日本維新の会共同代表の橋下徹大阪市長が、旧日本軍の慰安婦は「必要だった」と述べたことは女性の人権を否定する暴言だ。政党代表としての認識欠如と責任を厳しく問わねばならない。
橋下氏は戦時中には軍の規律を維持し、兵士たちに休息を与える慰安婦制度は必要だったという見解を示した。こういう主張だ。
従軍慰安婦制度は各国にあったが、日本だけが非難される。慰安婦を集めるのに、日本が国家として暴行、脅迫して拉致したという証拠は見つかっていない。韓国などの宣伝により、欧米社会では「日本はレイプ国家」のように見られている−。
戦時中ならどこでも起きたことだ、と抗弁するが、米国で奴隷制度を当時の基準なら正しかったと言うのと同じではないか。国連の諸会議では女性に対する性暴力の根絶を目指す動きが活発で、国際社会から強い反発を招くだろう。
話はさらに脱線した。沖縄で米軍司令官と会い、「海兵隊の性欲をコントロールするために、風俗業を活用した方がよい」とまで発言した。
太平洋戦争末期、沖縄には日本兵のための慰安所が置かれ、日本人や朝鮮人女性が集められた。沖縄は戦後も朝鮮戦争、ベトナム戦争の出撃基地になった。今も米兵による性被害は続く。
橋下氏の発言は過去の戦争を反省して平和を構築する、被害者の苦しみを受け止め語り継ぐという普遍的な価値観に完全に逆行するものだ。沖縄が置かれた現実に無神経であり、軍隊の暴力性にも関心がないようにみえる。
日本政府は一九九三年、当時の河野洋平官房長官の談話で、従軍慰安婦問題への旧日本軍の関与を認めて、謝罪し反省を表明した。慰安所は中国から東南アジアまで広範囲に存在し、旧軍が管理や慰安婦らの移送に関与したことは国内外の証言で確認されている。
日本は民間募金と政府も出資した「アジア女性基金」をつくり、元慰安婦への謝罪と償いに取り組んだ。韓国とはまだ議論が続いているという事実を、国際社会に対し地道に説明する必要があろう。
政府、自民党からは橋下発言への批判が相次いだが、党内では慰安婦制度への旧軍の関与を否定する声がある。韓国、中国との関係修復のためにも、安倍晋三首相は閣僚や党幹部に対し、歴史認識も含めて慎重な発言を徹底させるべきだ。
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