本紙の単独インタビューに答える安倍晋三首相=18日午後、別府市内のホテル
安倍晋三首相は18日、別府市内で大分合同新聞のインタビューに応じ、「地域の元気なくして国の活性化はない」と成長戦略の中で地域経済活性化を重視する考えを強調した。視察した茶畑や温泉地を例に挙げ、県内でも取り組みが進められている農業の6次産業化や外国人観光客の誘致、再生可能エネルギーを利用した発電施設の普及などを政府として支援していくと説明した。与党が国会提出に向けて議論している道州制推進基本法案に関しては慎重に進める姿勢を示した。
首相はデフレや円高、公共事業の減少で地域経済は長年にわたり疲弊しており、経済政策「アベノミクス」の効果はまだ地域に浸透しきれていないと説明。この日今季初勝利を挙げたサッカーJ1大分トリニータを引き合いに「1勝はしたが、まだ負けが込んでいるのでいきなり優勝とはいかないのと同じ」と述べ、景気刺激策で盛り込んだ公共事業費の円滑な執行に続いて地域資源を生かした活性化策が必要とした。
農業は「日本の基(もとい)。守るだけでなく攻めていきたい」として、加工、販売で付加価値を高める6次産業化をファンドからの出資で支援。外国人観光客のビザ発給要件を緩める方針にも触れた。
道州制推進基本法案に関しては、与野党や自治体首長らにさまざまな意見がある。首相は「(今国会での)成立は全然考えていない。まだ党で議論している」と説明。仮に道州制が導入された場合、地域格差の拡大を抑えるため「経済の中心地と州機能の中心地(州都)は別に考えることも十分にあり得る」との認識を示した。
県内でも不安の声が上がっている伊方(愛媛県)など原発の再稼働は、新基準での安全性が確認されれば実施する方針を重ねて強調。憲法改正の発議要件を緩和する憲法96条改正については、現行では衆参両院の3分の2以上の賛成が必要とされていることに関し「(改正が難しい)硬性憲法であることは3分の2を2分の1にしても変わらない。国民投票のハードルは同じだ」と述べた。
首相インタビュー要旨
安倍晋三首相へのインタビューの要旨は次の通り。
―「アベノミクス」の効果が大分県をはじめ地方では実感しにくい。地方経済の浮揚策は。
なるべく早く地域隅々まで景気が好転したと感じてもらいたいとの思いで、機動的な財政政策として(2012年度)補正予算を組んだ。大分県関係では東九州自動車道のミッシングリンク(未開通区間)解消をはじめ、広く地方に行き渡る公共事業を盛り込んだ。円滑な執行に努めたい。きょう視察した地域資源を生かした活性化の挑戦をしっかり応援していく。
―地域の農業をどう活性化させるか。
17日に発表した農業の成長戦略で農業所得倍増を目標に、農林水産物の輸出倍増戦略、農産物に付加価値を付けて売る6次産業化、農地の集積の三つを方向性として示した。加えて農業の多面的な機能を評価する新しい「直接支払い制度」を作っていきたい。守るべきものは守り、攻めるべきものは攻めて積極的に収入を増やす。
―道州制が導入されると、道州内で一極集中が起き周辺部は寂れていくという指摘がある。大分県はまさにそうなる懸念がある。今後の検討の方向性は。
今のままでは九州なら福岡に一極集中していく傾向が強いし、何より東京への一極集中が大きな問題だ。地方分権を進めていく上で道州という大きな「受け皿」がある。きょうの市町村長、議長との意見交換で(道州制に向けた)強制的な合併は困るとの声があったが、それは毛頭考えていない。地方6団体の声もしっかり聞いていきたい。
―法案の見通しは。
(今国会の)成立は全然考えてない。まだ党で議論している。
―大分県に近い四国電力伊方原発(愛媛県)などの再稼働に反対する声がある。再稼働への対応は。周辺自治体にどう理解を求めるのか。
原子力規制委員会が世界で一番安全な基準を作っている。安全と判断すれば再稼働を進める。立地自治体と関係者の協力を得るため、政府が一丸となって対応する。関係者の理解を得るため最大限の努力をして、周辺自治体の理解を得るための努力もする。
―沖縄の米軍に配置された新型輸送機オスプレイは県内上空でも飛行が確認されている。安全性に懸念はないか。
安全性は確認されているという考えだが、常にしっかりやっていただくよう米側に要求したい。
―首相が掲げる憲法96条の改正は9条改正を念頭に置いて考えているのか。
“本丸”が9条でそのハードルを低くしようとしているとの議論は根本的に間違いだ。まず96条改正には(国会議員の)3分の2を得なければならない。たった3分の1をちょっと超える国会議員が反対すれば国民は指一本触れられないのは、大きな課題だ。国会は発議するだけで、決めるのは国民だ。国民の手に任せるべきだというのが私たちの考えだ。
湯煙 発電規制緩和指示へ
来県した安倍晋三首相は18日午後、別府市の大学や温泉街など自身が打ち出した成長戦略に関連する施設や地域を見て回った。温泉熱発電の現場では、普及のネックとなっている規制を緩和する方針を示した。観光関係者や市町村長らと意見を交わし、経済政策「アベノミクス」の効果がまだ見られない厳しい地方経済の実情も把握した。
首相は温泉の熱水と蒸気を利用した「湯煙発電」を視察。発電施設は小規模でも技術者の配置が義務付けられており、担当者が「中小企業が新規参入する際の障害になっている」と指摘すると、首相は「茂木敏充経済産業相に規制を緩和するよう指示したい」と述べた。
立命館アジア太平洋大学では6カ国の学生と懇談した。ゲームなど日本の独自文化を海外に売り込む「クールジャパン戦略」に力を入れる首相は、ミャンマー出身留学生の「アニメで日本の文化に憧れ、留学先に選んだ」という話を傾聴。日本も交渉に参加する環太平洋連携協定(TPP)がスタートすれば、アジア・太平洋地域は物だけでなく人の往来も活発になるとして「グローバル人材の育成がより重要になる」と強調した。
17日に公表した成長戦略第2弾で外国人旅行者数を2倍超の年間2千万人に増やすとしており、鉄輪温泉を歩いて観光関係者の話を聞いた。
市町村の首長、議長との意見交換では「地域の特性を生かし、活性化を進められるように支援していく」とあいさつ。燃料高騰に苦しむ水産業など地方経済の実情に耳を傾けた。
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