除染の実施地域は対象の5%以下5月17日 19時9分
東京電力福島第一原発の事故を受けて、福島県内で放射線量を下げるための除染が行われたのは、国や市町村が対象としている地域の5%以下にとどまっていることが、NHKの調査で分かりました。
さらに、除染が行われても、放射線量が基準とされる値まで下がらないところが多く、専門家は「除染事業の在り方を見直す時期にきている」と指摘しています。
福島県内で除染の対象となっているのは合わせて47の市町村で、原発事故の避難区域の中については国が、その外側の地域については地元の市町村が作業を担当しています。
このうち、これまでに除染が行われたのは、国が担当する地域では235平方キロメートルのうちおよそ9平方キロメートルと、全体のおよそ4%、市町村が担当する地域では、対象の住宅38万戸余りのうち、およそ1万9000戸と、全体の5%以下にとどまっていることがNHKの調査で分かりました。
さらに、除染が行われても、放射線量が基準とされる値まで下がらないところが多いことが、NHKが入手した福島県内の21の市町村のデータを分析した結果、明らかになりました。
データは、除染後の各住宅周辺の放射線量の平均を「地区」ごとに取りまとめたものです。
それによりますと、放射線量が、基準とされる年間1ミリシーベルト、1時間当たり0.23マイクロシーベルト未満にまで下がらなかったのは、43地区のうち33地区と、77%に上っています。
なぜ進まないのか
除染は、住宅周辺の道路を水で洗浄したり庭の表土を剥ぎ取ったりするなど手作業で進められています。
福島県や各自治体は、除染が進んでいない理由として、こうした手作業に時間がかかるうえ、この冬は雪が多く作業そのものが中止になることも多かったことを挙げています。
さらに、除染の対象となる住宅の所有者が避難していて連絡がつかなかったり、多くの自治体で除染に伴って出た土などを一時的に保管する「仮置き場」を確保できないことなども、作業を遅らせる原因になっているということです。
下がらない理由は
また、除染をしても放射線量が下がりにくい理由について、各市町村や専門家は、道路のアスファルトや住宅の屋根に付着した放射性物質は極めて小さい隙間にも入り込むため、水で洗い流したり拭き取ったりしても完全に取り除くのは難しいとしています。
さらに、もともと除染の対象になっていない森林や、まだ除染が行われていない農地や空き地などに残されたままの放射性物質が、周囲に影響を及ぼし続けていると指摘しています。
専門家「除染の在り方を見直す時期では」
除染の効果を研究している、産業技術総合研究所の中西準子フェローは「除染事業の在り方を見直す時期にきているのではないか。今のやり方で進めても放射線量が基準を下回る地域は限られる。すべての地域で住民が期待している水準まで放射線量を下げられるという“幻想”から抜け出さなければ、復興に向けた具体的計画は進まない」と指摘しています。
そのうえで、今後、求められる対応について「除染によってどの地域でどこまで放射線量を下げられるのかという見通しを住民に十分に伝えることが重要だ。放射線量が非常に高いところについては移住の支援も考えるなど、さまざまな方策をとることが求められている。国や自治体は、住民が現実を踏まえて人生設計を考えられるよう選択肢を示す必要があるのではないか」と話しています。
住民から再除染を求める声
除染の対象となっている福島県内の47の市町村のうち34の市町村が、NHKの取材に対し、除染が終わった地区を再び除染する「再除染」が必要だと回答しています。
福島第一原発から南におよそ30キロにある広野町も、「再除染」が必要だと答えた町の1つです。
広野町は、福島県内のほかの市町村に先がけて除染を進め、対象となった住宅1908戸のうち1852戸、およそ97%で作業を終えています。
しかし、除染を行った9地区のうち3地区で、放射線量の平均値が基準とされる値まで下がらず、住民からは「再除染」を行ってほしいという声が相次いでいるのです。
住民からの要望を受け、広野町は、再除染の費用負担などを巡って環境省に協議を求めていますが、今のところ具体的な進展はないということです。
広野町の除染対策グループの松本正人リーダーは「放射線量を下げるため、何とか再除染を進めたいと思っている。除染作業は人海戦術で、巨額の経費を町で負担するのは難しい。環境省から明確な回答を得られていないのを不安に思っている」と話しています。
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