vol.3 ファーストシリーズの魅力
‐‐‐‐ルパン三世ファーストシリーズでは何話目がお好きですか?
石井 ぼくは、1、2話が好きですね。特に2話が好きです。あのパイカルの。
三木 あー、『魔術師と呼ばれた男』ね。
石井 あれはもう、何回も観ましたね。アニメ本も持ってますもん。アニメを漫画にしたやつ。質感がすごく好きだったんですよね。
おおすみ へぇ。
石井 なんか当時、好きだった質感ってのがあって、一番最初に漫画に目覚めたのが、『アストロ球団』(注:1)という漫画で、作画の中島徳博さんがお尻やシワを描くのがすごくうまいかったんです。で、そういうシワとか描けるのすごいなぁから始まって、ルパンを観たとき、「ヤバイ!」っていうか、「キタッ!」って感じがしたんです。
‐‐‐‐石井さんの中で、ルパンは"ストーリー"というより"絵"なんでしょうか?
石井 いや、ストーリーも好きですよ。やっぱり前半の方の大人っぽい話とか、すごい好きですね。男女の馴れ初めがアニメの中に絡まってるのって、あの時代そんなになかったですからね~。
三木 そうそう。
‐‐‐‐おおすみさんは最初にルパンを作る際、子どもが見ることを想定していなかったそうですが、放送が始まってからもですか?
おおすみ もうね、したらダメだと思ったの。僕は、さんざん文句言われてクビになったけど、クビになった理由は唯一点「視聴率が低い」ということだったんです。その理由としては、説明不足ということだったんだけど、「子ども向きじゃない」ってのは、理由として一回も出てこなかった。それが残念だったね。むしろ「子どもの教育によくないからクビだ!」ってはっきり言ってくれたほうがよかったよ。
三木 でも僕らはまさに子ども時代に惹かれましたねぇ。大人っぽいところがよかったんでしょうね。
石井 あと、車とか時計とか、昔から好きなのかもしれない。僕『がんばれ!ベアーズ』とか好きだったんですよ。
おおすみ 僕も物心ついたばかりの時に『愛染かつら』(注:2)っていうメロドラマみて、えらい感動した覚えがあるんだけど、大人向けの作品なのに何故だろうって考えたら、3歳くらいの子どもでも、人を「好きなる」「嫌いになる」「別れると悲しい」っていう人間の基本感情が、ちゃんと分かるんだよね。メロドラマって、大体この3つの要素で成り立ってるんですよ。
石井 ルパンでも三角関係とかあって、不二子はパイカルのことを別に嫌いじゃなかったり、でもルパンも好きだったり、そういう複雑な大人の事情とかがあって、さらに謎解きとかあったじゃないですか、あれがすごかった!1本の映画でもいいんじゃないかと思ったぐらい。
おおすみ モンキーさんとの対談でも話が出たんだけど、当初、1時間半の映画を毎回30分に縮めるくらいの密度でやろうと思って、実際、1時間半の台本を書いてもらって削ったり直したりして作ってたの。
三木&石井 へぇ!
おおすみ 作業としては大変だったけどね(笑)。
三木 最初、2話はどんな感じで膨らんでたんですか?
おおすみ 2話はねぇ、膨らませたというより、最初から削る一方だったの。シリーズとして、五右衛門出せ、銭形出せ、レギュラーは毎週欠かさずに!っていうプレッシャーがあったから、2話の場合それを想定して台本が上がったんだけど、五右衛門なんて出せるもんじゃないから切っちゃおうとか、たしか銭形も出てないんじゃなかったかな?
石井 出てないですね。
三木 それがいいんですよね~。
おおすみ うん。そういう減らしかたをして、最終的に「あ、まとまった。」ってなったの。
三木 なるほど。じゃぁ、最初の台本には銭形も出てたんですね。
おおすみ あと、2話で一度やってみたいなと思ってたのは、"見終わった後も、後をひく作品"を作ってみたかった。ディズニーや東映なんかのアニメーションで、終わってから後をひくものがないんですよ。観てる時は感動したり、興奮したりして、それはすばらしいものがいっぱいあるんだけど。ほら、よく作品の良し悪しじゃなく、見終わった後に「あの人たちはどうなったんだろう?」とか「どうしてるんだろう?」とかいう風に、キャラクターが後をひく映画ってあるじゃないですか?
石井 ありますね。
おおすみ ディズニーの作品は好きなんですけど、何本見てもそういう作品はないんですよね。アニメってのはなぜかな?見終わったらそこで、本当に終わりになってしまうんですよね。だから、2話では後を引くものを作りたくて、ラストの作り方は何パターンかあったんだけど、結局あのかたちにしたんです。狙ったほど余韻は残らなかったけどね(笑)。まぁちょっとは後ひく感じになったかなと。
三木&石井 ひきますよ~!
三木 なんか、儚さがあるんですよね。
おおすみ でも、テレビ局のリアクションは非常に厳しいものがあったね。「これで終わりですか?」とか、そういうドキッとする質問されたりね。
石井 わかんなかったんですね。良さが。だって探偵物語とかって、まんま旧ルパンですもんね。完全に影響されまくってますよね。旧ルパンがなければ探偵物語も生まれてないですよ。
おおすみ あはは。いい意味で後を引いたんなら、やってよかったのかな。
注:1 アストロ球団(wikipedia)
注:2 愛染かつら(YouTube)
三木俊一郎監督
1968年生まれ。東京都出身
武蔵野美術大学卒業。葵プロモーション入社後、CMディレクターとして数々の国際的な賞を受賞。特にファンタのCMなどで見せるナンセンスなギャグ表現に定評がある
石井克人監督
1966年生まれ。新潟県出身
武蔵野美術大学卒業。東北新社に入社後、CMディレクターとして働く傍ら、多数の映像作品を手がける
クエンティン・タランティーノのファンとして知られ、『キル・ビル Vol.1』ではアニメパートを担当した
主な監督作品:鮫肌男と桃尻女、PARTY7、茶の味、ナイスの森、HAL&BONS
ナイスレインボー
三木俊一郎監督、石井克人監督、ANIKI(伊志嶺一さん)によりクリエイターユニット“ナイスの森”を2003年に設立。同名の劇場映画を制作。 2006年10月に株式会社ナイスレインボーとして現在活動を続けている
次回更新は6/24の予定です
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