世界人口70億人突破 食料危機のホントに迫る

工業化による生産性の向上

 なぜ、バングラデシュでは今、コメの価格が下がっているのでしょうか? コメが余りつつあるのでしょうか?

 それは、労働集約型の古い農業から、化学肥料や品種改良といった農業技術の進展や集約型の大規模農業へ急速にシフトすることで、以前とは比較にならないほど生産性が向上しているからです。

 世界的に見ると、現在主流とされる農業は、農地を集約し、農業機械と化学肥料を導入することで実現する、工業型の大規模農業です。

 古典的な農業では、たくさんの農民の人手を頼らないと生産量を維持できませんでした。しかも、農民1人当たりの生産性は向上しませんでした。それが工業化(機械化)された大規模農業なら農民の頭数自体をあまり必要としません。広大な農地でも、機械さえあればごく少ない人数で耕すことができます。

 つまり、農業に携わる人が少なくなっても、生産性が落ちないどころか、逆に化学肥料や品種改良といった農業技術の進展も相まって、世界的には生産性が高まっている。それが現状なのです。

 では、バングラデシュの農業はどんな状況でしょうか?
 最貧国のバングラデシュでは、農業機械を買える農民はごく一部です。手作業で田植えをしているケースがまだまだ多い。
 けれども、化学肥料はどんどん普及しています。
 実は、それだけでコメの生産量が飛躍的に向上したのです。
 結果、"最貧国"でありながら既にコメが余り、価格が下落しているのです。

農村で進む都市への人口移動

 そのバングラデシュでは、さらなる農業の発展が見込まれています。
 理由は、農村から都市への人口移動が進んでいるからです。

 え、それは農業の衰退を意味するのではないか? 普通、そう思うでしょう。ところが、逆なのです。

 バングラデシュはこの数年、高度成長に沸いています。中国や東南アジアでは、既に人件費が高騰しています。このため欧米や日本企業が、新たな工場立地のターゲットとして、バングラデシュに狙いを定め、多くの企業が進出を始めたからです。

 こうした外資系企業がバングラデシュ人を雇い、生産を始めたために、経済成長のスピードが増し、税収も上がるようになったのです。さらに、インフラ整備のために土木工事が行われ、つい最近まで路上生活者だった人々なども仕事を求めて集まるようになりました。

 すると、農村から都市への人口移動も起きます。農村で農作業を手伝う小作人に近い存在だと、1日に150円から多くても300円程度の収入でしょう。しかし首都ダッカで日雇いの土木工事に携われば、最低でも1日300円、多ければ500円ほどが手に入ります。この差はやっぱり大きいですよね。

 さらに外資系企業に雇われれば、農村の労働はもちろんのこと、都市での日雇い土木工事をもはるかに上回る高給を得ることができます。
 誰だって豊かになりたいですから、これは魅力ですね。
 すると人々は次に何を考えるか?
 それは、自分の子供に教育を施すことです。
 子供を優良企業に雇ってもらうようにするには、教育が不可欠だからです。
 教育に金をかけ、できれば大学まで出してやりたい…このように考える親が、バングラデシュの農村部にも増えてきているのです。

 ただし、充実した教育を子供に与えるには、従来の農村社会で典型だった多産型大家族では金銭的に厳しくなります。
 そんな事情もあり、現在、バングラデシュの農村では子供の数が2〜3人に減ってきた家が目立ってきました。

 つまりバングラデシュ社会は、次第に"子供をそんなに産まない"社会になるということです。まだまだ始まりの段階かもしれませんが、数十年経てば男性だけでなく女性も高学歴になり、子供の数はさらに減っていくことでしょう。つまり、先進国型の少子化社会の到来です。

アジアで日本が優位という幻想