第12話 12式可変式機甲戦車『ヒュペリオン』
夢幻諸島 第04エリア 車輛開発研究所
神埼青葉
「前回は、我が艦隊初の機動兵器を紹介したが、今回は車輛型の機動兵器を紹介する。無論、陸軍出身の新しい人物を呼んでいますので、ご紹介します。では、入って来て下さい」
????
「はい。失礼します」
入室してきた人物は、戦車兵に支給される迷彩服を着ており、腰に鞘に収められている日本刀を下げており、黒髪のショートヘアーをしている女性である。
神埼青葉
「では、自己紹介をお願いします」
????
「はい。私は第一独立機甲師団隷下の第一独立戦車大隊大隊長の鹿島美鈴陸軍大佐でございます」
そう言うと、ペコリとお辞儀をする。何を隠そう、彼女は名家の令嬢出身であり、しきたりや伝統に縛られた生活から脱却するために、両親からの猛反対を跳ね除けて軍に入隊した経緯を持つ。
ちなみに、元はロングヘアーだったが、軍に入隊する際に、過去との決別のためにばっさりと髪を切り落としたと言うエピソードがある。
神埼青葉
「今回はあなたでしたか――陸軍初の、女性でのみ構成された第一独立機甲師団のトップ戦車エースにして、“装甲令嬢”の異名を持つ鹿島大佐――」
鹿島
「いえいえ。私一人の力ではここまで辿り着けませんでした」
自分一人の成果では無いと謙遜する鹿島。
鹿島
「ここまで来られたのは、寝食共にしました仲間達――パートナーのおかげです」
神埼青葉
「確かにそうだな。では、紹介をお願いしたい」
鹿島
「分かりました。では、こちらです」
鹿島の案内の元、連れてこられたのは、車輛の整備や点検を行う格納庫である。そこには、“戦車”と言うには大き過ぎる車輛――全長は40メートルは超え、砲塔部には大口径砲を4門を備えている車輛が鎮座しており、加えてその前には、2人の戦車兵用の軍服を着た女性がいた。しかも、その2人は鹿島にとって、大切な人である。
鹿島
「あ、あなた達は!?」
????1
「へへっ。待っていましたよ」
????2
「総司令官から呼ばれてきました」
彼女達は、鹿島が戦車長を務めている06式機動戦車『キイ』の搭乗員であり、最初に言った女性は『キイ』の砲手を担当する桜井桂子陸軍少尉、次に言ったのは『キイ』の操縦手を担当する衛藤麻友陸軍少尉である。
鹿島
「どうしてここに…」
神埼青葉
「衛藤が言った通り、自分が彼女達を呼んだのだ」
鹿島
「ま、まさか!?」
神埼青葉
「そうだ。卓越した指揮能力を持つ鹿島大佐の栄光を共に支えてきた熟練のパートナーならば、“こいつ”を――『ヒュペリオン』をうまく使いこなせると考えたからだ」
■12式可変式機甲戦車『ヒュペリオン』――性能諸元――
形式番号
・VMT-12
全長
・45.7メートル
全幅
・17.3メートル
全高
・10.5メートル(戦車形態)
・17.7メートル(半人型形態)
空虚重量
・220トン
最大重量
・254トン
懸架方式
・ハイブリット方式サスペンション
動力
・FE社製小型核融合炉『ゾンネ・アインズ』
出力
・3450kw
最高速度
・120km/h(リミッター時)
・150km/h(リミッター解除から60秒のみ)
行動距離
・事実上無限
装甲
・砲塔部
・全体250mmセラミック複合装甲
・車体部
・全体250mmセラミック複合装甲
※セラミック複合装甲の100mmは、通常鋼鉄装甲の300mmに匹敵する。
乗員
・3名(操縦手、砲撃手、戦車長)
※操縦・砲撃系統を戦車長席のコンソールパネルに委託する事で、1名でも可能。
武装
固定武装
・11式頭部40mm多砲身自動対空バルカン砲塔システム『トーデス・クヴァール』4門
・11式腕部40mm多砲身自動対空バルカン砲塔システム『トーデス・クヴァール』2門
・12式上部70口径305mm四連装軽量型電磁投射砲『ハイドラ』4門
・12式上部60口径432mm連装ブラストカノン砲『オルトロス』2門
※上部の砲は任務によって換装可能。
・12式砲塔左右220mm二十四連装マイクロミサイルポッド『ドラッヘン』4基
・12式砲塔左右76mm十六連装煙幕弾・チャフ・フレア発射機『ザント』4基
・12式車体左右12.7mm対人用四連装自動照準機関銃『レーム』12基
選択武装
・11式手持ち型203mmグレネードランチャー付属155mmビームライフル『ツィーレン』2丁
・12式手持ち型203mmグレネードランチャー付属120mm単装速射機関砲『フェルゼン』2丁
説明
特別架空連合艦隊初の陸戦型機動兵器。“機甲戦車”とは、機甲師団の象徴として祭り上げるために名付けられている。
この車輛は、人型部分及び砲塔部の上半身を、キャタピラを装備した下半身に接続した超大型戦闘車輌であり、砲塔に搭載される主砲は、軽量化した砲身を使用する四連装電磁投射砲『ハイドラ』(ギリシア神話に登場する『ヒュドラ』の別名)か、若しくは、ファントムコロイド粒子を使用して開発した連装ブラストカノン砲『オルトロス』(ギリシア神話に登場する双頭の魔犬)を、任務に応じて換装する事が出来る。
さらに、この車輛の最大の特徴とは、上半身と両腕を展開する人型形態に可変する事であろう。その際に現れた両腕には、ガンポッド式に収められているビームライフル『ツィーレン』若しくは、120mm口径の速射機関砲『フェルゼン』(ドイツ語で『岩壁』)を装備する事で、砲塔の主砲では補えない中近接戦闘に対応している。
この他、メインセンサーなどが収められている頭部に4門、腕部に2門の『トーデス・クヴァール』、砲塔左右に装備された『ドラッヘン』、煙幕弾やチャフ・フレアが発射可能な発射機『ザント』(ドイツ語で『砂』)、対人用の12.7mm四連装自動照準機関銃『レーム』(ドイツ語で『粘土』)等、バランス良く武装が装備されている。
動力には、FE社製の小型核融合炉『ゾンネ・アインズ』(ゾンネはドイツ語で『太陽』、アインズは数字の『1』)が導入されており、サスペンションには油気圧式とトーションバー・スプリング式を両方採用したハイブリットサスペンション式を導入した事によって、不整地でリミッターが掛けられていても時速120km/h、60秒間リミッターを解除する事によって時速150km/hと言う200トン超えの車体からは考えられない速度や機動性を持ち、且つ核融合炉の恩恵で、行動距離は無限となっている。
無論、全長40メートル超え、重量200トン超えと言う前代未聞の超大型戦闘車輛の運送には、従来の輸送艦や強襲揚陸艦では他の機能に支障を来たす恐れがあるため、車体には予めホバークラフト機能や、数秒間のみだが浮かぶ事が出来るスラスターを搭載する事で、上陸時にLCACでは運送できない欠点を補っている。
加え、巨大さ故の期待制御や火器統制システムの複雑さのために、従来の戦車のように操縦手・砲手・戦車長の3名を必要とするが、卓越した乗員ならば、操縦や砲撃系統を戦車長席にあるコンソールパネルに委託して1名で操作可能なようにしている。
しかし、これでも新機軸の技術を投入した事によって良くなった方である。核融合炉の採用による豊富なエネルギーと無限の行動距離の確保、従来の装甲から『キルケー』で採用された“セラミック複合装甲”を採用した事で、従来の硬さ以上の硬さ且つ軽量化に貢献しており、仮に従来の技術のみで『ヒュペリオン』を作らせたら、“車体の大きさは1.25倍、重量100%増し、速度は30km/h”が関の山と言う結果になってしまう事を踏まえると、やはり“良くなった方”である。
形式番号の“VMT-12”とは、Variable Mobility Tank――“可変式機甲戦車”を意味しており、機体の名前にある“ヒュペリオン”とは、ギリシア神話に登場するティターン(大地の子)神の一人にして“高みを行く者”を意味し、“太陽神”若しくは“光明神”と考えられる“ヒュペリーオーン”から来ている。
神埼青葉
「我が技術陣が最新技術の粋を結集させて完成させた『ヒュペリオン』――どうだ、こいつに乗ってみないか? なあに、操縦や砲撃時の操作は従来の戦車よりも簡略化されているから、大丈夫だ」
桜井
「いいねぇ~。見ているだけで、砲手の腕が騒ぐぜ」
衛藤
「私もよ。こう言う風に言われても、実際に搭乗して運転しないと、分からない事がありますからね」
鹿島
「あなた達…いいでしょう。総司令官、パンツァー・デア・フロラインの実力――とくとご覧になって下さい」
――10分後――
格納庫から初めて外に出てきた『ヒュペリオン』のコックピット――左側の砲手席に座っている桜井、右側の操縦席に座っている衛藤、一段上の戦車長席に座っている鹿島は、それぞれの担当する事を行っていた。
最大重量254トンの『ヒュペリオン』だが、道路は1000kgクラスの対地爆弾まで耐えきれるように舗装されており、さらに核融合炉の豊富なパワーをうまく駆動輪に伝えられる機構を駆動系統に備えているために、移動には支障を来さなかった。
神埼青葉
「どうだ。何かの異常は確認できないか?」
鹿島
「今の所は異常が確認できません。正常です」
神埼青葉
「それならば、可変機構の試験を行ってくれ」
鹿島
「了解――これだね。可変用のスティックって」
鹿島が座っている丁度右側に可変用のスティックがあり、それを手前に引くと、スクリーンには“可変システム開始”と言う文字と同時に、戦車形態から内部に収納されていた上半身と腕部が展開し、ガンポッドに装着されていた『フェルゼン』単装速射機関砲2丁を両手で掴む――これが“半人型形態”と呼ばれるモードである。
桜井
「ひゃぁ~、すごいすごい。ますます砲手魂を燃やすぜ!!」
衛藤
「興奮し過ぎですよ。少しは落ち着いて…って、言っても状況が状況だからね」
桜井の態度の変化に、衛藤は少し呆れつつも、長い付き合いからしょうがないと割り切る。
神埼青葉
「おぉ、始めて見たな。実際に可変する所を」
一応、3Dによる立体映像で可変するモーションを見た事はあるが、実際に見るのはこれが初めてである。
神埼青葉
「では、そこから射撃演習所に用意した装甲板を砲撃してくれ」
桜井
「了解。あれか……いいねぇ。ふっ飛ばし甲斐があるぜ」
砲手用の砲撃用スクリーンに映っている装甲板を確認した桜井は、彼女自身に宿る砲手魂に火がついた。
桜井
「装填用意。弾種――APFSDS」
装填準備は全てタッチパネルから行われ、機体内部の砲弾収納ラックに収納されているAPFSDSが4本の電磁投射砲の砲身に装填され、“装填完了”と言う文字がスクリーンに映し出される。
桜井
「目標の数4、距離1万4500メートル、照準調整――」
大まかな照準は射撃用コンピューターで調整されるが、細かな調整は熟練の彼女が手作業で調整し、照準を固定するロックを行うと、“ロックオン”と言う文字と共に緑の照準円が赤に変わる。
桜井
「鹿島大佐。発射準備が整いました」
鹿島
「分かりました。では、発射用意――発射ッ!!!!」
鹿島の力強い発射命令に応じ、桜井は発射トリガーを引く。トリガーと連動して、電磁投射砲からAPFSDSがマッハ4.50で放たれ、4枚の200mm厚の装甲板を一瞬のうちに撃ち抜き吹き飛ばした。
桜井
「こ、これ程の威力……なんて火力だ」
衛藤
「へ、兵器の概念を超えています……」
鹿島
「すごい…『シホ』なんかよりも火力も何もかも凌駕している」
『ヒュペリオン』の恐るべき火力に驚く3人。
神埼青葉
「こちらでも電磁投射砲の威力は観測された。これで決まりだ――『ヒュペリオン』は正式に部隊配備をすることを。生産コストやその他諸々を含めても、『ヒュペリオン』は普通の戦車の数倍の値段は掛かるが、その分――いや、それ以上の働きをしてくれるからな。そろそろ時間だな。では次回予告をする。次回は艦艇を紹介する」
次回に続く。
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。