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姉弟編
第十八話 弟、現る
七歳も年下の弟を男として意識してしまう自分が嫌だった。

そう。ほんと、たっちゃんの言う通り。

私は怖かった。圭が怖かった。自分自身が怖かった。
これまでの四人家族という形を壊してしまうことが、怖かったのだ。

あの日以来、圭とはしばらく口も聞かない時期が続いた。
怒っていたからではない。以前のように圭と接することができなくなったのだ。
圭の手、圭の肩、圭の視線、……圭のすべてが、私を戸惑わせた。
圭は男なのだと、意識してしまったから。

それから少しずつ、少しずつ時は流れ……。
圭が大学を卒業するころには、かなり普通に話ができるようになった。
普通の姉弟のように、時には口げんかをしたり、冗談を言い合ったり、笑い合ったり。

私は圭のことが好きだけど、それは圭が弟だから。
それでいいと思っていた。それがいいんだと思っていた。

考えたくなかった。
考えないようにしていた。

それなのに。
私のことが好きだとか、圭が言い出すから……。


*  *  *


「圭くんはともちゃんが好きで、ともちゃんも圭くんが好き。
 ほら、スッキリ問題解決だ。よかったね、ともちゃん」

たっちゃんの腕の中でひとしきり泣いて、涙が収まった頃、たっちゃんが笑顔で言った。

「や、たっちゃん、そんな簡単に……」
「なんで? 簡単だよ。お父さんやお母さんだって見守ってくれてるんだろ?」
「あれは、見守ってるというか……」

自分たちの子どもで遊んでるとしか思えない。

「でも、反対はされてない」
「けど……」
「二人が想い合ってるなら、結婚すればいいって言ってくれてるんだろ?」
「そう、かもしんないけどさ……」

圭と結婚なんて、そんなこと考えたこともなかった。
うちの両親が結婚を認めてくれたとしても、親戚や友だちはなんて言うだろう。
血は繋がってなくとも、姉弟で結婚するってやっぱりちょっと……

「世間体、とか?」
「ともちゃん」

急に真剣な顔つきになったたっちゃんが、私の手を握った。

「俺はともちゃんが羨ましいよ」

私が羨ましい?

「確かに世間体はいいとは言えないと思うよ?
 いろいろ煩いこと言ったり、影でこそこそ言う人たちはいると思う。
 けどさ。ともちゃんは結婚できるじゃん。圭くんと」

たっちゃん……。

「法律でだって認められる。ご両親だって祝福してくれる。
 なんの問題もないよ。世間体なんて気にすることない」
「たっちゃん、あの、私……ごめっ。っ???」

たっちゃんがいきなり、私の両頬の肉をびよーんと引っ張った。

「あはは……。ともちゃん、変な顔」
「はっはん、ひはい。はなひへー」

たっちゃん、痛い。離してぇ

「あ、赤くなっちゃった。ごめんごめん」

たっちゃんはすぐに手を離して、代わりに今は私の頬を撫でてくれている。
でもその目は私ではなく、どこか遠くを見ているようで……。
たっちゃんは独り言のようにつぶやいた。

「でも、俺らだって結婚するかも。
 親にだって認めてもらえるかも。
 友だちにだって……。
 ともちゃんみたいな友だちだっているし。ね?」

そこでやっと、たっちゃんは私の目を見つめて、微笑んだ。

「そっ、そうだよ。たっちゃんには、私がいるし。
 だから他の人だってきっと……、それに法律だって変わるかも……。
 そうよ。何より、たっちゃんには敬吾さんがいるもん。
 だから大丈夫。二人が想い合ってれば、大丈夫だよ」
「うん。そうだよね。だからともちゃんだって大丈夫。
 ともちゃんと圭くんが想い合ってるから。大丈夫だよね?」
「そ、ういうことに、なるの? か、な?」
「なるでしょ?」
「なる? よね?」
「あはは……。なんで疑問系?」

たっちゃんが軽やかに笑ったとき、たっちゃんの携帯が鳴った。

「あ、ごめん、ともちゃん。電話でていい?」
「もちろん」

こんなときでも、たっちゃんって礼儀正しい。

たっちゃんはブレない。
ちゃんと自分ってものを持ってる。
私もたっちゃんを見習わなきゃ。

「はい、もしもし? ああ、遅かったね。うん、いいよ。入ってもらえば?」

ん?

「もしかして、お客さん? だったら私……」
「いいから、ともちゃん。そのまま座ってて」
「でも」
「いいから」

バンっ

玄関のドアが乱暴に開く音がしたと思ったら、バタバタと乱暴に廊下を走る足音がして、
リビングに入ってきたのは、

「ともっ。やっと見つけた」

なんと圭だったのだ。


*  *  *


「じゃあ、俺、敬吾とあっちの寝室行ってるから」
「え? たっちゃん、ここにいてくれないの?」

圭と二人きりにされるのは、なんだかまだ心許ない。

「二人でちゃんと話し合ったほうがいいでしょ?
 なんかあったらすぐ来るから。ね?」
「う、ん……わかった」
「ふん。世話の焼ける女だな、全く」
「こらっ、敬吾」
「おいっ、とものことそんな風に言うんじゃねー」
「ちょっ、圭!」

なんかさっきから圭の敬吾さんに対する口の聞き方が雑なような気がする。
もしかして知り合いとか? や、まさかね。
でも圭はどうやって私がここにいることがわかったんだろう。
たっちゃんが家に電話したとか? うん。きっとそうよね。

「ほら、達也。立てるか?」
「うん。大丈夫、……つっ、」
「達也っ。ほら、手ぇこっち。もっと寄っかかれよ」
「う、ん」

腰の悪いたっちゃんを敬吾さんが補助して立ち上がらせようとしてるだけなんだけど。
いちゃいちゃ、らぶらぶに見えてしまうのは私だけ? 目のやり場に困る。

「はっ、世話の焼ける男だな、まったく」
「ちょっと、圭! たっちゃんにそんな口聞くのは許さないわよ。
 たっちゃんは腰を痛めちゃったの。たっちゃん、ごめんね。大丈夫?」
「いいから、ともちゃん。俺、大丈夫だから」
「ふん。ともちゃんとか、小学生かよ」
「圭。いい加減にしてよ。たっちゃんに謝んなさい」
「……」
「早くっ」
「……わりぃ」
「ちょっと、そんな言い方」
「ともちゃん、ほんと、いいって」

たっちゃんと敬吾さんがリビングを出て行くと、

「ったく。やりすぎだっつーの」

と圭がぼやいた。

やりすぎ?
いちゃいちゃしすぎってこと?

「俺には羨ましい話だけどね」

と肩をすくめた圭に、どういう意味なのか尋ねようとしたときだった。
圭の携帯が鳴った。
次話投稿は明日5月3日17時の予定です。


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