AhRとは一体何なのか? −What is 'AhR' ?−
1. 一般的に知られていること
一般的にAhR (aromatic hydrocarbon receptor)はdioxinやfuran、co-PCBの毒性発現において重要な役割を果たすものとして認識されています(一部の人ですが)。具体的にはdioxin等のligandが核外でAhRとbindingしその結果、P450酵素(主に知られているのはCYP1A1でしょうか?)がinduceされ、これがdioxinなどと反応して中間生成物が生成、さらにこの生成物がDNAとbindingし、発ガンする、あるいは毒性がmanifestateするというのが有名です。このメカニズムをダイオキシン毒性と称することもあるようです。しかし、これはまだ仮説に近いようで、明らかになっていないようです。
さて、これらdioxinと同様に、AhRのligandとしてPAHが挙げられます。PAHもAhRをmediateした代謝によって毒性を発現することが言われていますが、そのメカニズムや毒性の種類は完全に明らかになっていません。
そこで、ここではPAHのリスクアセスメントを考えることを前提に、endpointとして必要になるであろうAhRをmediateした毒性の種類、役割や構造等のAhRの基礎的な情報について、まとめます。
結論から言えば、AhRは健康影響に大きな影響を与えるものと信じられていますが、完全には明らかにされていなく、これから明らかになっていく研究分野ですので、ここに書いてあることが全てではありません。
2. AhRの分子構造
AhRとligandのbindingを示したfigureなどでは、AhRを●等の図形で表しますが、これは個人的には誤ったイメージを持つので好みません。実際のAhRの分子構造は完全には不明ですが、レセプターである以上、このような外形であると考えて良いと思います(図はビタミンDレセプターリガンド結合領域。http://www.tmd.ac.jp/i-mode/www/molb/image2.htmlより)
図 receptorの分子構造の一例
このようなタンパク質の塊といったイメージが正解です。
現在までの研究では、このくしゃくしゃっとした構造はその機能から大きく三つに分類できます。
@ DNAと結合する部分
A PAS domain、つまりligandやARNTと結合する部分
B AHREと結合する部分
簡単にはこのように分類できるようですが、実際にAhRの機能を考える場合には、個々の影響が複合されるため、AhR全体で考えた方がよいようです。現在のところAhRは、少なくとも26のgeneと反応すると報告されています。これらのgeneの役割は大きく分類して
@ 成長をcontrolするタンパク質の生成
A 薬物代謝酵素の生成
に分けられます。
2. AhRを持つ組織や動物
歴史上、最初にAhRが発見されたのはrodent
liverですが、AhRは人間、mammals、変温の脊椎動物の通常の組織や細胞の中に存在します。つまり、特殊なものではありません。このことからも、AhRが重要な役割を果たすものであることがわかります。
3. AhRがmediateする健康影響
AhRがmediateする健康影響については、実際のところ完全には明らかになっていません。dioxinなどのligandとbindingすることによるAhRの挙動とそれに伴う代謝機構はある程度わかっていますが、健康状態におけるAhRの役割やそのメカニズム、endogeneousなligandがあるのかどうかなどの、ある意味基礎的な部分が未解明となっています。そこで、ここでは、AhRがcontrolしているgeneの種類、あるいは特定のligandをadministrateしたときの結果から判断したAhRの役割をまとめます。
@ 細胞の成長、分化
A homeostasis、circadian rhythms
B 薬物代謝酵素の生成
@:細胞の成長や分化を誘発するタンパク質の生産を司るいくつかのgeneはAhRがagonistであるという報告があります。これらのタンパク質の例としては、プラスミノゲン活性因子抑制をするもの、*上皮成長因子、*インターロイキン1β、transforming
growth factorsα、β2などです。TCDDの場合ではproto-oncogenesを誘導します。したがって、ligandが外界から摂取された場合、AhRと結合することでこれらタンパク質の生産のバランスが崩れるわけです。実際にどの程度崩れるのかは報告されていませんが、最近、TCDDをmediateすることで、上皮成長因子receptorがdown
regulation(細胞内への受容体の取り込み速度が上昇する結果、合成速度を越えて、受容体数が減少すること)することが報告され、発ガン作用の重要なメカニズムではないかと考えられています。
A:@と重なる部分が多いですが、homeostasisやcircadian
rythmsを調節するタンパク質の合成を司るgeneもAhRのagonistのようです。これらの機能は仮に異常をきたしていてもその機能特有な健康影響を示す症状がないため、現在はこの機能からのrisk
assessmentは難しいと考えられます。しかし、2002年10月のCellに発表された論文によると、circadian
rythms (生活リズム)を制御するPeriod 2というタンパク質には細胞のガン化を抑制する作用があることをBaylor
cillegeの研究者が報告しています。したがって、直接的な影響ではないにせよ、circadian
rythmsが発ガン機構の一部になっていると考えられ、AhRのAを無視することはできません。
また、これら、@、Aは細胞の増殖を調節するという点で、promotion過程の重要な位置を占めているのではと考えられます。carcinogenecityの現在の研究はinitiatorがmainになってきていますが、AhRのligandを視点においたpromotorの研究が必要になってくるのではないでしょうか?
B:AhRではこの分野の研究が最も行われています。AhRがcontrolする薬物代謝酵素は、CYP1A1、CYP1A2、CYP1B1、のP450酵素のほか、P450酵素以外であるグルタチオン
S トランスフェラーゼYa、NA(D)PH、アルデヒドデハイドロゲナーゼ
(ALDH3c)があります。
*上皮成長因子:上皮細胞は体内に取りこんだ化学物質と最も接触しやすい細胞の一つである。その役割は巨大な分子、粒子などが血中に入り込まないような障壁となっている。この細胞は例えば気管や鼻腔の場合、物理的、化学的障害(煙草の煙、ディーゼル排気の吸入など)により、透過性が増加することが知られている。煙草の煙やディーゼル排気などにはPAHなどのAhRのligandが含まれており、AhRをmediateしたメカニズムも影響を与えているのではないだろうか?
*インターロイキン:サイトカインの一つ。サイトカインはレセプターとligandの結合をきっかけに、細胞のdifferentation、proliferation、機能発現を行うタンパク質である。このサイトカイン類は、アレルギーの抗体であるIgE産生に影響を及ぼす。大気中PMがアレルギーの原因ではないか研究されているものの、そのメカニズムは明らかになっていない。AhRをmediateした影響が原因なのかどうか興味深いところである。事実、Diaz-Sanchezら(1997)はin
vivo、in vitroで、IgE増加にAhRが関与していることを報告している。さらに、AhRとのaffinityの強いDioxinやfuanがIgEを生産する遺伝子を活性化していることも示唆している。
4. AhRとligandのbinding processとそれによる細胞への影響
AhRがligandとbindingするprocessはさまざまな文献で図示されています。ここでは、少し詳細に見ると共にbindingすることで細胞にどのような影響が現れ、しいてはどのような健康影響が表れるのか、まとめます。
図 ligandとAhRのbinding processとそれによる細胞内変化
一般的に上のような図で示されると思いますので、この図を使ってまとめていきます。
@でligandとARNT、AhRのcomplexが形成されますが現在の研究段階では、ARNTのように結合するタンパク質が存在することが明らかになっています。これらのタンパク質の明確な役割等は明らかになっていませんが、これらのタンパク質がAhRとARNTあるいはAHREとの結合を抑制する働きがあるのではと考えられています。この図ではligandとARNTとAhR、AHREがあればすんなり結合しそうに見えますが、実際はこのタンパク質が結合の速度をcontrolしている可能性があるわけです。そして、このタンパク質に多型性がある場合、AhRの感受性が生じる原因の一つとなるわけです。いずれにしても、不明なことが多く、この結合のメカニズムもphospho
rylationではないかと考えられている段階で、明確にはなっていません。
Aでcomplexは核内に取りこまれます。ここに実は、AhRとligandのバランスの崩れが生じてくるという重要なメカニズムが生じます。もしかするとこれが健康影響を引き起こしているのかも知れません。つまり、AhRは核内に取りこまれるため、細胞内のAhR数は減少します(通常、receptorはligandと分離し、リサイクルされるが、一部はcomplexのまま、分解されてしまう)。通常であれば、合成されるため一定数が保たれますがligand数が多すぎると、AhRの減少速度が合成速度以上になり、細胞内のAhR数が減少するわけです。これをdownregulationと言います。したがって、xenobioticを過剰に暴露した場合、この細胞内の異常状態が生じるわけです。事実、肝がん細胞にTCDDを暴露した場合、6時間以内に暴露前の20%までAhR数が減少した報告があります。ただし、この異常状態が健康影響を引き起こすかどうかは不明で、rodentのin
vivoによるTCDD暴露実験では、数日間upregulateしている可能性があるとの報告があります。一方で、AhRではありませんが、肝がん細胞において上皮成長因子receptorのdownregulationがTCDD暴露によって観察され、これが発ガンprocessの重要なeventではないかと報告している研究もあります。
ちなみにdioxinやfuranもAhRと結合します。ここでPAHとの大きな違いは誘導された酵素との反応速度の違いにあります。多環芳香族がハロゲン化すると、AhRで誘導されたCYP1A1などの酸化が生じにくいためです。B[a]Pと比較した場合、TCDDは約30000倍酸化速度が遅くなる報告があります。この結果が、TCDD等のPCDD/Fsが体内に畜生起しやすく、また、PAHが蓄積しない原因の一つと考えられます。
5. AhRのkey question
AhRは未解明な部分が多いのですが、特にkeyなqustionは
「体内中にendogenousなligandは存在するのか」
です。これは現在でも未解明です。物理化学的特徴からAhRのligandに近いものは、植物が生産するindole
carbinolsですが、AhRはxenobioticのみにbindingする物なのか否かはAhRが健康状態でどのような働きをしているのかを解明するためにも重要な情報です。