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【芸能・社会】

萬斎「マクベス」世界へ飛翔 ソウル、NY大成功

2013年5月14日 紙面から

「すぐにぐしゃぐしゃになる紙コップではなく、何度でも使える器のような作品を目指したい」と話す野村萬斎=東京・千駄ケ谷の能楽堂で(本庄雅之撮影)

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 狂言師で現代劇でも活躍する野村萬斎(47)が構成・演出し、主演した舞台「マクベス」の海外公演が大成功を収めた。能狂言の手法を生かした、わずか5人で演じるユニークなシェークスピア作品は、萬斎にとってはほぼ20年がかりの企画だった。世界発信への確かな手応えをつかみ、東京・世田谷パブリックシアターの芸術監督3期目へ大きく夢をふくらませた。 (本庄雅之)

 「素晴らしいパフォーマンスだった。シェークスピアを日本の伝統芸能に変換して、うまく取り入れていると思った。ラストシーンは原作と異なり、すべてが暗黒と邪悪なものがこれからも続くと連想させ、非常にユニークだ」(ニューヨーク大学ドラマ科のキャロル・マーティン教授)。米ニューヨークのジャパン・ソサエティ公演(3月23、24日)は、両日とも終演と同時に満員の観客がスタンディングオベーション、ヒューヒューという歓声が上がり、3度のカーテンコールは拍手が鳴りやまなかった。

 3月15〜17日に上演されたソウル・明洞芸術劇場でも、上々の反響。ハギョレ新聞は、「人間の行いを俯瞰的にながめ演じる狂言の手法で森羅万象の中では、ちっぽけな存在にすぎない人間の姿を、見事に浮かび上がらせた」と評価した。

 海外公演の体験が豊富な萬斎だが、ニューヨーク公演を終えると、ホテルの部屋で2日間寝込んでしまった。これまでにない充実感と解放感で心地よい疲労に打ちのめされた。

 魔女にそそのかされたマクベスが、夫人の“後押し”もあって王を手にかけ、やがて夫婦もろとも狂気にさいなまれる「マクベス」は、黒沢明監督の「蜘蛛の巣城」でも知られる。萬斎版は、脚本を絞り込み、マクベス夫妻と魔女の3人がいろんな役を演じるシンプルな構成で、テーマをより明確に打ち出した。2010年の初演に磨きをかけての海外公演で、能狂言の手法を取り入れてはいるものの、いわゆる和風味を強調したわけではなく、あくまで演出方法としての成果が受け入れられたところに意義がある。

 「とにかくすごい集中力で静かに見てましたね。言語が分からないから、少ない情報を得ようとして集中するんでしょうね。そういう手応えがある中で、終わった後の喜び方というのは非常に大きくて、お付き合いでなく、純粋に見てほんとに楽しんでいただけた」と振り返った萬斎。

 アイデアが浮かんだのは、ロンドン留学時代(1994〜95年)。「マクベス」を見て、「魔女をどう扱うか」から発想が広がったという。「魔女がフィクサーというイメージがあって、じゃあマクベスが見ていたのは何だったのか。能に、お坊さんの夢の中に亡霊が出てくる夢幻能というのがあるんですが、マクベスはまさしく夢幻に出会って命を落としたのではないか、そんなふうに思ったんではないでしょうか」

 その後、折に触れて思考を深めてきた。2002年に世田谷パブリックシアターの芸術監督に抜てきされ、引き受けたのは、温めていた「マクベス」上演の夢もあってのことだった。

 自身が積極的に舞台に出演したり、最先端の海外公演を招へいするなど劇場を活性化させながら、「時代に風化しない作品作り」「レパートリーの創造」を掲げてきただけに、自ら手掛けた作品が一つの果実になった満足感は計り知れない。4月に3期目に入った芸術監督は、同作を早ければ来年にも“凱旋(がいせん)再演”したい意向を明かした。今回の海外公演の模様は、31日のWOWOW「六百年の『今』を舞う〜狂言師・野村萬斎」(午後10時)でも紹介される。

 ◆野村萬斎(のむら・まんさい) 本名野村武司。1966(昭和41)年4月5日東京生まれ。二世野村万作と詩人阪本若葉子の長男。姉二人と妹が一人いる。70年に狂言の初舞台。NHK「あぐり」、映画「乱」「陰陽師」「のぼうの城」などに出演。「まちがいの狂言」「国盗人」など、古典芸能と現代劇の融合を図った舞台を演出・出演している。世田谷パブリックシアターでの次回作は、来年3月ごろ上演予定の演出・主演作「『神なき国の騎士』(仮題)−ドン・キホーテより−」。

 

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