社説

歴史認識/対立を鎮める冷静な対応を

 沖縄県の尖閣諸島、島根県の竹島の領有をめぐって、ぎくしゃくした状態の続く日本と中国、韓国との関係が再び波立っている。
 中韓両国に加えて米国も強い関心を示している。これ以上、対立を激化させてはいけない。
 発端となったのは、麻生太郎副総理兼財務相ら閣僚の靖国神社参拝と、安倍晋三首相の歴史認識に関する発言だ。
 第2次世界大戦中の旧日本軍の行為について、首相は参院予算委で「侵略の定義は定まっていない」と答弁、「侵略」との明言を避けた。閣僚らの靖国参拝批判についても「どんな脅しにも屈しない」などと述べた。
 案の定、中国、韓国が「侵略の否定」と強く反発。両国との修復機運に水を差す格好になった。中国はもとより、価値観を共有し緊密な関係にある韓国の反応をとりわけ深刻に受け止めるべきだろう。
 米韓首脳会談で、韓国の朴槿恵大統領が日本の歴史認識に触れた。首脳会談で他国との関係に言及するのは異例だ。
 麻生氏の靖国参拝は朴氏の大統領就任式で両氏が会談、関係改善の模索を始めて2カ月後。韓国側はメンツをつぶされたと受け止め、米国の理解を得ようとしたらしい。
 朴氏は日本の前に中国を訪問する予定だという。北朝鮮の核問題をめぐる六カ国協議などでの「日本外し」に動く可能性を指摘する向きもある。
 米議会調査局がまとめた報告書で「地域の関係を壊し、米国の利益を損なう恐れがある」と分析するなど、日本の歴史認識に対する懸念が、日中、日韓の二国間を超えて米国にまで広がりだしている。放置するわけにはいかない。
 懸念をよそに、首相に近い高市早苗自民党政調会長が植民地支配と侵略へのおわびを表明した村山富市首相談話に疑問を提起。さらに、旧日本軍による従軍慰安婦問題で日本維新の会共同代表の橋下徹大阪市長が「必要だった」との認識を表明、火に油を注ぎかねない状況だ。
 核・ミサイル開発を進める北朝鮮を、国際社会が協力して阻止しなければならない時に、領有権問題で冷え込んだ関係の改善を図らなければならない時に、なぜこうした発言が飛び出すのか。高支持率による「緩み」などがあるとすれば、心配だ。
 株価の上昇など経済指標が上向いているが、日本経済が必ずしも成長軌道に乗ったわけではなく、先行きは楽観できない。
 経済力を高める中韓との安定した関係は、日本経済の持続的発展を支える。外交のつまずきで、政治の不安定要因を呼び込んではならない。
 歯切れのいい物言いは結構だが、デリケートなテーマに触れる際は関係国の反応を読み込む思慮深さを欠いてはいけない。
 対立をエスカレートさせて双方、得るものはない。国際社会の見る目も変わって来よう。真の国益を見定め、一致できる分野での協力を通じて信頼関係の再構築を急ぐべきだ。

2013年05月15日水曜日

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