CIO_ウルトラバナー

ウルトラバナー横テキストバナー

イベント紹介用テキストバナー

国内事例

ベンチャー・リンク

“フランチャイズファクトリー”の完成を目指す ~新たなビジネスを創造するノウハウに迫る~

2002/02/15
名 称 株式会社ベンチャー・リンク
所在地 東京都台東区寿2-1-13
設 立 1986年3月1日
代表者 田中恭貴(代表取締役社長)
従業員数 620人(2001年11月30日現在)
売上高 282億6,700万円(2001年5月期)
url http://www.venture-link.co.jp

中古車買い取り販売店「ガリバー」、焼肉店「牛角」、中古クラブの専門店「ゴルフパートナー」など、さまざまなフラインチャイズ・ビジネスを支援し、そのいずれをも成功に導いているのが、ベンチャー・リンクである。同社の掲げる「フランチャイズファクトリー」というビジネス・モデルは、きわめてユニークである。新しい事業、付加価値を作り出す“NEW BUSINESS CREATOR”として、成長するビジネスを発掘し、育成支援するために、同社はITの分野でも新たな試みを次々と実行に移そうとしている。本稿では、そうした同社のノウハウを解き明かす。

宍戸周夫 text by Norio Shishido

ITがスタッフを後方から支援する


ベンチャー・リンクで執行役員(情報システム担当)を務める吉田智氏は、「FCはスピードがすべてだ。いち早く店を立ち上げた者が最終的に勝者となる。我々は先行者利益をねらっていかなければならない」と強調する。 photo by Keiji Kaneda

 2001年3月、東証一部に株式上場を果たしたベンチャー・リンクは、かねてから「終身雇用・年功序列」といったような旧来型の日本企業文化とは一線を画し、独自の企業文化を形成してきた。

 ベンチャー・リンクでは「企業家輩出機関」という社内スローガンを掲げており、同社に就職することによって、新たなビジネスの“種”を見つけ出し、将来必ず独立する、という決意を持つよう社員たちに指導している。つまり、フランチャイズ・ビジネスというニュー・ビジネスの創出を本業としているだけあって、スタッフ1人1人に企業家意識を持たせようという意識が強いのである。

 このように、「会社はセールスやマネジメントのノウハウを学ぶためのいわば修行の場である」という発想は、ベンチャー・リンク設立以来の基本理念となっている。同社の社是ともいうべき新事業創造者(ニュー・ビジネス・クリエイター)の精神が、同社の企業活動のすべてを支えていると言っても過言ではないのである。

 以上のように、すべてのスタッフが新事業創造者の一員として、企業価値を上げていこういう同社の姿勢は、IT戦略のビジョンにも色濃く反映されている。ごく一部の人間しか持っていないハイレベルな情報を共有化するための「ナレッジ・マネジメント」と業績を素早く把握するための「コックピット技術」――この2つの柱によって、スタッフの創造力を後方から支援しようとしているのだ。

 同社のIT戦略を統括する情報システム担当執行役員の吉田智氏は、同社のIT戦略のポリシーを次のような言葉で説明する。

 「現在、当社が取り組んでいるフランチャイズ・ビジネスはスピードが命。先行して新しいビジネスを立ち上げることが、そのまま利益につながるのだ。スタッフに企業家精神を求めるのも、ITの利用を推進するのも、すべてはそのためなのだ」

B2Bマッチングの先がけとして

 とはいえ、ベンチャー・リンクが創業当初から現在のようなフランチャイズ・ビジネスに注力していたかというと、そうではない。そもそもの同社の創業理念は、企業名からも分かるとおり、「中小企業をつなげる(リンクさせる)」というところにあった。その背景には、コンサルタントとしての経験を持つ創業者で、現在同社の会長兼CEOを務める小林忠嗣氏の「中小企業の活性化なくして、日本経済の発展はない」という信念があった。

 そこで、主に中小企業の経営者にとって役立つ経営情報の提供を目指して、1986年に会員制のビジネス事業を旗揚げした。事業内容は、各種ビジネス・リポートの提供や市場調査、コンサルティング業務のほか、会員企業間での取り引きの斡旋や技術・資本提携の仲介など、驚くほど多岐にわたっていた。

 サービスの対象となる会員は、全国の信用金庫ならびに地方銀行といった金融機関からの紹介というかたちで選定を進めた。これは、ベンチャー・リンクが当初から「意欲のある企業の手助けをしたい」という意向を持っていたためだ。会員数は、事業の立ち上げ当初こそ控えめだったものの、その後トントン拍子に膨れ上がった。現在では、その数は実に11万3,000社以上にも上っているという。吉田氏は、この事業が受け入れられた要因を次のように分析する。

 「当時、企業に対するコンサルティングなどの業務は他社でも行っていたが、多くの中小企業にとっては手の届きにくいものだった。そこで当社のサービスが受け入れられたのだと考えている。会員数が増えれば、それだけスケール・メリットが生まれるため、料金を抑えることも可能となり、それがまた新たな会員を呼び寄せる――というサイクルが生まれたことも大きかった」

 つまり、ベンチャー・リンクは、まだインターネットが世間に登場する前の時点で、今で言うところのB2B(企業間)マッチング・ビジネスを展開しようとしていたわけなのである。これが、ベンチャー・リンクの創業の姿であった。

FCビジネスの開花


「現在、“バランスド・スコア・カード・コックピット”なるものを構築しようと考えている。それを実現させることが、当面の私の目標でもある」と吉田氏は打ち明ける。 photo by Keiji Kaneda

 以上のようなプロセスで、中小企業支援ビジネスが軌道に乗るようになるにつれ、ベンチャー・リンクの経営陣の中に、もう1つの新しいビジネス・プロセスが浮上するようになってきた。それこそが、同社の現在の中核事業であるフランチャイズ(FC)ビジネスである。吉田氏は、「会員ビジネスを展開する過程で、我々の周りにいかに多くのビジネスの“種”が転がっているかに気づかされた。そこで、従来の支援サービスとは別に、会員企業とともに新たなビジネスを発掘してそれを魅力的なFCビジネスへと育て上げ、さらに優良な会員企業にはどんどん新規株式上場(IPO)をしてもらおうというビジョンが生まれたのだ」と述懐する。こうして、いよいよニュー・ビジネス・クリエイターとして、同社が本領を発揮することになるのである。

 まず、ベンチャー・リンクのFCビジネス進出への足がかりとなったのは、岡山に本拠を置くベーカリー・レストラン、サンマルクへの支援であった。3,000円という低価格で本格的なディナーのフルコースを提供するという、サンマルクの若い経営者の斬新なアイデアを、ベンチャー・リンクが支持したのである。その結果、サンマルクは、ベンチャー・リンクが支援を始めてからわずか4年後にJASDAQに株式上場するほどの急成長を遂げた。このことが、ベンチャー・リンクがFCビジネスに本腰を入れる大きなきっかけとなったのである。

 サンマルクに次いで、ベンチャー・リンクがFCビジネスを手がけたのが、中古車買い取り販売店のガリバーインターナショナルのケースであった。この市場には多くの先行企業が存在していたにもかかわらず、ベンチャー・リンクの支援を受けたガリバーは、わずか4年の間に450もの店舗を展開するというきわめて強気な戦略に打って出た。このかけは見事に当たり、ガリバーは瞬く間に全国的に知られる優良企業の仲間入りを果たしたのである。

 「FCにとって、スピードは重要な要素だ。つまり、それだけ“先行者”に利があるということだ」と語る吉田氏。ガリバーの支援に乗り出した当初、この企業には店舗展開に関するノウハウがなかった。それを悟るやいなや、ベンチャー・リンクは役員から営業スタッフに至るまで多数の人材をフランチャイズ本部に配備した。その迅速な対応が成功の大きな要因となったのである。つまり、ガリバーの経営者のアイデアと、ベンチャー・リンクの持つ経営資源/ノウハウが見事に融合したわけだ。ガリバーも、わずか3年という短期間で店頭上場を実現、現在でも中古車販売市場でトップの座を維持し続けている。

 以上の2つのFCビジネスの成功によって、ベンチャー・リンク自体も大きな躍進を遂げることになる。同社は、米国における最新のFCノウハウを学びつつ、自社の基盤でもある会員ネットワークの拡大に力を注いだ。そしてそのころになると、ネットワーク内に多数の新ビジネスの“芽”が育ち始めていたのである。このような状況の中で、ベンチャー・リンク自身も1995年3月にJASDAQへの株式上場を果たすことになる。

FCビジネスの“工場生産”

 サンマルクとガリバーの成功によって、確固たる地位を築いたベンチャー・リンクは、次なる挑戦へ向けてまったく新しいビジネス戦略を打ち出した。それが、「フランチャイズファクトリー」――つまり、FCビジネスを“工場生産”しようという大胆かつユニークな試みである。

 吉田氏は、この戦略を「通常、商品は工場の生産ラインを経て、チャネル開拓による販売、そしてアフター・メンテナンス――という流れで市場に提供されている。この流れをそっくりFCビジネスに適合させることができないかと考えた結果だ」と説明する。

 この戦略が生まれた1999年当時、ベンチャー・リンクの中小企業ネットワークでは、第2、第3のサンマルク、ガリバーとなる可能性を秘めた有望な新ビジネスの卵が生まれ始めていた。そうなると、それぞれの構想をできるだけ短期間で実現させていくために一種のルールが必要になる。そこで、このFCビジネスの発掘から立ち上げ、現場での支援までの流れ(ルール)をまとめてマニュアル化したわけである。

 このフランチャイズファクトリーでは、有望ビジネスの発掘(商品の開発)をファンクション1、FC事業化(商品化)をファンクション2、加盟店開発(販売)をファンクション3、スーパーバイジング(アフター・サービス)をファンクション4、そして最後に株式上場をファンクション5として位置づけ、それぞれのファンクションごとにベンチャー・リンク側が独自のノウハウや専門のスタッフを駆使して支援を行うという仕組みが採用された。

 現在では、このフランチャイズファクトリー方式はより進化を遂げており、ベンチャー・リンクから分社化された17の連結子会社が、各ファンクションをより専門的に支援するという取り組みも行われている。さまざまな事業分野にわたってビジネスの立ち上げのみならず、経営全般をトータルにサポートすることを重視しているわけである。

 「当社には、中小企業の経営者の方々のアイデアをFCとして全国展開するためのすべてのノウハウがそろっていると言っても過言ではない」と吉田氏は強調する。実際、このフランチャイズファクトリー方式によって、炭火焼肉酒家「牛角」、中古クラブの専門店「ゴルフパートナー」など、数多くのFCビジネスが立ち上がっている。また、支援先のFC本部を次々と上場を果たしており、上述の「牛角」のFC本部であるレインズインターナショナルは2000年12月にJASDAQへ、「北前そば 高田屋」などをFC展開するタスコシステムは2001年9月にナスダック・ジャパンへと、それぞれ上場を果たしている。

自前による情報管理の必要性

 フランチャイズファクトリー戦略の採用は、ベンチャー・リンクに情報戦略の見直しを迫る結果にもなった。つまり、星の数ほど存在するビジネスの中から、「確実に成功が見込まれるもの」を的確に選び出すための情報を強化する必要が生じたわけである。

 なかでも急を要する課題となったのが、10万社以上にも及ぶ会員企業の経営情報の管理であった。従来は、会員の紹介元である各金融機関にオンライン端末を設置し、そこを介するかたちで会員の情報を収集するという手法をとっていたが、会員数の増加によって、その仕組みも飽和状態となっていた。

 そこで同社は、インターネット・ビジネスに対応するための子会社ベンチャー・リンクコミュニケーションズを設立、そこで会員に直接アクセスできる環境を整えた。そして同社に全会員の情報を管理するためのデータベースを構築させたうえで、自社のスタッフがいつでも好きなときにそれを検索できるシステムを完成させた。

 「かつて当社は、ITの実装に関しては基本的に外部に委託する方針をとっていたが、それでは経営のスピードに対応できないということに気づいた。少なくとも当社の生命線であるマッチングの情報は、自前で管理する必要があると考えたわけだ」と吉田氏は語る。

暗黙知を形式知に

 現在、上述のベンチャー・リンクコミュニケーションズは、フランチャイズファクトリー戦略の中でASP(Application Service Provider)的な役割も占めている。例えば、「リンクカフェ」と名づけられているサービスでは、各FC店舗のPOSデータから顧客の購買履歴情報を吸い上げ、それを基にRFM(Recency:最終購入日、 Frequency:購入頻度、Monetary:累積購入金額)分析を行うといった支援を行っているのである。このASPサービスは、特に資金不足に悩む店舗にとって、貴重なアフター・サービスの1つとなっている。

 もちろん、各FCのニーズに合わせた独自システム構築の支援も並行して行っている。この分野に関しては、吉田氏が統括するベンチャー・リンク本社のINS部が担当する。例えば、ゴルフパートナーでは、全国200店舗の中古ゴルフクラブの情報をデータベース化し、INS部が独自で設計した「バーディネット」というシステムによって、イントラネット経由で商品情報が共有されているという。これによって、例えば、ある店舗の在庫に顧客の目当ての商品がなかった場合には、イントラネット経由で全国の店舗から該当する商品を即座に見つけ出して販売することなどもできるようになった。

 吉田氏は、FCビジネスの中でITの果たす役割はきわめて大きいと力説する。

 「FCビジネスを展開するうえで重要なのは、ビジネスの発掘と事業診断だ。だが、そこで的確な判断を下すためには、特別なスキルと経験が必要になる。したがって、放っておけば、そうした能力は一握りのスタッフの頭の中に“暗黙知”のまま埋もれてしまう。そこで、そうした特別なノウハウをすべてのスタッフが理解できる“形式知”にすることが求められるのだ。現在、当社ではそのためにナレッジ・マネジメントの導入を検討している。近い将来には、ナレッジを全社員で共有し、ITを大いに活用しながらFCビジネスを広く展開できるようになるはずだ」

新たな戦略でさらなる成長を目指す

 ITにまつわる課題はほかにもある。それは、ベンチャー・リンクが推進するフランチャイズファクトリー戦略の中でアフター・サービスにあたるスーパーバイジングの局面で、新しいITの仕組みを採用することである。

 現在、同社には50人弱のスーパーバイザーが所属しているが、同社は今後事業の拡大に伴い、この数を2005年5月期には600人にまで増員する予定だという。そうしたスタッフを支えるために今、ITが必要となっているわけだ。同社が理想とするスーパーバイジングとは、各FC店舗に顔を出し、売上げ情報を見て、社員に向かって単に「頑張れ」と言って帰ってくるような取り組みではない。的確なアドバイスによって、オーナーのモチベーションを強力に押し上げることである。現在でも、スタッフのスーパーバイジング能力を一定のレベルに引き上げる機能を持ったシステムはあるが、吉田氏は「まだ物足りない」と言う。

 「現在、私の中で思い描いている構想は、トップ・オブ・トップの能力を提供するようなシステムを作り上げることだ。核となる技術は、ナレッジ・マネジメントとバランスド・スコアカードになるだろう」(吉田氏)

 ベンチャー・リンクでは、営業スタッフは必ずノートPCを抱えて現場へ向かうという。彼らは、通常の営業活動を行いながら、場合によっては不良店舗を下取りし、優良店舗へと再生させるというような高レベルの業務もこなす必要がある。とはいえ、そうした手法を講じて特定の店舗の売上げを上げるためには、優れたスーパーバイザーのノウハウを必要とする。吉田氏は、そのような「一部の人しか持ちえない高度なノウハウ」を集中化させ、ITのパワーによって共有化したいと考えているのである。

 また、FCビジネスを順調に進めていくためには、各店舗の業績をつぶさに把握することも不可欠となる。それを実現するためのシステムの未来像として、吉田氏は「バランスド・スコアカード・コックピット」という言葉を用いる。これは、各店舗のビジネスの成果をあらゆる局面から評価し、その結果をリアルタイムでモニタリングできるシステムである。イメージとしては、オフィスのある一角に行けば、まるで飛行機か宇宙船のコックピットにある計器類のように整然とモニタが並んでおり、そこに各FC店舗の情報が映し出される。そして、そのリアルタイムの情報を基に、戦略の方向性を随時決定していく――というようなものだと考えていただければよいだろう。

 上述したようなシステムは、もちろん現段階では想像の域を出ていない。しかし、吉田氏は「いつか必ず夢はかなう」という信念の下、この戦略を実現へ向けて準備を進めているという。

 この“夢”を実現するために、ベンチャー・リンクは今後もユニークなIT戦略を次々と生み出していくはずだ。

(CIO Magazine 2002年3月号に掲載)

go_to_top

ページの先頭へ戻る