vol.4 緊張感を演出する
おおすみ 僕は、三木さんが学生時代に作ったクレイアニメ(注:1)のファンなんですよ。ずいぶん前だけど知り合いにみせてもらってずっと記憶に残ってる。本当にすごかった。
三木 お~、ありがとうございます。
おおすみ またクレイアニメを作ったりしないんですか?
三木 うーん、新しい作品をつくる気はないですね。どちらかというと、今の自分の置かれた立場と、新しく知り合ったスタッフと一緒に、もう一度あの世界観を再現したらどうなるんだろう、という興味はありますね。
おおすみ コマ撮りそのものが、面倒くさいってことはないの?
三木 それもちょっとありますね。だからもう手法はコマ撮りじゃなくして、あらゆる特殊効果を使って、あれに近いことを今やったら、どれくらいクオリティーが上がってるのか、とういうことに関しては興味があります。
‐‐‐‐三木さんも石井さんも、映画やCMなどを作るとき、細かいキャラクターまでイチから全部決めてたりしますよね。やっぱり最初から最後まで本当は全部自分でやりたいと思っていたりするのでしょうか?
石井 自分でやりたいのも山々なんですが、自分よりうまい人たちがいるってのも知ってるので、ある程度までは書いて、まぁ靴なんて作るわけないんだけど一応描いて、それを見た感じでやってくれと投げるんです。それで、イメージ通りにならなくても、それはそれで事情があるんだなと。
おおすみ うん。
石井 CMをたくさんやってると、やっぱり衣装はこうじゃなきゃダメだとかいって、たくさん作ってもらうんですけど、タレントさん本人が着たくないだとか、似合わないとか、いろいろな事情がでてくるんですよね。美術とかの場合は、自分のイメージより、さらにもっとすごいのをデザイナーさんが作ってきたりしてくれますね。あー、こういう人がいるなら任せてもいいかな、と思うんですよね。
おおすみ 協力ってのはありがたいものでね、自分にないところを補ってくれるからね。でもこれからは一人で何もかもできる人、あるいはやりたいと思ってる人が、台頭してくるのかもしれないなぁ。
石井 一人のパワーが強いと、すごいんだなってのはなんとなくわかります。小池健君とかみてると思います。マッドハウス(注:2)のアニメーターで『TRAVA - FIST PLANET』(注:3)を僕と一緒に演出した人なんですけど。
おおすみ あ、彼はマッドハウスから出てきたとは信じられないくらい、自分のスタイルで絵を描いてたからビックリしたね。前に一度、アメコミ漫画をアニメーションで作りたいと思った時があったんだけど、アニメ業界でああいう絵を描ける人は絶対いないなと、そのころは結論付けちゃったんだよね。アニメーターってのは、例えば宮崎駿とそっくりな絵を描けるから、ジブリで優秀なアニメーターとなるわけだからね。いかに自分のことを殺せるかってことでしょ。それは仕事として当然なんだけど、そのうち何年かするとその絵しか描けなくなっちゃうんですよ。
石井 今また小池君と『RED LINE』(注:4)という劇場公開用アニメーション作ってて、僕の中では、完全にアメリカ向けに作ってるんですよ。しかも西でも東でもなく、アメリカの真ん中辺に住む人たちにポイントで狙ってるんです(笑)。
おおすみ (笑)わかる、わかる。
石井 ほんとにバタ臭い映画で、車もいっぱい出てくるみたいな。世界観はスターウォーズなんです。スターウォーズの中のレースをやってる人たちの話(笑)。
おおすみ いいねぇ、それはぜひやってよ!
石井 僕、何年か前にタランティーノの『KILL BILL』のアニメパートのキャラクターデザインをやったんですけど、自分の中でまだまだだと思ったんですよね、もうちょっとイケる!みたいな。
‐‐‐‐アメリカでの評判はどうだったんですか?
石井 よかったんですよ。タランティーノも大喜びでした。彼は『鮫肌男と桃尻女』のオープニングを見て、「あれは誰が描いたんだ?」となって、僕が描いたって言ったら「じゃ、今度頼むから」ってことになって、3年ぐらいして新宿の小さい飲み屋に呼ばれて『KILL BILL』ってのをやるんだけどどうか?て言われたんです。
(ここで石井克人新作アニメーション、『RED LINE』のパイロットフィルム(5分ぐらいでした)をみせてくださることに!そして大満足の鑑賞会の後も対談はつづく・・・)
おおすみ これは、最終的にどれくらいになるの?
石井 1時間半ちょうどくらいです。
おおすみ この作品で難しい点は、このあとストーリーをどこまでひっぱるかだね。ストーリーはどうでもよくって、遊びさえあればいいんだとういう作品もあるけど、これは、よほどストーリーへの吸引力っていのかな、そういうものがないと、絵柄がおしゃれっぽいからミュージッククリップに見えちゃうんですよね。それは損です。本当に。単なる素材集になっちゃう。1カット、1カットが、すべて一つの方向に向かってるような、何かに引っ張っていかれる緊張感みたいなものが持続すれば、これは大成功するね。
石井 なるほど。
おおすみ 石井さんのアニメ『TRAVA - FIST PLANET』でも、宇宙船の中でキャラクターたちが馴れ合ってる。僕もルパンや次元でやったけど、ああいうの大好きなんですよ。馴れ合いながらも、緊張感をだしていくんですよね。
石井 ですね。
おおすみ 例えばタランティーノの『パルプ・フィクション』なんかでも、サミュエル・L・ジャクソンが車の中で「ビッグマックがフランスでは…ナントカ、カントカ」ってダラダラとくだらないおしゃべりを熱中してやってるでしょ。やってるけど、観ててね、これからギャングに行くんだっていう緊張感は絶対はずさないんですよ。
三木 はいはい。
おおすみ 今見たかぎりでは、あの仮付けの音楽が場面を伴奏しすぎてたからね、このままじゃミュージッククリップになっちゃうなと思った。違う音楽が流れていたら、緊張感に繋がったかもしれないね。ルパンでも音楽監督の山下毅雄さんと打ち合わせした時も、最初にそれ言ったんだけど、あの人は伴奏音楽に慣れててね(笑)、全部で90曲ぐらいつくるのだけど、とにかくドンスカドンスカは全部やめてくれっていったんですよ。絵にあわせた伴奏はいらないって。
三木 へぇ~。
おおすみ いま目の前で起こっていることを、わざわざ伴奏する必要はないと。もし入れるなら、今そこで起こってないこと、しかしこれから起こるであろうこと、あるいは、もう過去に失ったであろうこと、そういう距離の遠いものを流してくれと言ったんです。
三木 それ面白いですね~。
おおすみ で、場面の迫力がなくならないように、SEだけはガンガン入れて…。たとえば、デビッド・リンチのマッチをちょっと擦るだけで…
三木 ジョワ~って。
おおすみ そうそう、音が広がる。それぐらいのSEの誇張ってのはずっと言い続けた。
三木 あー、おもしろい。
おおすみ それは僕の独創でも何でもなくって、昔のアメリカのハードボイルドタッチの映画は、ハリウッド風のアクション伴奏が、ほとんど入ってないんですよ。ニューヨークの冷え切った夜、遥か向こうのビルの方にトランペットの音が流れている、でもこっち側では血みどろの戦いをしている。そういう場面が非常に子どもの心にも印象に残っているから、そういう使い方をするように心がけた。
三木&石井 へぇ。
三木 非常に勉強になりますね。僕らみたいな今30代、40代で演出をしてる人間にとってもいろいろ発見があっておもしろいなぁ。
‐‐‐‐まだまだ話しはつきない3人の対談ですが、ここからはより一層ディープに。続きは番外編『おおすみ正秋の物語論』にて近日公開します!
注:1 三木さんのクレイアニメ・・・学生時代から部屋で一人でクレイアニメを制作し、世界中で数多くの賞を受賞している。
注:2 マッドハウス(wikipedia)
注:3 TRAVA - FIST PLANET(英語版 wikipedia)
注:4 RED LINE・・・石井監督の次回長編アニメーション作品。
三木俊一郎監督
1968年生まれ。東京都出身
武蔵野美術大学卒業。葵プロモーション入社後、CMディレクターとして数々の国際的な賞を受賞。特にファンタのCMなどで見せるナンセンスなギャグ表現に定評がある
石井克人監督
1966年生まれ。新潟県出身
武蔵野美術大学卒業。東北新社に入社後、CMディレクターとして働く傍ら、多数の映像作品を手がける
クエンティン・タランティーノのファンとして知られ、『キル・ビル Vol.1』ではアニメパートを担当した
主な監督作品:鮫肌男と桃尻女、PARTY7、茶の味、ナイスの森、HAL&BONS
ナイスレインボー
三木俊一郎監督、石井克人監督、ANIKI(伊志嶺一さん)によりクリエイターユニット“ナイスの森”を2003年に設立。同名の劇場映画を制作。 2006年10月に株式会社ナイスレインボーとして現在活動を続けている
| 固定リンク
コメント
おおすみさん、もう一回大塚康生さんと組んで
「ルパン三世」のハードボイルド、かつアンニュイな
世界を見せてください。
「暗殺指令」は色々な制約があったのでしょう。
イマイチでした…。
ルパンと次元さえ出てたら、他のキャラは無理に出す必要ないじゃないですか。
僕にとっては、「ルパン三世」は「大隅ルパン」しかありません。
よろしくご考慮ください。
投稿: 大隅ルパンが全ての原点 | 2008年5月17日 (土) 19時38分
おおすみさんカッコイイですよ、妥協しないプライド。
あの時の判断は正解だと思います、大人になった当時の子供は正当に評価しています。
本当の成功者と言えます、これからも応援しています。
投稿: タルデリ | 2008年8月 3日 (日) 22時36分
ルパン三世のコト語ると熱くなってしまい
周りが引きます(笑)
「大隅ルパン」だけをひたすら愛してきました。
これからも永遠に「大隅ルパン」を愛し続けます。
大隅さん本当にステキです
いつまでも私のあこがれです。
投稿: Limoncello | 2011年7月20日 (水) 15時31分