鳳凰黄龍出現之図:世の平穏、油絵に込め 制作中に震災、3年で完成 /青森
2013年05月16日
完成した絵を背に制作時を振り返る神田正信さん=青森市安田近野のアトリエで
◇青森の画家、神田さん奉納 18日、埼玉の寺院「慈眼院」に
青森市安田近野の画家、神田正信さん(58)が手掛けた油絵「鳳凰(ほうおう)黄龍(こうりゅう)出現之図」が完成し、18日に埼玉県川島町の寺院「慈眼院」に奉納され、本堂の天井に飾られる。3年前に制作を始めた神田さんだが、11年3月の東日本大震災の直後には「絵なんか描いている場合か」と自問自答する時期もあった。完成を迎え、神田さんは「絵に向かう思いを変えてくれた作品」と話している。【宮城裕也】
作品は縦18メートル、横17・5メートルで、国産杉の板を3枚つなげた上に描いた。真っ赤な鳳凰と黄色に輝く龍が二つのハスの花を囲む様子を色彩豊かに描いた。中国の故事で鳳凰は「平安の世に現れる」とされ、黄龍も縁起が良い存在。ハスは寺や仏を表しており、世の平穏を祈念する思いを込めた。慈眼院住職の今西道順さん(69)と神田さんはもともと知り合いで、10年5月に今西さんから「改築を機に絵を描いてほしい」と依頼があったという。
制作期間は1年の予定だったが、杉の板がなかなか乾かず、下地の絵の具を浸透させるだけで時間が過ぎた。色付け作業に入った直後に震災が発生。ラジオニュースで被害を知った神田さんは、音声だけでは津波被害を実感できず、「岩手県陸前高田市が壊滅」という報道の意味も分からなかったという。
アトリエでただ座って時間を過ごす中、「目の前のことを精いっぱいやろう」と気持ちを整理し、4月中旬に制作を再開。「今まで考えることもなかった不安を抱える中で、救いになるのは人と人とのつながり」との思いから、龍の足にひげが巻き付く様子を付け足して「つながり」を表現した。
約180枚描いている龍のうろこ1枚の色つけに1日かかる日もあったが、2月末に完成。「こんなに時間をかける作品は初めてだったが、絵を描くのが自分の『持ち場』。それを守る大切さを教えてくれた」と振り返った。