« vol.4 アニメは原作者になにをフィードバックしたのか? | トップページ | vol.6 大塚さんのムーミンへのこだわり »

vol.5 ビジネス戦略が一人歩きした

header_otsuka

おおすみ あと、もう一つ、僕らムーミンのスタッフは、もともとルパン三世を準備していたチームで、ルパンのテレビ化が決定するまでの期間内に、2クールだけの約束でムーミンやったんです。だからルパンが決まったら、戻らざるを得なかった。今思えばね、広告代理店にしても、何らかの理由付けが必要だったと思う。だって、製作プロダクションが一方的に降りたなんて話は前例が無いし、クライアントを始め、各方面に対してなんらかの理由付けが必要でした。トーベ・ヤンソンが怒ったって話が非常にリアルな話で伝えられているのも、それを拠り所として強調したからですよ。これまでのムーミンが間違っていたから、プロダクションを変えた、と云わざるを得なかった。

R0012267大塚 当時、高橋さんはね、プロダクションを変え、キャラクターを描きなおしたのは、もっと原作に近づけるため、と宣言してた。

おおすみ 僕らがやめたので、周囲を納得させる理由が必要になった。捨てられたというわけにいかないから、ヤンソンさんを口実に、前作を否定して、新しいムーミンを作りますと、PRせざるを得なかった。そう考えると非常によくわかりますよ。

大塚 電通の当時の担当者だった町田さんが東京ムービーにやってきていろいろ聞きましたが、高橋さんはオリジナルに戻そうとした。で、やってみたら、あ、これは売れないって思った。

おおすみ そのマーケティングの中にトーベ・ヤンソンさんのクレームも誇張して利用されたという気がしますね。放送時、視聴者にはかなり評判がよかった東京ムービー版のムーミンを、なぜ変えたかっていうことに関して、ロジックを作らざるを得なかったんですよ。実は、あれは全部ダメだと。自分たちがダメだと思うだけじゃなくて、トーベ・ヤンソンさんも認めていないと。だから改めて新しいムーミンを作る、といわざるを得なかったんです。

‐‐‐‐でもその話だけは大きく残っちゃってますね。

R0012307 おおすみ 製作中は、トーベ・ヤンソンからの苦情は原作者として当然という程度に伝えられていたけど。全面的に否定だと聞かされたのは、ずっとあとでした。
今でも、テレビ嫌い、アニメ嫌い、の文学至上主義者たちが、このクレームの出所を確かめずに、騒いでいるように思えます。おそらく、この人たちは私たちの作品を見ていないでしょう。見た上で作品として、批評してくれるなら良いのですがね。

大塚康生さん 略歴

1931年島根県生まれ
東映動画アニメーター第一期生。日本におけるアニメの創生期から第一線で活躍。

宮崎駿さん、高畑勲さんの先生であり、まさに日本の近代アニメーションにおける礎。アニメーターの父と云うべき人物。

元麻薬Gメンという異色の経歴を持ち、軍用車両に造詣が深く、ジープマニアとしても有名。

現在は一線を離れ、スタジオジブリや東映アニメーション研究所などで後進の指導にあたっている。
日本アニメーター・演出協会 (JAniCA) 会員。

|

« vol.4 アニメは原作者になにをフィードバックしたのか? | トップページ | vol.6 大塚さんのムーミンへのこだわり »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/209761/42332959

この記事へのトラックバック一覧です: vol.5 ビジネス戦略が一人歩きした:

« vol.4 アニメは原作者になにをフィードバックしたのか? | トップページ | vol.6 大塚さんのムーミンへのこだわり »