動2013:勝者なき解任劇
毎日新聞 2013年05月10日 東京朝刊
◇川口氏「国益の議論もしない。野党の劣化を象徴」
9日午前の参院本会議で川口順子(よりこ)環境委員長の解任決議が可決された。常任委員長の解任決議は衆参両院を通じ初めての事態。本会議後、川口氏は記者会見し、野党の対応を激しく批判した。
「憲政史上初めて、国益の議論もしないで、数を頼りに党利党略で委員長解任を行った。日本の野党の劣化の象徴的な事件だ」
川口氏の主張する「国益」とは、中国出張を1日延長して4月25日に行った楊潔〓(ようけつち)前外相との会談。無許可の出張延長が国会運営のルールに反した事実は否定できないが、「常任委員長の仕事は代理を立てることができる。野党がそれを拒否した」と川口氏。国益を優先した自身の判断は正しく、それを認めなかった野党側に非があるというわけだ。
ただ、川口氏と楊氏との会談内容は明らかにされていない。日中外交筋は「握手して立ち話をした程度。国益上、必要な会合だったとは思えない」と語る。首脳・閣僚レベルの会談ができない中、元外相の川口氏による議員外交を「国益」と強調すればするほど、中国側に振り回されている印象も与える。
「中国側から足元を見られていたのではないか、そんな指摘もある。逆に日本の国益追求の点から一抹の懸念を禁じえない」
参院本会議で解任決議の提案理由説明に立った民主党の松井孝治氏はこう皮肉った。
◇民主・輿石氏「傲慢な国会運営、目に余る」
「安倍政権は順風満帆のように見えるが、傲慢な国会運営は目に余る。自公を除くすべての党が許される状況ではないと判断した」
民主党の輿石東参院議員会長は9日午後の記者会見で、安倍政権への打撃を狙った解任決議の成果を誇った。
世論の高支持率を追い風に参院選の勝利を目指す与党に対し、攻め手に苦しむ野党側。今回のルール違反は政権側の「傲慢」を印象づける好機とみて、珍しく共闘へ動いた。
しかし、野党の結束はもろい。日本維新の会は9日午前の国対幹部協議で、民主党が呼びかけている13年度予算案の共同修正案提出に応じない方針を決めた。出席者からは「民主党はすぐに裏切る」などの発言も出て、相互不信の強さをうかがわせた。参院選へ向け独自色をアピールしたい与野党の批判合戦は激しくなるばかり。その一幕とはいえ、憲政史上初の解任劇には不毛さも漂う。自民党町村派の会合で町村信孝元官房長官は野党の対応を批判しつつ嘆いた。