首都圏ネットワーク

5月9日放送
「都心回帰」進み新たな問題 子育て世代急増で保育所不足

首都圏放送センター 中村 雄一郎
首都圏放送センター
中村 雄一郎

都心に住む人が増加する、いわゆる「都心回帰」が進んでいますが、以前よりも価格の安いマンションの建設が都心で進んでいることなどから、今後もその傾向は続くとみられています。
新たにつくられているマンションの主なターゲットは、小さな子どもがいる若い世代です。
こうした世代の急増に伴って今、新たな問題が持ち上がっています。

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東京・千代田区で暮らしているブッカー久華さんと1歳の恵裡華ちゃんです。
今年3月、アメリカ人の夫と共に親子3人で引っ越してきました。
都心に引っ越したきっかけは、東日本大震災でした。
東京駅の近くのオフィスビルで働いている久華さんは帰宅困難となり、世田谷区の自宅へ帰るのに、7時間もかかりました。

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大災害が起きたとき、子どもと一緒にいち早く避難したいと、職場に近い都心に引っ越したのです。
「もう1回災害にあったときに、近くにいた方が安心なので。どんなことがあっても自分の娘を抱いて逃げられるのが一番のメリットだと思っています」。

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ところが、最も苦労したのが、子どもを預ける保育所を探すことでした。
通勤途中に子どもを預けることができる東京駅の周辺には都の認証保育所が2か所しかないのです。
いずれも定員がいっぱいだったため、久華さんは空きが出るのを待ち続けました。
預けることができたのは、職場復帰の4か月後でした。

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久華さんが利用している保育所では、30人の定員に対して、10倍以上の350人が空きを待っています。
久華さんは「とても足りないなと思っています。女性もすごく働いているので、働くママにとっては、保育所はもう少しあって欲しい」と話しています。

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都心では、以前は工場などがあった湾岸部を中心に、マンションの建設が進んでいます。
こうしたマンションの中には、若い夫婦でも手が届く価格帯のものが増えています。
このため、都心で暮らそうという「都心回帰」をする人は、若い夫婦が中心です。
それに伴って小さな子どもも急増しています。

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実は、子どもの増加率が東京23区で最も高いのは都心なのです。
この5年間をみると、5歳以下の子どもの増加率が1.2倍を超えているのは、都心3区と言われる千代田・中央・港の3区のみ。
このうち中央区は1.35倍です。
今になって保育所不足が深刻になってきたのです。

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こうした事態に対応しようと行政が注目し始めたのは企業の従業員向けの子どもの預かり施設です。
都心のオフィスビルの中には、従業員の福利厚生のために、保育施設を設けるところが増えているのです。
指紋認証を導入して利用者を厳密に管理しているところもあります。
親は子どもを連れて出社し、勤務時間中、この場所に預けます。

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こうした施設で、地元で暮らしている人も受け入れることができないか。
先月、東京・中央区に新たなタイプの保育所が作られました。
本来は従業員向けの施設ですが、30人の定員のうち一般の人も利用できる枠が設けられたのです。

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この保育所の利用を始めたビアンキ葉未さんは、少し離れたオフィスビルで働いています。
10か所以上に申し込みましたが、なかなか決まらず、育児休暇が終わる直前に決まったのが、この施設でした。
「ほっとしました。安心してこの子を預けて仕事に戻れるなと思ったので、すごくうれしかった」。

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課題は保育料です。
今は行政の補助金がないため、保育料は認証保育所の2倍以上と、利用者に重い負担がのしかかっています。
葉未さんは「やはり月謝の面で都からのサポートがあれば負担が軽くなる。無認可を選んだというより、行かざるを得なかった場合には、そういった家庭にも何かしらのサポートをいただけるとありがたいなと思っています」と話しています。

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東京都は、こうした施設の必要性が増してくると考えています。
地元の人も利用できる保育施設を企業が作った場合、地元の区や市から求めがあれば補助金を出す方針です。
東京都・保育支援課の花本由紀課長は次のように話しています。
「会社の中に空いているフロアがあって、そこを活用して社員の仕事と子育ての環境整備に役立てたい、地域の待機児童を受け入れて社会貢献をしたいという企業があれば、東京都として出来る限りの支援をしていきたい」。

都心3区で急増している子どもたちが成長すると数年後には小学校が不足することも予想されます。
中央区は、区内に16校ある小学校のうち5校で、近い将来、教室が足りなくなるおそれがあるとみて、校舎を増築する計画を進めているということです。

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