飲酒問題に早期介入の法律を5月12日 6時56分
飲酒運転やアルコール依存症など、飲酒が関わる問題を防ぐための法律を作ろうという集会が名古屋市で開かれ、専門の医師が「法律があれば早い段階で治療につなげられる」と訴えました。
集会はアルコール依存症の治療に携わっている医師のグループや断酒会などが開いたもので、精神科の医師の猪野亞朗さんが、成立を目指す「アルコール健康障害対策基本法」の骨子案を紹介しました。
骨子案では多量に飲酒する人を早い段階で見つけるための健康診断を行うことや、問題がある人に酒の量を減らすための専門の指導を受けさせることなどが盛り込まれ、国と都道府県に対策の総合的な計画を作ることを求めています。
国の研究班の調査では、全国でアルコール依存症の人は80万人、また、飲酒運転や暴力、自殺などのおそれがあるとされるほど多量に酒を飲む人は、依存症も含めて766万人と推計されていますが、そのうち治療を受けている人はおよそ4万人にとどまっていて、治療につなげるため関係機関の連携の必要性が専門家から指摘されています。
集会ではアルコール依存症から回復した男性の妻が「専門の治療に結びつかずに苦しんでいる家族のためにも、早期介入の基礎となる法律を制定してほしい」と訴えました。
集会を開いた猪野医師は「法律があれば関係機関が連携して、問題のある人を早く治療につなげることが可能になる」と話していました。
救急搬送で現場に負担
猪野亞朗医師などの調査では、成人後に救急車を利用したことがある人は、依存症の患者が67%で、内科などの一般的な診療科の患者の31%の2倍以上で、平均の利用回数は依存症の患者が2.4回と、一般的な診療科の患者の6倍に上っていることが分かりました。
猪野医師は何度も救急車で病院に運ばれる患者は、アルコール依存症の治療をきちんとしないまま病気をしたり、酒に酔ってけがをしたりして再び搬送されている可能性が高く、救急隊員や医師や看護師などの負担が重くなっていると考えています。
このため、猪野医師などは、救急医療の現場で問題のある人を見つけ出し治療につなげるために、関係機関の役割や、依存症のチェック方法、患者に専門の医療機関を紹介する手順などを記したマニュアルを作ることを決め、完成しだい地域の医療機関をはじめ、警察や消防、保健所などに配ることにしています。
地域連携の取り組み
三重県四日市市を中心とする地域では、アルコール依存症の専門の医師と内科や救急の医療現場、それに、保健所や消防などが連携して、早い段階で多量に酒を飲む人を見つけ、治療や指導に結びつける取り組みを行っています。
71歳の男性は糖尿病で通院していましたが、なかなか改善しませんでした。
男性の主治医の三重大学附属病院総合診療科の吉本尚医師は、男性には多量に飲酒する傾向があるのではないかと疑いました。
吉本医師はアルコール依存症の専門医ではありませんが、日頃から依存症専門の医師と交流があり、飲酒の傾向を判断する「専門の質問票」を使っています。
この男性に対しても、質問票に沿って飲酒の頻度や量、それに、酒に酔って問題を起こしたことがあるかどうかなどをチェックしました。
その結果、男性は問題を起こしてはいないものの、毎日、焼酎を飲んでいることが分かり、吉本医師は「依存症の手前で、危険な飲酒の状態」と判断しました。
そして、どうすれば酒を控えることができるか話し合い、男性は「酒を飲まない休肝日を週に1日は作りたい」と答えたということです。
吉本医師は今後も男性の飲酒の状況を確認し続け、依存症の疑いが強まれば専門医を紹介することにしています。
吉本医師は「早期に問題を見つければ重い病気にならずに済む。保健師や看護師なども含めて早く介入できればメリットも大きい」と話しています。
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