Paix2
平和の天使(10/16)
Megumi(本名・井勝めぐみ) 75年10月5日生まれ、鳥取県琴浦町出身。小・中・高と音楽活動を続け、看護師時代に高橋真理子の「For You」で大会に参加。デビューと同時に看護師退職。
Manami(本名・北尾真奈美) 78年2月7日生まれ、鳥取県倉吉市出身。岡山大固体地球センターの技術補佐員時代に、カラオケ好きの友人とともにキロロの「未来へ」で大会に参加。
【刑務所コンサート230回】
「受刑者のアイドル」と呼ばれる女性デュオ。日本全国の刑務所や少年院で「Prison(=刑務所)コンサート」を230回も開催し、昨年12月には法務大臣表彰された。フランス語で「平和」を意味する「Paix」を名乗る2人には、今日も“塀の内側”の人々から、公演依頼が舞い込んでいる。
もちろん、一般向けのライブも行っている。そのライブ会場に、ちょっとコワモテの人がいて「以前、〇〇(地名)で見てファンになったんだ」と言ったとしたら、その人はたぶん〇〇刑務所の元受刑者だろう。
「Prisonコンサートは年に平均40回。すべて手弁当で、ギャラは一切出ません。マネジャーが運転するワゴン車の走行距離は6年間で35万キロになりました。正直、キツい時もありますが、歌をやめるまでこの活動もやめるつもりはありません」(Manami)
きっかけは地元・鳥取県倉吉市で1日警察署長をつとめたこと。歌声に感動した署長が紹介した鳥取刑務所で初公演。1回きりのつもりだったが、メジャーデビュー後も思うような活動の場が得られず、次に出向いた山口刑務所を皮切りに、全国の刑務所からオファーが次々舞い込んだ。その結果、いまは“塀の中”が活動の軸となっている。
一般人がいくらカネを積んでも見られないPrisonコンサート。一体どんな様子なのだろうか。
「実際に体験しないと分からない空気ですよ。全員丸刈りで同じ灰色の囚人服一色。その人たちが姿勢正しく、ビシッとキレイに並んでいます。私語も手拍子も厳禁の中、私たちが登場すると、目だけがギロッとこちらに向けられる。『皆さん、こんにちはー』といっても反応ナシ。規則だから当然ですが、最初は受け入れられていないのかと不安でした。でも終わったらものすごい拍手で、皆さん涙を流してくれるんです」(Megumi)
【失敗乗り越え】
最初はすべてが手探り状態。失敗もした。
「私たちが行く刑務所の多くは、歓迎看板を用意しています。ある日、トークの中で『これを書いてくれたのは、どなたですか?』と聞いたら、ある受刑者が大きな声で『ハーイ!』と返答したんです。本来、勝手な発言はNGですが、刑務官が大目に見てくれたんです」(Megumi)
「で、調子に乗った私が『これ、1人で作ったんですか』って返したら、『ウソでーす』って。思わず『ウソつくと、また1つ罪が増えちゃいますよー』って、場所柄、絶対NGなことを言っちゃったんです。その場の全員から血の気が引く音が聞こえたくらいでした。『もう、終わった』と思ったら、直後、会場がドッカーンってウケました」(Manami)
コンサート終了後、何人かの受刑者から感想文を手渡される。声や体では表現できないが、すごく楽しかったという思いや、犯した罪に対する反省や後悔の念を知った。自分たちの歌が更正に貢献しているという自負を感じることもあるが、それ以上に受刑者たちの不安や被害者への思いが気になる。そこで10回目の公演から、Megumiの看護師時代の経験談をトークに取り入れてみた。
「亡くなっていく患者さんを数多く見てきました。家族を大切にされていた方は惜しまれて天国へ行く。自分勝手に過ごしていた患者さんは、ひとりぼっちで亡くなるケースが多い。まさに『生きざまは死にざま』。だから歌以外にも、受刑者の皆さんの胸に何かを残したいと考えました」(Megumi)
「大人の刑務所でも少年院でも、受刑者の支えは結局は家族だけ。家族が待っているからこそ頑張れるし、被害者にも思いをはせることができる。通常のライブでも、そのメッセージは伝えています。塀の中の人も外の人も、私たちの歌を聴いて『田舎の両親に手紙でも書いてみようかな』と思ってくれればうれしいですね」(Manami)
最近は、「Prisonコンサートと同じ内容を語ってほしい」という企業や団体の公演依頼も増えている。紅白歌合戦出場を実現させようとする矯正施設関係者の動きもあるという。