国土交通省が、公共事業を発注する際の予定価格の算定で、人件費の基準額(労務単価)を大幅に引き上げた。引き上げ幅は、50余の職種の平均で15%(大震災の被災3県では21%[記事全文]
農林水産省が水田を念頭に、農地を集約して経営規模を大きくする対策をまとめた。都道府県ごとにある農業公社の役割を改め、農地の「受け皿機構」にする。これまでは売買での集約に[記事全文]
国土交通省が、公共事業を発注する際の予定価格の算定で、人件費の基準額(労務単価)を大幅に引き上げた。
引き上げ幅は、50余の職種の平均で15%(大震災の被災3県では21%)に達する。単価の公表を始めた97年度以降、ほぼ引き下げが続いていたが、今年度は空前の大幅増となった。
労務単価は、毎年秋に建設労働市場の実情を調べ、翌年度の単価に反映させる。熟練が必要な職種を中心に、構造的な人手不足から相場は上向きつつあったが、大震災に伴う工事の急増で高騰したという。
ただ、大幅引き上げの理由はそれだけではない。15%幅の引き上げのうち、相場反映分は約10%で、残りの5%分は労働者の社会保険への加入を進めるための対策である。
建設労働者の保険未加入は深刻だ。国交省の調べでは、雇用保険で4分の1、医療、年金保険でそれぞれ約4割の労働者が入っていない。いずれも加入が義務づけられている。こんな異常な状態は一刻も早くなくさなければならない。
工事の発注で、保険料の労働者負担分を考慮する。落札した元請けと下請けの間では、人件費の切り詰めによる安値契約をなくしていく。そのうえで、下請け業者は労働者に賃金をきちんと払い、社会保険への加入を進める――。こうした流れを定着させる必要がある。
労務単価の引き上げは、入札時の上限価格のアップにつながる。国民の負担は確実に増すだろう。国交省と建設業界は、このことをよく自覚して対策に取り組んでほしい。
国交省は、社会保険に未加入の労働者がいる業者は契約できず、未加入の労働者は建設現場に入れないという目標を、5年以内に達成するという。
そのために、国が従業員の加入状況を厳しくチェックしたり、業界あげて工事費の見積書の書式を統一し、社会保険料負担などの法定福利費を明示したりしていくという。
もっと短期間で正常化できないか、他にも有効な対策がないか、知恵を絞ってほしい。
社会保険に未加入の労働者がいるような業界は、若者に敬遠されるばかりだ。
実際、新規学卒者の建設業界への就職は落ち込んでおり、それが熟練工の高齢化と人手不足を招き、震災後の賃金相場の高騰につながった。
こうした悪循環を断ち、公共事業費の不必要な増加を防ぐためにも、業界の正常化を急がねばならない。
農林水産省が水田を念頭に、農地を集約して経営規模を大きくする対策をまとめた。
都道府県ごとにある農業公社の役割を改め、農地の「受け皿機構」にする。これまでは売買での集約に主眼を置いていたが、まずは機構が農地を借り受け、区画を大きくする基盤整備もして貸し出す。
特に耕作放棄地については、所有者すらわからない場合、一定の手続きに従って利用権の設定を進めていく。
ざっとそんな内容だ。面積など具体的な目標を掲げて取り組むという。
規模を大きくすれば生産コストが下がり、安く売ることができる。低迷する国内のコメ消費をてこ入れし、輸出を伸ばしていく可能性も広がる。
ただ、これで農地の集約が本当に進むのか。基盤整備に名を借りた公共事業を増やすだけに終わらないか。心配である。
コメでは、経営規模の拡大が長年の課題だ。成果があがっていないのはなぜなのか。
たとえば、ほぼ市町村ごとに置かれている農業委員会のあり方だ。農地の貸し借りや売買に大きな権限を持つが、恣意(しい)的な農地転用など、不透明な運営が批判されてきた。どこをどう改めていくのか。
農家に対する経営所得安定対策(旧戸別所得補償制度)も見直しが欠かせない。
基本的に、零細な兼業農家でも水田の面積に応じて現金を受け取れる今の仕組みは、農地を売ったり貸したりすることへの妨げになっている。
自民党も、民主党が決めたこの仕組みを「バラマキだ」と批判してきた。なぜ放置しているのか。
生産コストを下げるには、やる気のある農家や企業が、創意工夫を重ねながら自由に生産できる環境が不可欠だ。コメ消費の低迷にあわせて作付面積を抑える生産調整(減反)の見直し・廃止も避けられない。
農水省が、こうした構造問題にメスを入れないまま、「攻めの農林水産業」を掲げても、空虚に響くだけだ。参院選での農業票を意識する自民党に配慮しているのなら、本気度を疑われても仕方あるまい。
日本が交渉に加わる環太平洋経済連携協定(TPP)では、農業、とりわけ高関税で守ってきた米作への影響が必至だ。一定の対策と、それに伴う予算が必要になるだろう。
しかし、農地の有効活用が進まなかった過去の対策への真剣な反省なしでは、納税者の納得は得られまい。