オオカムのカミソリ負け

なぜに懲役10年を求刑できたのかと思ったら？

事件

運転少年に懲役5〜8年＝児童ら10人死傷事故―京都地裁（時事通信）　http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130219-00000069-jij-soci

　京都府亀岡市で昨年4月、集団登校中の児童らが車にはねられ10人が死傷した事故で、自動車運転過失致死傷と道交法違反（無免許運転）の罪に問われた無職少年（19）の判決が19日、京都地裁であった。市川太志裁判長は「責任は重い」として、懲役5年以上8年以下の不定期刑（求刑懲役5〜10年）を言い渡した。

　市川裁判長は「未来への大きな夢にあふれた2人の小学生と若い女性の命を奪った結果はあまりにも重大」と非難。「全国的に大きな不安や衝撃を与え、社会的影響も大きい」と述べた。

　事故当時の速度については検察側主張の時速約60キロではなく、遅くとも時速約50キロと認定。検察側は3件の無免許運転を併合罪として法定刑の上限を求刑したが、裁判長は「事故と別の機会の2件の無免許運転は居眠り運転と因果関係がない」とし、求刑は重すぎると判断した。

　少年は起訴内容を大筋で認め、弁護側は家裁移送し中等少年院送致とするよう求めていた。　

亀岡事件では興味深い現象がいろいろ起きました。中でも驚いたのが日本人の運転免許制度に対しての信頼感の異様といってもいいぐらいの強さですね。私なんてのは運転免許は行政の手続きの一環に過ぎず、あらゆる技能力を保証するわけではないと思っていたのですが･･･。吠えていた人たち自身がそこまでの道路交通法や運転の知識や技能を果たして持っているのやら疑問に思わずにはいられないほどでした。司法が無免許運転を容認したとか言っている人に対しては･･･無免許運転の最高刑が下されているのですがとしか言いようがない。

今回の懲役5年以上8年以下の不定期刑（求刑懲役5〜10年）が出た事に関して軽いと騒ぐ人の多さも驚きました。経過をネットでやり新聞なりでそれなり追って、まともに条文に当たってみる気があればこのぐらいの刑が出ることは予測できた事ではないかと思います。

ただ私に分からなかったのは検察側が10年を求刑できたのかという部分です。自動車運転致死傷の最高刑7年、併合罪で道路交通法の無免許運転の最高刑1年で計8年が最大ではないかと思っていたので。ここに書いてあるように無免許運転を三件分起訴して10年にするなんて普通思いつくようなことではありません。事故を起こした以外の二件分は検挙すらされていないわけですから無理がありすぎるというものです。

かつて新潟少女監禁事件で監禁罪の最高刑10年に加えてわずかな金額の下着*1窃盗に5年を併合罪として15年を求刑し最高裁で懲役14年が出た件*2とは比べものにならないほど問題だらけの求刑ですから。いくら最高裁判決の「併合罪は個々の罪を別々に処理するのではなく、全体を統一し処理すべきだ」という理論を用いても正当化できないでしょうから、無免許運転を一件分しか併科しなかったのは極めて正しい判断だといるでしょう。

あと少年法によって刑が軽くなったと思い込んでいる人が多いことにも驚かされます。この事件を成人が起こしたと仮定してみましょう。少年だと少年法52条第一項と同条第二項*3 *4により刑期のさらなる縛りがありますが成人だと長期10年の縛りがなくなります。そうすると刑法211条第二項の自動車運転致死傷*5と併合罪（今回の例では具体的には道路交通法117条の4第2号*6の無免許運転）で裁こうとすると刑法47条により*7最大で10年6ヶ月になります。その場合おそらく検察官は無免許運転を四件分を併合して懲役10年6ヶ月を求刑することでしょう。当然ながら4件にしたところで認められる件数が増えるはずもなく1件しか認められず自動車運転致死傷の最高刑7年と無免許運転の最高刑1年で懲役8年の判決が出ることでしょう。なので少年だろうが成人だろうが長期刑の長さは変わりません。少年の場合は短期が五年以上の不定期刑だから5年で出所する可能性があるから軽いと言い出す連中がいそうというかいます。不定期刑の刑期は更生保護法16条により地方更生保護委員会によって最終的に決定されることになっています。地方更生保護委員会は仮釈放の決定もするところであり、手続きの流れも仮釈放と同様に刑事施設の長が地方構成員会に申し出をしてさらに地方更生保護委員会が審査する事になっています。成人の場合でも仮釈放の可能性があるので必ず判決通りの懲役刑になるとは限らないのは同じ事なんですから。よって成人だったしても変わるところはなく少年法はおそらく刑には結果として何の影響も与えていないわけです。

これは余談ですけど、無期懲役が絡むときはやたら仮釈放がどうのとけたたましいですが、有期刑となる度誰も仮釈放について気にしなくなる。不思議でしょうがない。

ツイートする

Permalink | コメント(0) | トラックバック(0)