―その5―


 安里には変化があった。特別支援学校の中学部へ進学し、健常者よりはだいぶ遅れは

あるものの精神的にも身体的にも成長はしていた。その分、私たち家族も不安の数や量

が減ってるから助かる。

 ただ、その代わりに新しい不安の種も生まれてきた。思春期というものがどれだけ安

里に通ずるのかは分からないけど、確かに存在していた。ある日の朝、安里が申し訳な

さそうに何か言いたげに口ごもってるのでおもらしだと察した。最近してなかったのに

と思いながら対処しようとすると異変を感じる。明らかに臭いが違う。母親に伝えてみ

ると柔に説明され、理解しきれなかったから週末にパソコンを使うときに調べると夢精

っていう言葉が繋がった。弟の性の目覚めだった。安里にそんなものがやってくるなん

て想像もしてなかったから驚いて、男性のそういうところを目の当たりにした気色悪さ

もあった。

 でも、それで私が弟に距離を置くなんてことはなかった。むしろ、利用してやろうと

思った。安里は月に2回か3回夢精をするようになり、だんだん私にも考えるところが

出てきた。安里はいくら性に目覚めても発散する相手もいなければ、その方法すら知ら

ない。おそらく、一度は止まったはずのおもらしがどうしてまた続くようになったのか

悩んでるんだろう。そんな弟を不憫に思った。

 私も恋愛に目覚めてから、性に意識は持ちはじめていた。女性の性についてや性行為

について、男性のそれについてもパソコンでいろいろ調べているときだった。そういう

ことに興味心は揺さぶられてたし、いずれは恋人と交わるときが来るんだろうとあらぬ

妄想も抱いていたし、自分の体の性感帯をあれこれ探ってみたりもしていた。そして、

弟の性のことを考えてるとき、利害がうまく重なると感じ、私は一つのことに考え着く。

一人では何もできない弟、異性との性に関心がある私、その両方を同時に解消させられ

る方法に。

 「安里、お姉ちゃんと遊ぼっか」

 「うん」

 その方法を思いついた後の週末、親が2人で出掛けてるときに行動を起こす。いつも

のように笑顔で弟を誘いだすと、飼い犬のようになついて着いてくる。

 「安里、好きな女の子とかっている?」

 まずは質問から入っていく。好きな子がいるかなんて正直どうでもいい。

 安里はどう返答するかに困ってるようだった。

 「じゃあ、女の人の体に興味ってある?」

 質問を深くする。

 安里は同じような反応をしていた。

 私は安里に性について伝えていく。安里がたまにしてるのはおもらしじゃない、夢精

っていって安里ぐらいの年齢になったらみんながする、他の人たちはしなくてもいい方

法を知ってるけど安里はちょっとみんなより勉強するのが遅れてるから知らないだけ、

そう説明してくと分かったような分かってないような感じだった。まぁ、なんとなく伝

わればいい。

 「心配しないで。お姉ちゃんが教えてあげるから」

 笑顔のままで言うと、これからあのおもらしみたいなのをしなくていい方法を教えて

もらえるんだと安心したようだった。

 「じゃあね、洋服を脱いで」

 私の言葉に、安里は理解に戸惑う。洋服を着てたらまた汚れちゃうからと言っても、

私の前で脱ぐことにためらっている。一緒にお風呂に入らなくなって数年間、裸なんて

見せてないわけだからそうなるだろう。けど、このままあっさり断念ってわけにもいか

ない。教わらないとこれからもずっと続けちゃう、私以外に教えてあげる人はいない、

そうダメ押しするけど土俵の外には出てくれない。こんな固執するのも性の目覚めてる

証拠なんだろう。

 私はその場で洋服を全部脱いだ。恥ずかしくないわけじゃない。ためらいがないわけ

でもない。ただ、安里と私の現状や思惑を汲んだら答えがそうなった。深くも単純でも

ある答えだ。

 安里は私の裸を見てるような見てないような視線をしてる。困惑した思いを包みこむ

ように、私は安里を抱きしめた。

 「私は安里が好きだよ」

 言葉に嘘はない。こんなこと、普通の姉弟でありうるわけないんだから。弟が障害を

ハンデに生きてきたこと、私が弟を守るために持ってきた使命感、それによって大きく

なっている愛情、それぞれの要素があってのこと。

 「安里もお姉ちゃんのこと好きでしょ?」

 少し体を離して、顔を覗きこんで言った。「うん」と返してくれたから素直な笑顔に

自然となれた。

 「大丈夫、お姉ちゃんに任せて」

 明確な返事はなかったけど、空気で悟った。安里の洋服を脱がせてあげると、下半身

はもうずいぶんなことになってた。初めて目にする状態だったから、私はすごいことを

しようとしてるんだなと冷静になりそうになったのを振り払う。私にとっても初めてだ

けど、リードしなきゃいけないわけだから。

 私が柔らかく攻めていくものの、安里はあまり反応はなかった。私のやりかたがいけ

ないのかなと思ったけど、性器だけは敏感すぎるほど反応を示した。ちょっと動かした

だけでかなり気持ちよさそうで、すぐに射精してしまった。これだと思い、性器を攻め

たおすと射精はしなかったものの、とにかく感じまくってて面白かった。自分がテクニ

シャンみたいに勘違いできて良い気分だった。

 安里にも私に同じようにさせると、私もどこを触られてもあまり反応はしなかった。

そういうもんなのかと思うと、安里の方は私の体を触ることに興奮してるようだった。

息を呑んだり、勃起しっぱなしだったり、どういう差があってかは分からないけど、安

里が喜んでるならまぁいいかと解釈しておく。

 最後に挿入したけど、事前の知識の通りに結構な痛みだった。何も知識のない安里を

不安にさせられないから表情はなんとか普通にして、ゆっくり動いてく。私は痛いしか

感じなかったけど、反比例するように安里は気持ちよく感じていた。結局、どちらも最

後まではいかなかった。

 結果、安里は射精もして終始興奮を続けて、私は特に何もなかった。不平等だとは感

じたけど、男の人に体を触られるのは良い感覚ではあったから良しとしよう。女性は最

初の頃はそんなにみたいだし。

 安里は生気を奪われたように横になっていた。ちょっと刺激的すぎたかもしれない。

「どうだった」と聞くと、恥ずかしそうに何も言わない。ここまでして恥ずかしいもな

いだろうと思う。「気持ちよかった」と聞くと、頷いてくれたから頭をなでて一つだけ

キスをしてあげた。普段から視界に入りすぎる箇所で想起しやすいだろうと思ったけど、

その理由でキスだけ経験させてあげないのも可哀相だなと感じて、軽く口が触れるぐら

いにした。

 当然、最後には誰一人にも口を割らない絶対的な秘密の約束と誓わせた。

 「もし破ったりしたらね、安里のこと大嫌いになるから。軽蔑して、この家から出て

くからね」

 そう強く突きつけると、安里は不安そうになった。口角を緩めて「大丈夫、誰にも言

わなかったら安里のこと好きなままだし、またしてあげるから」と言うと、まっすぐな

瞳で納得してくれた。



 それからも週末の親が家にいないときを見計らって、私は安里の性欲の解消をしてあ

げた。基本的な流れは変わらず、安里はいつも興奮して、私はそうでもない。私自身の

欲の解消にはそうならなかったけど、弟のためにやってるんだっていう自己犠牲の考え

にすれば気分は晴れてくれる。それに、異性に性感帯を触られる感覚はクセになりそう

だった。

 恋人とも夏休みが始まるぐらいのときにそのときを迎えた。向こうは初めてじゃない

ようで、リードしてもらったけど興奮してたのは圧倒的に相手だった。誰とやっても何

が変わるもんじゃないんだなと思った。

 夏休みになってからもゆったりすることはなく生活を続けた。普段は余裕ない中で過

ごしてる分、こういうときには待ってましたとばかりにぐうたらするけれど、それも去

年まで。高校生になったから、今年からはそこにバイトを入れることにした。ちょっと

でも家計を助けるために空いた時間は有効活用する。安里も休みだから母親も家にいら

れる火曜と木曜だけにして、母親のバイトのある月水金は家にいた。家にいる時間は安

里となんてことないことで遊んでる。テレビ見たり、ゲームしたり、外に出掛けたり、

なんとかごっこやらくすぐったりやら何でもあり。良い姉っぽいけど、やることないの

を紛らしてるだけ。

 バイトはサンプリングスタッフをやった。夏休みだけの短期で、高校生にもできて、

週に2日でもいい、優遇のきくのがこれぐらいだったから。仕事は街頭でのティッシュ

配りで、指定された場所で行き交う人たちに延々と広告用のティッシュを差し出しつづ

ける。大きめの駅の近くの人通りのあるところでポツンと数時間、作り笑顔でひたすら

配布したところでどんな効果があるのかは知らないけど。実際、ティッシュを受け取っ

てくれる人なんて一部しかいない。別に、受け取ってくれることで効果が私にあるわけ

じゃないから構わない。私が逆の立場なら受け取らないし。あったとしても、ティッシ

ュとしての用途しかないし。何度も人にぶつかって、何回か睨まれたりもして、こんな

ことを何でしなきゃいけないんだと思いながら暑さとともに耐えてった。毎日やってた

ら爆発しそうだったから、週に2日でかえってよかったと思う。

 一応、夏休みの思い出もあった。7月の後半、地元の花火大会に彼と行った。ただ、

花火は素敵だったし、彼と行けたのもよかったけどおかしな状況があった。私たちの横

には倫子の姿があったから。去年までは2人で行ってたから今年もそうだと思いこんで

たらしく、彼と行くと言ったら一様にしょげてしまった。義理で「3人で行こうか」と

言うと、思慮の欠片もなく乗ってきてしまい、こんな気の進まない形になってしまった

わけだった。倫子の浴衣を借りるつもりだったのが言えなくなって、私だけが普段着に

なったどころか、祭ごとにテンションが典型的に上がる倫子が気もそう遣わずに彼と話

が合ってしまって、倫子の手前でいつものぶりっ子に近い自分も演じられない私が付き

添いみたいくなっていた。