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2009年8月 脳卒中で麻痺した手の新しい治療法 ―リハビリテーション科―

脳卒中による手の麻痺

脳卒中になると、一般的に損傷された脳の反対側の手足に麻痺(片麻痺と言います)が起こります。麻痺の程度は損傷された部位、広がりなどにより、リハビリテーションによる回復の見込みも麻痺の程度によります。通常のリハビリテーションにより、麻痺側上肢の実用性を獲得できるのはリハビリテーション対象者の3割~4割弱程度です。通常のリハビリテーションで、実用手を獲得できるのは発症早期より、麻痺側の指が別々に動かせる程度の軽い麻痺の患者さんに限られています。そのため、麻痺が重い人では、日常生活ではもっぱら麻痺していない方の健側の手を使うことになります。ただし、ここで注意が必要なのは、麻痺した手が実用的にはならなくても、日常生活で、補助的にでも麻痺している方の手を使ってあげることが、その後の拘縮(関節が固くなること)の予防、手の機能維持、更なる回復には重要になります。

Hybrid Assistive Neuromuscular Dynamic Stimulation (HANDS) "ハンズ"療法とは

随意運動介助型電気刺激装置(IVES)と手関節固定装具を1日8時間装着する脳卒中片麻痺上肢機能障害への新しい治療法です(図1)。随意運動介助型電気刺激(IVES)は特殊な電気刺激の装置で、患者さんの麻痺した筋肉の微弱な活動を電極で感知し、その活動に応じた電気刺激を麻痺した筋肉に与える携帯型の電気刺激装置です。通常の電気刺激装置と違い、患者さんが自ら麻痺した指を伸ばそうとした時にのみ電気刺激により筋肉が収縮し、動かそうとしなければ筋肉は動きません。ただし、安静時も非常に微弱な電流は電極から流れています。患者さんが自分で麻痺した指を動かそうとしても動かない場合でも、この刺激装置により麻痺で弱くなった筋肉の力を補助してくれますので、動かしやすくなります。電気刺激の強度は不快とならない強度に調整します。
手関節固定装具は手首を固定して手を機能的に良い位置に保つことにより、麻痺した上肢の筋緊張を弱め、より一層動かしやすくする働きがあります。
随意運動介助型刺激装置(IVES)と手関節固定装具を1日8時間つけて、作業療法による訓練を行うとともに、訓練以外の時間でも麻痺手を積極的に使用していただくのがHANDS療法です。
随意運動介助型刺激装置(IVES)をただ使用するだけで良くなるのではなく、それを使って、1日8時間麻痺した手を実際の生活に則した動作で使うことによって訓練の効果があります。そのため、この装置を着けている時に特にどういう動作を行うようにするのか、生活場面での麻痺手の使用の仕方をリハビリテーション専門医と作業療法士が綿密に評価を行った上で、プログラムを作成していきます。

図1

図1HANDS療法 日中(朝9時~夕方5時)は、刺激装置(IVES)はウエストポーチに収納して携帯していただきます。患者さんご自身が指を動かそうとするとそれを機械が感知して電気刺激がされ、指を伸ばす動きをアシストします。手関節固定装具は通気性に配慮したものを使用しており、極力、むれなどを防いでいます。装具を装着することにより、機能的な手の形となり、「つまむ」「離す」動作がしやすくなります。

治療の対象となる患者さん

  • 脳卒中による片麻痺患者(失調や不随意運動の方は除く)。
  • 発症から5か月以上経過して、いわゆる回復期のリハビリテーションを終えられて、在宅での生活を始められている方。
  • 杖、装具は使用していても構いませんが、歩行が一人で可能な方。
  • 日常生活の基本的な動作が自立している方(食事、トイレ動作、乗り移り動作など)。
  • 麻痺手の指を伸ばす筋肉(総指伸筋)の筋活動が表面電極で記録できる。
  • 感覚障害がない方、あっても軽度(目をつぶって、良い方の手で、麻痺側の親指を探して掴める)。
  • 失語症などの言語障害はあっても構いませんが、訓練の指示理解が可能、日常での意思の表出が可能な方に限られます。

除外項目(下記項目にあてはまる方はこの治療の対象となりません)

  • ペースメーカーを使用されている方
  • 麻痺側上肢に異常な疼痛、しびれのある方
  • 麻痺手の著しい拘縮(指や手首の関節がすでに固くなってしまって、他動的に動かそうとしても動かせない)方
  • 認知症、高次脳機能障害によって訓練の施行が困難な方
  • 麻痺側前腕に金属などの体内異物がある方
  • 皮膚の問題があり、電気刺激が困難な方
  • コントロール不良のてんかんのある方

治療期間

治療期間は3週間で、入院で行っております。治療前後の評価の期間も入れると3~4週間の入院期間が見込まれます。

副作用、有害事象

1日8時間電極シールを貼っているために、まれに皮膚が弱い方では、発赤、かゆみを生じることがありますが、一時的なものです。現在までに90名以上の患者さまに行っておりますが、その他の特に有害な事象は生じていません。

費用負担に関する事項

ここで行われるリハビリテーション、治療については、通常の健康保険内で行うリハビリテーションと同じ費用がかかると考えて下さい。つまり、治療費に関しては、普段の入院治療と変わりません。

HANDS療法の効果

脳卒中片麻痺患者さん50例の結果では、3週間のHANDS療法の治療により、麻痺手の機能は有意に改善しています。
あくまでも平均的な結果ですが(個人による差はあります)、

  • 指が伸ばせない、伸ばすことはできても、繰り返していると伸びなくなってしまう方では、指が伸ばしやすくなります。それにより日常生活では、麻痺した手で物を握って、離すことが以前に比べると楽になりますので、日常の様々な場面で、補助的に麻痺手を使用することが可能となります。
  • 指が伸ばせる方では、さらに指のコントロールが容易となり、1本、1本の指を多少別々に動かせるようになる可能性があります。こうなると、さらに麻痺した手で細かなつまみ動作が可能となり、本のページをめくるなどの動作が可能となります。
  • 指の機能だけでなく、我々の研究では、肩や肘の機能にも改善を認めています。
  • 効果は3週間の訓練が終わった後にも日中の装具使用、麻痺手の日常での使用励行により治療終了後3カ月経過した時点でもほとんどの方で機能が維持できています。(図2、図3)
図2

図2 3週間のHANDS療法前後で麻痺手指運動機能、肩・肘運動機能評価得点ともに有意な改善を認め、その改善は治療終了後3か月経過した時点でも維持されていた。(脳卒中片麻痺患者30名の結果)

図3

図3 HANDS療法治療前ではほとんどの患者さんは麻痺手で「湯のみを口へ持っていく」や「本のページをめくる」ことができませんでしたが、治療後には半分以上の人がこれらの動作が可能となりました。この日常生活での実用性の改善は、治療終了後3か月経過した時点でも維持されていました。(脳卒中片麻痺患者30名の結果)

治療を希望される方へ

上記治療対象に該当する方で、除外項目にあてはまらない方で、治療を希望される方は、主治医の先生または他院リハビリテーション科にかかっていらっしゃる方はリハビリテーション科の医師より、今までの経過や現在のお薬の処方内容がわかる紹介状をご持参のうえ当院リハビリテーション科外来(担当:藤原 毎週火曜日)を受診ください。診察の上、最終的に治療の適応の有無を判断させていただきます。
大変申し訳ございませんが診療業務等に支障を来しますので、電話などでの個別のお問合わせにはお答えできませんので、ご容赦願います。
なお半年以内に頭部MRIや頭部CTを撮影されておりましたら、ご持参いただけると助かります。

チームHANDS

図1

藤原俊之(専任講師、リハビリテーション専門医)、補永 薫(助教、リハビリテーション専門医)、阿部 薫(作業療法士 主任)、倉澤友子(作業療法士)、前田陽子(作業療法士)、深川 遥(作業療法士)、白井幹子(リハビリテーション科レジデント)、宇内 景(リハビリテーション科レジデント)

関連リンク

慶應義塾大学医学部リハビリテーション医学教室

記事作成日:2009年7月28日
最終更新日:2009年7月28日

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