あさひやまどうぶつえんニュース
モユク★カムイ

☆「モユクカムイ」とはアイヌ語で
エゾタヌキのことです。

表紙 エゾシカ


昭和56年に創刊された動物園情報誌の中から抜粋して
動物たちや園内でのお話を紹介していきます

1991年 第25号の飼育研究レポートから

「アムールヒョウの誕生」

 
 フィンランド生まれのビッグ(♂)とアメリカ生まれのエイラ(♀)が旭山動物園に仲間入りしたのは1988年の8月,ビッグが1才8ヶ月,エイラが1才1ヶ月の時でした。孤独を愛し,物思いにふけることが好きなビッグと,いたずらっぽい目をして,何にでも興味を持つエイラとの新生活が始まりました。

 ペアリング当初はビッグがエイラの近づくことを許さず,近づく度に威嚇し攻撃体勢を取るので,この先どうなるのか不安でいっぱいでした。ところが,2冬目を過ぎた頃から2頭でなかよく並んで座っているようになり,一安心しました。

 昨年(1990年)5月には,2頭の間に初めての仔が誕生しましたが,残念ながら数日後に死んでしまいました。初めての出生で,エイラはどうしていいか分からないうちに仔が死んでしまったのだと思います。2〜3日の間,エイラが何度も声を出して仔を呼んでいたのを忘れることができません。

 そして,今年(1991年)になり,3月19日を出生予定日として準備を進めていたところ,3月11日と12日の2日間エイラはまったく餌を食べていませんでした。室内からは物音一つ聞こえず不安でしたが,確認はもう少し待つことにしました。翌日引出し式の餌入れを取ろうとしたところ,エイラが猛然と怒ってきました。餌はきれいに食べていましたので,エイラが元気なことは分かったのですが,仔の鳴き声は聞こえませんでした。出生を確認できないまま,時間が経ちましたが,室内でエイラが動き回っている様子がなく,前回のように仔を呼ぶ声もしないことから「きっと仔は生まれて育てられている」と自分に言い聞かせていました。

 4月8日,出生したと思われた日から4週間が経ち,室内の汚れも心配でしたので,生室の中に入ってみました。お生用の箱をのぞくと,赤ちゃんヒョウが1頭,びっくりしたような顔をして座っていました。やはりエイラは仔を育てていたのです。すばやく部屋を掃除をし,エイラを室内に戻しました。

 4月24日,仕切り戸を開けると,先ずエイラが出てきて安全を確かめ,しばらくして仔を呼び始めました。仔はなかなか出てきません。2〜3度室内へ仔を呼びに入り,ようやく連れて出てきました。仔は初めて見る周りの景色に戸惑い,そろりそろりと歩いていました。

 しかし,それも3日目なると,徐々にやんちゃぶりを発揮し,金網に登ったり,狭いところに入り込んだりと,エイラが心配するようなことばかりやって,その度にエイラに叱られていました。エイラの気の使いようは大変でした。

 5月10日からお客さんの前に出しました。その日から赤ちゃんヒョウは大人気となり,大勢のお客さんの「かわいいー」「抱きたーい」にちょっと戸惑っていましたが,すぐに慣れ,いつものおてんば振りを発揮していました。

 かわいい名前を付けていただこうと公募したところ,1,300通もの応募をいただきその中から,神居東小学校の生徒さんほか14名が付けてくれた「さくら」とすることに決定しました。

 今(1991年7月),さくらは体長が110p,体重が20sにまで成長し,運動場狭しと走り回っていますが,まだまだエイラのおっぱいがほしくて,お昼寝の時などおっぱいを口にしたままウトウトしている姿も見ることができます。

世界の動物園が守るアムールヒョウ

 かつて中国東北部やロシヤなどアムール川流域で生息していたアムールヒョウも現在はロシア南東部の森林に生息しているだけで絶滅する可能性が非常に高く,危惧されています(野生では30頭前後)。
 そのアムールヒョウを世界中の動物園が保護増殖に努めており,現在は動物園での飼育数が,野生の生息数を上回り,200頭前後となっています。
 このように旭山動物園も「種の保存」という一翼を担っているのです。

当時,飼育担当の辻栄さんに聞いてみました

 1988年にアムールヒョウがやってきて,当時日本で飼育しているのは旭山動物園だけだったから,繁殖が第一目的だった。

 さくらが生まれた時は,すごく嬉しかった。さくらの前の年にも仔は生まれたんだけど,3日くらいで死んじゃっているから,だから尚更嬉しかった。あまりの嬉しさに,この時は職員に内祝いって事で紅白のお饅頭を配った。それくらいの出費は何とも思わなかったな。

 さくらが生まれてからはビッグは別室。さくらとビッグは最後まで別々だった。そうでなきゃ,さくらを殺しちゃう。ヒョウはライオンと違って,単独で生活する動物だからね。ライオンだったら群れで生活するから,オス,メス,子供が一緒にいてもなんでもないけど,ヒョウとかトラとか単独で生活する動物はそうはいかない。檻越しにさくらは見ているけど,一緒に遊ばせることはできない。
 映像も残っているけど,小さい頃は本当におてんばで母親が困るくらい。母親の尻尾にじゃれて噛みついて,母親が「ギャー」と鳴き声をあげたり。
 
 母さんのエイラは,さくらの分のエサも取っちゃうんだ。だから子供の為に少し多めにエサをやると,エイラがそれをみんな食べてしまって,ぶくぶくに太っちゃってね。さくらにエサをやろうと思って,多くやったのが失敗だった。
 一応は母親用と子供用とに別にしているんだけど,やっぱり子供は食べるのが遅いでしょう。だから,エイラは自分の分をパパッと食べちゃって,さくらの所にくる。サクラが出園した後も何とかダイエットさせようと思って,エサを半分にしたけど,死ぬまで太ったままだったな。

 さくらが生まれた当時のことを,本当に嬉しそうに話してくれました。


        平成14年のビッグ
その後のアムールヒョウ

 さくらは,1995年に神戸市王子動物園へお嫁に行き,現在はさくらの孫(ビックから見るとひ孫)の「アテネ」と「キン」がもうじゅう館にいます。

 エイラはその後妹の「こと」を生み,2002年に死亡しました。
 ビッグは,2007年に死亡。2005年にアテネ兄弟が来園したので,ビッグはひ孫に顔を合わせることができました。

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