YOU THE ROCK★を知れ〜動き出した歯車


■動き出した歯車

 ちょっとここで時代背景を整理しよう。

 彼がデビューしたのが92年。

 その前年には「元気が出るテレビ」でダンス甲子園がブームになっている。つまりブレイクダンスが流行っていた時代だ。また同時にスチャダラパーもデビュー。実質的な日本語ラップのスタートとなる、伝説のグループ・マイクロフォンペイジャー(ムロ、ツイギー等)も活動を開始している。

 アンダーグラウンドで、動き出したヒップホップ。だが社会はバブルの絶頂期だった。日本中が浮かれきっていた時代に熱く叫ぶラップは支持されなかった。

■お呼びでない日本語ラップ

 この頃の彼は不遇だった。

 外タレの前座で出ると缶が飛んできて、罵声を浴びせられる。「お前も俺も日本人で、お前も俺もヒップホップが好きなのに、なんで耳が傾けられないんだ。お前ら黒きゃいいのか」、そう叫んでも聞いてもらえなかった。お呼びでない。それが日本語ラップの現状だった。

 ただ様々な経験を経て、さらに当時としては貴重なCDリリース経験もある彼は、すでに周りとは違うオーラを放ち始めていた。

 当時のユウザロックについて雷(現在、ユウも所属するユニット)のリノはこう語る。

 「93年に下北沢で『スラムダンク』というイベントがあった。そこでユウザロックと初めて出会った、最初30位のオジさんじゃないかと思った。その時から彼にはスゴク風格が漂ってた。『ユウです。ヨロシク!』って、今でも忘れられないよ」

 先述のリノもそうだが、90〜95年頃まで、日本語ラップを行う人が増えてきた。その代表格は、マイクロフォンペイジャーだったが、その他にも数多くの人がヒップホップの磁力に引き寄せられていった。

 だが絶対数はまだまだ少ない。必然的にライブなどで同じメンツが顔を合わすことになる。そして次第に彼らは仲間意識を持った。

■ブラックマンデー・雷の結成

 94年、ユウザロックは彼らを集めてクラブが一番ヒマな月曜日に『ブラックマンデー』をスタートさせる。

 「マイクを握る場所がなかったから、自分で作った。野郎を40人くらい集めて、2、3百円しかギャラは出ないんだけど、毎週やってた。2時間でも3時間でもずっとフリースタイル(即興のラップ)を皆でやってた」

 そして、この年に突如「今夜はブギーバック」「DA・YO・NE」が大ヒットする。わき上がる大衆とは裏腹に、当時、ブラックマンデーに参加していたメンバーは怒っていた。あれはヒップホップじゃない。なにがJラップだ。

 そして同年、伝説のグループ「雷」が誕生する。きっかけは、テレビ東京の「浅ヤン」だった。ある時、ブラックマンデーに「浅ヤン」のスタッフが遊びに来た。

 そのスタッフは「今度、ラップの大会があるから出てくれないか」と彼らに声をかけてきた。最初は断っていたが、変なラップが「これがラップだ」と紹介されるよりはと即席のユニットを結成する。

 そこには明らかに世の中のJラップブームへの怒りがあった。

 そんな時代に「雷」を落としてやる。そんな思いから雷は結成された。

 いざテレビ出演の際には覆面をかぶり、30数名がマイクリレーを行った。圧倒的なパフォーマンスを見せた彼らは当然のように優勝する。そしてそれが最終的に、ユウザロック、リノ、ツイギー、GKマーヤンの4人のMCとDJYAS、DJPATの「雷」として結成される。

 偶然から生まれたユニット「雷」を中心とした日本語ラップの波は、やがてさらなる舞台へと上っていく。

■ハコはでかくなるよ〜

 日本語ラップは、アンダーグラウンドな場所でゆっくりとコアなファンを増やしていった。まだヒップホップの専門誌もなければ、インターネットもない。全て口コミとリピーターだった。

 95年、「ブラックマンデー」の発展形イベント「暗夜行路」がスタート。当初は80人しか入らなかったが一回ごとに人数も増え、次第に会場も大きくなり、イベント名も「熱帯雨林」に変更。その中心的な存在はそこでもユウザロックを含む雷のメンバーだった。

■ラジオもスタート

 95年、もう一つの動きがあった。それはラジオである。

 かつてニューヨークで味わったヒップホップだけを流すラジオが忘れられなかったユウは、やがてアメリカのヒップホップカルチャーに影響を受けた漫画家・中善寺ゆつこと知り合い、「力になってあげる」と言われ、「ヒップホップ専門のエフエムがやりたい!」と言った。

 その結果、誕生したのが、95年10月から始まった東京エフエムの「ナイトフライト」だった。これは不定期ながら日曜日の深夜2時から5時まで放送された。現在は終了してしまったこの番組だが、リスナーの電話やファックスを通した熱いやりとりは、今では伝説となっている。

 またこの年には、マイクロフォンペイジャー、ライムスター(宇多丸、マミーDなど)、キングギドラ(ジブラ、Kダブシャインなど)が揃ってアルバムをリリース。いずれもその完成度の高さと類い希なスキルで日本語ラップの魅力を多くの人に伝えた。


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