されたと語った。「棄民」は、残留孤児を生んだ、戦前の中国東北部への開拓移民政策をめぐって、よく聞く言葉だ。
それと、福島の現実を同一に論じることは、できない。しかし、事故から2回目の新年を迎えようとしている今も、被ばくのリスクを感じながら福島で暮らす人々の心に「棄民」という、まがまがしい言葉が浮かんでいる。その事実を、政治家は深刻に受け止めてほしい。(東京地方部)