ドル箱降圧剤の論文撤回「有名教授(京都府立医大)と製薬会社(ノバルティスファーマ)の闇」

2013年04月26日(金) フライデー

フライデー経済の死角

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ノバルティスファーマのドル箱商品。製品名はディオバン、一般名がバルサルタンだ〔PHOTO〕神鳥亜理沙

「妬みたくなるぐらい売れていました。この業界には『ブロックバスター』という言葉がある。従来の治療方法を変えてしまうほどの効果を持ち、莫大な利益を生み出す新薬のことです。バルサルタンこそ、ブロックバスターでした。日本の医療用医薬品中、3番目に売れているノ社のドル箱商品でここ数年は年間1000億円以上を売り上げていた」

 しかし、その〝薬効〟は、急速に失せているようだ。昨年末、日本循環器学会誌が「数多くの解析ミス」が発覚したとして、掲載論文の撤回を発表。今年2月には欧州心臓病学会誌も「致命的な問題がある」と、掲載論文を撤回する異例の事態となった。「NPO法人臨床研究適正評価教育機構」の理事長・桑島巌氏が言う。

『European Heart Journal』に掲載、撤回された松原論文。透かし文字が撤回を意味する

「あの論文は、発表当初から大きな問題がありました。『脳卒中や心筋梗塞のリスクが下がった』という研究結果を強調したかったからか、不自然なデータが見られたんです。バルサルタンを投与した高血圧患者1500人と、バルサルタン以外の降圧剤を投与した患者1500人を約5年間調査した結果、双方のグループが到達した血圧値(1500人の平均)がほぼ揃っていました。データが操作され、血圧値が合わされた可能性が高い。なぜか? 実はバルサルタンは、降圧剤としてはそれほど高い効果はない。ほかの降圧剤と効き目で勝負しても優位性で劣るんです。だからこそ、プラスαの薬効を目立たせるため、血圧値を合わせる必要があったのでしょう。 '09 年に開かれたヨーロッパ心臓病学会で、松原氏はこの論文内容をスピーチしたのですが、ヨーロッパの医師たちはデータの信憑性が乏しかったためか、黙殺しました。スイスの高血圧の専門家だけが『本当ならば素晴らしい薬だ』と断ったうえで、『私の母親には投与したくないが、妻の母親になら使う』と皮肉っていました」

 松原氏の研究をあらゆる角度からバックアップしていたのが、販売元のノ社だ。大学に記録が残っている '08年以降で、ノ社は京都府立医大に1億440万円の奨学寄付金を提供していた。また松原氏が書いたバルサルタンに関する論文には、生物統計の解析担当者としてSという男が名を連ねていた。このS氏は、紛れもないノ社の社員である。

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