金田一少年の事件簿
星見島 悲しみの復讐鬼
セガサターン/ハドソン
『その女性は、マンションから飛び降りて自殺した』・・・。彼女の名は立花由布。芸能マネージャーをしており、屋上にはただ『仕事に疲れた』とだけ書かれた遺言状が残っていたと言う。・・・だが、それは疑問点が数多く残る物だった。何故、「高所恐怖症」の彼女が自殺の手段としてわざわざ「飛び降り」を選んだのか?何故、彼女が育て上げたアイドルであり親友である桂木なおを襲った「仕組まれたスキャンダル」を暴こうと燃えていた彼女が『仕事に疲れた』などと言う理由で死ななければならないのか?何故、数ヵ月後には結婚するハズだった婚約者、阿佐桐卓也に何の相談も無く死を選んだのか?
誰がどう考えてもこう思う。『彼女は自殺したのではなく、殺されたのだ!謎の犯人によって、無理矢理ビルから落とされたのだ!!』
だが、事件は「自殺」の方向で片付こうとしている。ならば誰が真犯人に裁きを加えられるのか?・・・・・・・・・それは、自分しかいないだろう。仕組まれたスキャンダルで名声を奪われ、そして親友の由布をも奪われた「復讐の歌姫」桂木なお。最愛の女性を奪われ、その上一家に代々伝わる秘密の財宝をも奪われんとしていた「審判の使徒」阿佐桐卓也。
2人は同じ原因の下、まったく別の思惑を胸に『復讐鬼』となる事を選んだのだった。
そして数ヵ月後・・・リゾート地として再開発の進められてきた星見島へ、多くの芸能関係者が招待された。孤島のホテルで、パーティーが開かれるのだ。そして、船は動き出す・・・多くの一般人と、犯人と、復讐鬼と、金田一少年を乗せて・・・・・・・・・・・・・
破天荒(以後「は」)/前回の終わり間際に『次回はこんなんやで』と判り様の無いヒントを明記した所速攻でBBS上にて『ああ!次は金田一少年の事件簿ですね!!』と指摘されてしまい『アンタの口癖はもしかして「じっちゃんの名にかけて!」ですかッ!?』と悶絶している破天荒です(笑)。どーゆー推理力か。
有馬(以後「あ」)/まあサターンの名作の中でも「知ってる人はホンマよー知ってる」の部類に入るんやろーね、このゲーム。俺ぁお前から簡単な説明聞いただけで実際プレイしてないから今回詳しい事ぁしゃべれんが。で、まあサターンゲーム特集の一環として今回はこの『金田一』を紹介する訳やけど・・・確かに、このタイトルで多くの人は逆に見逃してるよな、この「ゲーム」を。
は/少年探偵モノを原作に推理アドベンチャー。誰がどう考えても10人中10人が、『ああ、プレイヤーは金田一少年になって、何かそーゆー推理力であーゆー事件をズビャーっと解決してイヤッホゥなゲームなんやね?』と答えるわな。けど、このゲームはその逆。プレイヤーが犯人なんよ。前述した「復讐の歌姫」桂木なおか「審判の使徒」阿佐桐卓也となって、金田一の推理から逃れ完全犯罪を行え!!とゆー凄い設定の「逆推理アドベンチャー」やねん。
あ/もうその設定だけで度肝抜かれるわな。犯人視点の推理モノって、確かに存在しないジャンルではないんよ。タイトルは忘れたがとある小説は、妻が夫を殺害するシーンから始まる。で、その夫が死ぬ間際『実はお前の犯行計画なんざとっくの昔に知ってたのサ!俺は殺されてやるが、今からこの屋敷に数名の客が迷い込む!そして、その中の一人は名探偵なのだ!全てを暴かれるがいい!!』とか言う訳。で、ホンマにその洋館に客がドカドカとやってくる。妻はなんとか未亡人を演じながら客をもてなすが、じゃあ「その名探偵」は誰なのか!?なんて逆視点のお話。
は/知ってたなら殺される前にどーにかしろよ、夫(笑)。でもまァ、確かにそーゆー感じやわな。お話としてはそんなに『凄い突飛なモノ』でもないし、またサターンが不得意とするムービーパートはもうダイレクトに駄目っぽい。で、肝心のゲーム画面もパッとしないし、アドベンチャーと言うよりは、ヴィジュアルノベル系に近い出来。悪い点を挙げていけばいくらでも出てくるんやけど、自分自身が犯人であるとゆールール1つでそれらマイナス点を挽回した挙句大きくプラスになってるんよ。何て言うんかなァ・・・・・・・・そう、例えるなら『アドベンチャーゲーム界におけるラスト・ハルマゲドン』やねん、コレは。ゲーム的に難はあっても「その斬新な設定」1つで酔いしれ楽しめるゲームなんやな。
あ/俺、このゲーム実際やってないから言えるんやが、『じゃあ自分が犯人とゆー立場なら、どうなるのか?』とゆー事を考えるだけで、「ゲーム」として面白そうやな。
は/一応「復讐」しよーとは思うけど、『じゃあ誰に復讐すりゃいいのか?』は解らない。だから極普通のアドベンチャー同様聞き込みをしなきゃいけないんやけど、この時点でもう独自のルールが生きてくる。そう、普通のAVGと同じ様に根掘り葉掘り聞きまくったら、怪しまれるしアシがつくんよ。『何でアイツ、そんな事を熱心に聞いてくんの?』と。
あ/なるほどなぁ。端から見てて『そう言えばあの人は・・・』と印象に残る様な事しちゃいかんのか。
は/ついで言うと、その事件の黒幕にも『コイツ、もしかして自分を・・・!?』と警戒を抱かせ、下手すると逆に殺されかねない。
あ/じゃあ移動とか、行動そのものも熟考が必要になるんか?
は/そりゃもちろん。完全犯罪をしようってんやで?下手な場所うろついてるトコ見られたら致命的やし、通信手段もよく考えて使用しないとアシがつく。また殺すにしたって、ただ殺すだけやったら現場に犯行の証拠が大量に残るやろうし、また「復讐」としてのインパクトも薄い。だから周りの物をよく見てよく考えて、犯行トリックを考えなきゃいかんのよ。例えば冷蔵庫を見て『氷か・・・・・・・すぐ溶ける性質を利用すれば・・・!』とか、『このドアにセロテープをはって・・・!』とか。こーゆー推理小説でよくあるトリックを自分自身で行うってのも、ミステリファンにはたまらない要素ですよ?
あ/確かにホンマに殺人しでかしたらそら許しがたい犯罪やけど、バーチャルな世界でなら・・・な。「探偵」にはいいかげんなり飽きてるから「犯人」になるのもたまには悪くない。
は/密室殺人とか、意味有りげな犯行声明文とか。上手く殺らないとダイイング・メッセージを残されちゃうし、そして何より金田一の推理が光る。いやぁ、推理小説の後半のお約束、登場人物を一室に集めて、全てを理解した探偵が一気にトリックを暴き犯人を指摘する・・・とゆーアレ。犯人の立場で参加すると、あんなに寿命が縮む物だとは知らなかったですよ。万全だったハズのトリックが目の前で合理的且つ簡単に解説されていき、そして最後に『犯人はお前だ!!』と指摘される恐怖。こんな体験早々味わえません。
あ/やっぱ基本的にはビクビクしながら進めるゲームなんやな。
は/部屋ノックされるだけで『ビクッ!』と来るで(笑)。もうすっかりバーチャル犯人気分。
あ/『じっちゃんの名にかけて!』とか『謎は全て解けた!!』って台詞聞くだけで?
は/冷や汗ダラダラ。ああ、それからこのゲームやからこその要素の1つとして、ゲームオーバー後の演出も有るわ。普通のゲームやったらまァ金髪のお姉ちゃんとか恰幅の良い紳士さんとかが『あそこはこう進めるのがベストだったんだよ?』とヒントをくれる事もあるわな?けど、このゲームの場合ドロドロとした背景の中、よく解らない仮面を被った怪人やら出刃包丁持った殺人鬼とかが『毒薬の使用には確実性を重視せよ!』とか助言してくれんの(笑)。
あ/原作に出て来た怪人なんか?
は/たぶん。後、特筆するとすれば『リアルタイムサスペンスモード』か。話の中で、時折キャラそのものを動かしてミッションをこなすミニゲームが入ってくんのよ。『誰にも見つからず部屋から出ろ!』とか、『奴が真下に来た時ロープを引け!』とか『一撃で射殺しろ!』とか。内容は酷いが。
あ/そこらへんしくじると金田一少年に決定的な推理キーワードを与えて」しまう事になりかねないんや?
は/とにかく奴の頭のキレ具合には恐怖します。椅子に座る動作一つで『アンタッ・・・!?』と感ずかれたのにはまいった。
あ/ああ、なるほどなぁ。この作品って、一見『金田一少年の事件簿』と言う作品を蔑ろにしてる様にも見えるんやけど、その実金田一少年の類稀な推理力に恐怖して『やっぱ金田一って凄えや!!』と痛感させてくれる、原作を120%引き立てる内容なんや?もしコレがその「金田一少年となって事件を解決しよう!」的な芸の無い設定のゲームやったらとても感じ得なかった事を逆に教えてくれるという。
は/まァな。俺ぁ根っからのチャンピオン派やからマガジンはまったくと言って良い程読まんが、このゲームをプレイして結構『金田一少年の事件簿』とゆー作品に興味持ったで。これ、キャラゲの目的としては120%大成功って事やないですか?少なくとも俺に対しては。
あ/非原作ファンも取り込めるって、早々出来る事やないからな。
は/で、詳しく知らないんだが、原作の『金田一』って面白いん?
あ/えーとな、本物の方の金田一耕介の子孫に名誉毀損で訴えられたり、島田荘司の大傑作推理小説『占星術殺人事件』のトリックそのままパクッたりして目が離せません。
は/駄目じゃん(笑)。嗚呼、やっぱ本格ミステリを愛好する我々には駄目なんですか?
あ/お前の場合、綾辻行人の「3人のキチ○イの供述で展開される推理物」『フリークス』とか、島田荘司の「実はシャーロックホームズはコカインの吸い過ぎでキ○ガイ」な『漱石とロンドンミイラ殺人事件』とか「名探偵その人が天才過ぎて○チガイ気味」な『御手洗潔シリーズ』だとか、純粋に推理を楽しんでない傾向もろバレなんだがな(笑)。
は/酷い事を言う。名誉毀損で訴えてヤル!!じっちゃんの名にかけて!!
あ/お前のお爺さんは金田一耕介じゃないだろ(笑)。
は/ぬぐぅ・・・。まあ馬鹿話は置いといて、最後に真面目な話を一つ。このゲームは確かに犯人となって復讐殺人を行うゲームやけど、あくまで推理トリックを楽しむゲームであって、犯罪を助長するのが目的で作られたゲームではありません。空想と現実の区別のつかない判断力無い方にはオススメしないっす。そして一応事前に言っておくと、確かに完全犯罪を達成し金田一を煙に巻いてハッピーエンドを迎えても、後味が凄く悪いです。確かに彼らの殺人は由布と言う女性を殺害した極悪非道な人物を対象としたものやけど、だからと言って自分達が「正義」なのではない。ただ単に「悪」を倒す「巨悪」になっただけです。ゲームをクリアし、何の疑いももたれなくても、彼らは以前の様に心から笑う事はもう二度とありませんし、常に無言の絶叫を上げつづけて暮らしていかねばならないのです。その辺り、勘違いしないでね。あくまで推理トリックを楽しんで下さい。
あ/正に貴方自身の名にかけて。