1.シナリオ論
1−4.蛭田昌人論
1−4−1.序
エルフのシナリオを語る上でこの人は外せない。エルフを一躍美少女ゲーム業界のトップにのし上げたのもこの人あってのことである。今では社長業を引退してセミリタイアの生活を送っているらしいが、ぜひともまた新たなゲームを作ってもらいたい人である。
1−4−2.蛭田シナリオの魅力
シナリオもSLGパートも面白いドラナイ4は、蛭田作品、否、エルフの最高傑作であると信じる。 |
蛭田さんのシナリオはとにかく面白い。これに尽きる。何が面白いかって、げらげら笑ってしまう面白さ(funny)と知的な面白さ(interesting)が同居しているのが凄い。他のシナリオライターではこうはいかない。大概どちらかになってしまうのだ。しかも、その「どちらか」でさえ、蛭田さんには及ばないことが多い。そういう意味で、蛭田さんのシナリオにはぐいぐいと人を引き込む魔力がある。
まずポイントとなるのはこの点である。蛭田さんのシナリオはギャグや下ネタを交えた軽妙な語り口調があり、しかしその裏ではハードで骨太なストーリーが展開する。その二つが同居しているのである。まさに今の作品にありがちな、キャラ萌えのために作られたシナリオではなく、キャラクターどころか、プレイヤーをも驚愕させるほどの怒涛の展開でストーリーが描かれる。
また、全編を通して、「エッチで明るい、行動的な蛭田キャラともいわれる主人公」の活躍、成長が見られる。さらに、最後の最後で、蛭田さんの得意の時間をテーマにしたどんでん返しに、誰もが驚くとともに感動するという仕掛けが用意されている。まさに蛭田さんのシナリオは笑う、興奮する、驚く、感動する、涙する、といった感じである。(蛭田さんのテキストについてはテキスト論として後述する。)
だからセミリタイアした現在においても、るうくは蛭田さんの本格的なカムバックを願っている。これについてはすぐ後で後述する。
1−4−3.蛭田さんと恋愛ゲーム
こういうことを言うと意外に思うかもしれないが、蛭田さんにとって、恋愛をテーマにしたゲームというのは実はメインではないのだと思う。確かに同級生シリーズは売れた。あれは面白かった。るうくもはまった。あれがあったからエルフゲームにはまったのである。しかし、蛭田さんにとって、恋愛はメインテーマだったのだろうかという点には疑問が残る。
まずは、同級生シリーズ以外の作品を見てみよう。ドラナイ、DE・JA、ELLE、ワーズワース、遺作など、どれも恋愛を正面からは扱っていない。謎解きや、戦略がメインの作品である。蛭田キャラといわれる主人公がいて、そのゲームの中で謎解きをしながら、主人公の成長、活躍を描くものがほとんど全てであり、女の子を正面から描いたものは皆無といっていい。その途中経過、あるいは結果として恋愛シーン、エッチシーンが出てくるに過ぎない。
では、同級生シリーズはどうか?あれは「恋愛ゲームの金字塔」と呼ばれるほどではないのか?いや、あれも実は主人公の成長を描いていると考えるべき作品なのだ。同級生のゲームにおいて、ゲーム開始時と終了時を比べてみて最も成長しているのは主人公であり、それに対して女の子は主人公の成長を促す役割を担っているだけで、特に大きく成長してはいない。つまり主人公は成長するが、女の子は変わっていないのである。(詳しくはエルフ総論のキャラクター論で後述する。)女の子を正面から描いているのは、実は蛭田さんより後のシナリオライターのやっていることなのである。
つまり、蛭田さん自身にとって、恋愛はメインのテーマではなく、女の子を描かなくても売れるだけの主人公・シナリオ、例えばDE・JA、ドラナイ4を書いていたと考えられるのである。それだけ魅力的な主人公、そして成長、活躍する主人公だから、「ヒロインが主人公を好きになる理由」もそこにあるような気がする。(この点も、後にテキスト論の一部として述べる。)
1−4−4.蛭田さんカムバック待望論
名作、DE・JA2。ここから、蛭田さんならではの、「美少女」に頼らない、疾風怒濤、抱腹絶倒、空前絶後(…絶後であってほしくはないのだが。)のシナリオが展開される。 |
あれだけ面白いシナリオを書ける人は他にいない。才能が枯渇したというのなら仕方のないことかもしれないが、そうではないだろう。蛭田さんも齢40を過ぎ、美少女恋愛ゲームという市場、枠では、もはやゲームを出せないというのなら、もはやelf、あるいは美少女ゲームそのものにこだわる必要はない。もはやエッチシーンがなくてもいい。そんな枠にこだわる必要などさらさらない。自らヒルタブランドを立ち上げて美少女恋愛ゲームにこだわらない、大人が遊べるゲームを出して欲しい。現にDE・JAは「美少女」ゲームであったとは言いがたいほどの出来であったではないか。
「蛭田さんにはもはや恋愛ゲームは作れない」という指摘をしている商業ベースのサイトがあったが、それは、本稿においてここまで語ってきたことを考えると少々的外れであるといえないだろうか。いつか出るのかもしれない同級生3、あるいはむしろ、その先のゲームにおいて、ユーザー市場が蛭田さんに望んでいるものは、あの面白い疾風怒濤のどんでん返しを擁したストーリーなのである。
「いつまでエルフ=蛭田という固定観念をもっているんだ」という意見もあることはあるが、るうくがはまったのは、厳密にはエルフゲームではなく、蛭田ゲームであった。昔、エルフゲーム=蛭田ゲームであったときはそれでよかったが、今はそれがイコールでなくなってしまっている。るうくが当初やったゲームは同級生シリーズのみだったので、ドラナイ、DE・JAシリーズは少し後になって、いわばバックナンバーとでもいう形で通販で購入した。そしてWin版のゲームの合間にDE・JA、ドラナイをやって、ルネッサンスとでも言うべき、カルチャーショックを受けた身としては、もう一度、蛭田さんのゲームをやってみたい。あの面白いゲームをやりたい、そういう気持ちは捨てられない。
蛭田さんのゲームなら、最近はエルフのゲームをやらなくなったという、旧・エルフファンも買うと思われるし、もし美少女ゲームでないゲームを出すのなら、「美少女ゲームゆえのいらぬ偏見、誤解」を受けずにすむという利点もある。
今のエルフはゲームのクオリティはさすがに高いが、プレイしていて蛭田作品のように面白い、というものではない。今のエルフゲームは、酷な言い方かもしれないが、高いクオリティで、お上品にまとまってしまっているという感じを受ける。昔の作品は、時折にやりとさせられる面白さがあった。今までのエルフをいい意味で破壊し、新しく創造するような、革命的なソフトをやってみたい。