vol.2 ルパンはアニメ化不可能だった?!
モンキー 時々、昔描いたものを読み返す時があるんだけど、俺は当時こんなこと考えてたんだぁ、ってびっくりするね。とてもじゃないけど、今じゃ考えられないと思うモノが結構ある。体力的にもだけど、思考的にも今じゃ描けない。だからもう一回リメイクしようかな、なんて思うモノもあるんだよね。
おおすみ そこには、昔の作品は青臭くて今の自分の方がマシだな、という思いがあるのか、逆に今はもうそこには行けないな、という思いなのかどっちなんだろう?
モンキー 後者の方だよね。でも悔しいとかじゃなくて、それが普通だと思うんだ。
おおすみ なるほどねぇ。
モンキー ところで、「16ブロック(注:1)」っていう映画は観た?
おおすみ んー、まだ観てないなぁ。
モンキー 囚人を裁判所まで連れて行く16ブロックの間に、いろんな事件が起こるとういう話なんだけど、とても面白かった。僕が昔描いたルパンの中でもそれやってるんだよね。
おおすみ ルパンには、結構そのパターン多いよね。
黒澤明の「隠し砦の三悪人」もそういうふう作られたんだってね。旅館に泊まり込みで、朝起きると先に黒澤さんが起きていて、その日の枷(かせ)を作ってある。その枷をどうやって突破するかってのでライターみんなが、うんうん頭を捻って考える。そして、解決したらその日は寝る。すると翌朝、また新しい枷が作ってあり、またみんなが頭を捻って考える。そうやってストーリーを考えていったと黒澤さん自身が書き残してるよ。
‐‐‐‐モンキーさんが初めて、ルパンをアニメ化すると聞いた時、演出家おおすみ正秋さんの情報って何かあったんですか?
モンキー 東京ムービー(注:2)の先代の社長の藤岡さんからは少し話は聞きました。あまり 誰が演出するとか気にしてなかったんだよね。不安はまったくなかったんだけど、ルパンはアニメにはできないだろうって当時は思ってた。だけど、できた時には「んー、さすがプロだな」って思ったね。漫画のルパン三世の世界観からずれてなかった。キャラクターの動きにしても、声にしても、僕の考えたものに近かったし。
だいたいあの頃、打ち合わせなんてあったけ?
おおすみ モンキーさんとはないよ。
モンキー ないよねぇ。
おおすみ 当時、メインのスタッフで打ち合わせした時、モンキーさんの言うとおり、ルパンはアニメにならないって、僕以外はみんな思ってたんだ。
モンキー はじめTBSに話を持っていった時、藤岡さんに呼ばれて僕も一緒に行ったんだけど、TBSの人から「ルパンがアニメになったらどう思いますか?」って聞かれて、「アニメになりませんよ!」って言っちゃったんだよね~(笑)。
藤岡さん慌てちゃって、それ以来、僕、会議に呼ばれなくなっちゃった(笑)!
‐‐‐‐どうしてアニメにならないって思われてたんですか?
モンキー 僕の書くストーリーってランダムだから、話があっち飛んだり、こっち飛んだりするんだよね。それに対する説明がかなり必要だと思ってた。そうするとアニメーションとしての「流れ」ができないなと。
おおすみ そのうちに藤岡さんが必死になって、「ルパンはアニメになるよ」って人を何人か集めたんけど、その人達は、原作をアニメ風に作り直すというか、それまでのアニメのパターンに合わせられますよ、という発想の人が多かった。
だから、原作の味をそのままアニメに移し変えられるって思ってた僕は、その点だけ孤立してたな。
「アニメ風にやれますよ」っていうのが宮崎駿さんや高畑勲さんで、彼らは途中から助けてくれた訳なんだけど、時々「ここは、こういう解決方法がいいじゃないですか?この方がアニメ的ですよ」と、善意のあるアドバイスをくれて、それはそれなりに面白いんだけど、やっぱりその当時から、既にアニメーションのパターンってのがあったんだよね、ディズニーも含めてね。ぼくはアニメ出身の人間じゃなかったから、「この原作でなんとかなる」と、頑なに思い込んでたんだよね。(だからアニメのパターンをほとんど捨てちゃって、実写のやり方を参考にしてやるしかなかった。)
モンキー 僕が漫画を描く時は、読者がわからなくても、あえていいやっていう描き方なんだよね。途中どうなってんだ?と、わからなくなったら、また最初に戻って読み返せばいいやってね(笑)。でも、アニメーションではそれができないでしょ。
おおすみ できないね(笑)。
モンキー だから、そのままやるのは、ちょっと難しいだろうなと思ってた。
おおすみ でもルパンはそこをきちっと説明で埋めちゃうと、面白くもなんともなくなっちゃうからね。
モンキー そうそう。
おおすみ だから、それがテイストだってわかってからは、わからないところは、わからないままでいいや、ってのをアニメでも取り入れたんだよね。
でも、そこのところを一番攻撃されたんだよね。僕がクビになったのは、そこです。説明不足ですよ、一言でいえば。テレビ局側は、これじゃぁ見てる人がわからないよって。
モンキー あぁ、そうか…、なるほどね。
おおすみ そりゃわかってんだけどね。こっちは、そんなこと百も承知でやった訳だから。
モンキー でも結果的には、おおすみさんがやった初代のルパンが一番よかった。
僕の世界観に全く近かったからね。
注:1 16ブロック--------ブルースウィリス主演のアクションムービー。2006年作品。
注:2 東京ムービー(wikipedia)
モンキー・パンチ氏 略歴
1937年北海道厚岸郡生まれ出版社で漫画家のアルバイトをした後、1965年『プレイボーイ入門』で漫画家デビュー。1966年「漫画ストーリー」に『銀座旋風児』を発表。1967年「週刊漫画アクション創刊号」より『ルパン三世』を連載。アメリカン・コミック調のタッチで人気を呼び大ヒット。のちにテレビアニメ化、映画化を果たした。1998年から漫画週刊誌「WEEKLY漫画アクション」で17年ぶりに連載を再開。東京工科大学大学院博士前期課程終了。
2005年より大手前大学人文科学部メディア・芸術学科教授。
次回更新は4/22の予定です
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