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拡大するシリア内戦 国際社会は

5月10日 20時40分

別府正一郎記者

中東の民主化運動「アラブの春」から内戦に陥ったシリア情勢は、化学兵器が使われた疑惑が浮上するなか、これまで軍事介入に慎重だったアメリカのオバマ政権が何らかの踏み込んだ方針を示すのではないかという見方が広がっています。
シリアと敵対するイスラエル軍がシリア国内の軍事施設を攻撃したと伝えられる一方、隣国レバノンのシーア派組織「ヒズボラ」はアサド政権側にたって参戦を表明し、混迷が深まっています。
今月中にはアメリカと、シリアと関係の深いロシアが主導して、アサド政権と反政府勢力の双方が参加する会議も予定されています。
周辺国を巻き込みながら緊迫の度を増すシリア内戦の実態について、隣国レバノンで取材したドバイ支局の別府正一郎支局長が解説します。

国境を越えて広がる混乱

レバノン北東部のシリアとの国境沿いの町ヘルメル。
国境には幅約3メートルの小川があるだけでフェンスもなく、歩いて簡単に渡ることができ、地元の人たちも国境を自由に行き来しています。
取材班の姿にシリア軍の若い兵士は少し驚いた様子でしたが、撮影が止められるようなことはありませんでした。

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シリアの内戦はレバノンにも波及しています。
ヘルメルの町と近郊には、連日、シリア側から迫撃砲弾が飛んできます。
私たちが滞在した6時間ほどの間だけで、2回、砲弾が着弾し、黒い煙が上がりました。
フセイン・アブアリさん(45)は4月16日、息子を亡くしました。
息子のアッバス君は友達の家に向かう途中、迫撃砲弾を受けて死亡しました。
アブアリさんは「人生が始まったばかりの、わずか13歳の少年に何の罪があるというのだ」と話し、涙を拭いました。

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ヒズボラの「参戦」

この一帯は、住民のほとんどがイスラム教シーア派で、ヒズボラの影響が強い地域です。
町のあちらこちらに、ヒズボラの指導者ナスララ師のポスターが貼られています。
ヒズボラはイスラエルと敵対し、シリアのアサド政権とは協力関係にあります。
今回、ヒズボラの戦闘員の取材が許されました。
屈強な戦闘員たちは迷彩服に身を包み、機関銃を持ちながら国境地帯をパトロールしていました。
さらに、シリア領内にも送り込まれ、アサド政権の部隊とともに、反政府勢力との戦いに参戦していることが明かされました。
戦闘員のアブムハンマドと名乗る40歳の男性は「反政府勢力は、罪のない市民を殺すテロリストだ。自分の命をかけて戦い抜く」と話しました。

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これについてシリア政府のスポークスマンを務めるサーレム・ザハラン氏にインタビューしました。
ザハラン氏は「ヒズボラの戦闘員は、反政府勢力の攻撃から市民や宗教施設を防衛するために、シリア国内で活動している」と述べ、シリア政府が、ヒズボラの戦闘員を受け入れていることを認めました。
さらに、ヒズボラの戦闘員は、首都ダマスカス郊外と中部ホムスに展開し、戦闘だけでなく、政権の支持者に対する軍事訓練も行っていることを明らかにしました。
アサド政権が、国外から戦闘員を受け入れていることを確認したのは初めてです。

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反アサド派も「参戦」

これに対してレバノンのスンニ派勢力は、同じスンニ派が主体のシリアの反政府勢力に協力しています。
レバノン北部の町では、スンニ派の民兵組織が、シーア派系の民兵組織と激しく衝突しています。
今回、戦闘の最前線の地区に入りました。
住宅や商店などほとんどの建物が被害を受けていました。
銃弾の痕で、壁一面が穴だらけになっている建物は、小学校の校舎だと教えられました。

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アパートの室内にも銃弾の痕が残っていました。
ひとたび激しい銃撃戦が始まると、住宅の室内であっても、容赦なく弾丸が飛び込んでくるのです。
あるアパートの壁には、弾丸が食い込んだままでした。

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スンニ派の民兵たちは「相手はヒズボラの訓練を受けており重装備だ。罪のない市民を殺しており、許せない」と非難しました。
この地区から国境を越えてシリアの反政府勢力に合流し、アサド政権の部隊やヒズボラとの戦いに参戦する若者は後を絶ちません。
シリアに渡った兄が5か月前、戦闘中に政府軍に殺されたという15歳の少年は「兄のことを誇りに思っている。この地区の若者は、誰もが、シリアの反政府勢力に合流して、アサド政権と戦いたいと思っている」と話しました。

さらに、イスラエルも・・

5月4日から5日にかけての夜中、レバノンの首都ベイルートのホテルで、バリバリという轟音が聞かれました。
その正体は、翌日、明らかになりました。
シリアのダマスカス郊外にある軍の研究施設などで大規模な爆発があり、シリア政府は、イスラエルの攻撃によるものだと発表しました。
レバノン政府もイスラエル軍が領空侵犯したと抗議しました。
イスラエル軍は公式にコメントしていませんが、イスラエル政府はこれまで、シリアから化学兵器やミサイルなどの武器が、敵対するレバノンのヒズボラに流出するのを防ぐために「あらゆる手段をとる」と繰り返し警告してきました。
夜中の轟音は、イスラエルからシリアに向かう途中、レバノンの上空を飛行したイスラエルの戦闘機によるものと見られます。

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シリア政府は直ちにイスラエルを非難。
政府のスポークスマンのザハラン氏は「イスラエルがこうした行動を繰り返せば、今度は、同盟関係にあるイランと共に報復する。そうなれば、中東全域が炎に包まれるだろう」と述べ、対決姿勢を示しました。

化学兵器使用疑惑も国際社会の対応は

シリアでは今年3月、アサド政権と反政府勢力の双方が「相手が化学兵器を使った」と非難しました。
アメリカのオバマ政権は先月、アサド政権が化学兵器を使った可能性を指摘したうえで、今後、政府としてどう対応するのか検討していることを明らかにしました。
一方、国連人権理事会の特別調査委員会のメンバーは「化学兵器は反政府勢力によって使用された」とする見方を示するなど情報は錯そうしています。

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アメリカのケリー国務長官は5月7日、モスクワでロシアのラブロフ外相と会談し、今月中に、アサド政権側と反政府勢力側の双方が参加する国際会議の開催を目指すことで合意しました。
アメリカはアサド大統領の退陣を求めているのに対し、ロシアはアサド政権と同盟関係にあり、両国は対照的な立場ですが、現状に対する強い危機感から一致したものとみられています。
この会議についてアサド政権は9日、歓迎する立場を表明しましたが、反政府勢力の統一組織「シリア国民連合」は、アサド大統領の退陣が前提だと主張しており、双方の意見には大きな隔たりがあります。
周辺国を巻き込みながら情勢は悪化の一途をたどっており、交渉によって事態が打開できるかどうか予断を許しません。