|
公示目前の週末、津中央郵便局は職員が窓口業務に追われていた=津市で |
|
間崎島の間崎簡易郵便局。廃業した民宿を改造した局舎には真珠漁協の看板もかかる=志摩市志摩町で |
「踏み絵」に「刺客」や「くノ一」、果ては「仁義なき戦い」……。首相の行動と手法が役者と舞台装置を生み、政治が劇場化したかのような総選挙が近づく。小泉劇場の開演を告げるベルが鳴って4年余り。改革のシナリオは、現実の暮らしに何をもたらしているのだろう。県内各地を歩いた。
尾鷲市から車で約1時間。つづら折りの細い山道を進むと、のどかな田園風景にぶつかる。
三重・奈良両県に挟まれた和歌山県の飛び地・北山村との県境に位置する熊野市育生町長井。尾川簡易郵便局は4月に開局したばかりだ。
郵便のほかには、郵便貯金の業務を担う。給油所を経営する川畑純良さん(68)が住民の要望を受け、自宅を増改築して始めた。
集落は全部で65世帯。65歳以上の高齢者は63人(3月末現在)を数える。近くの主婦福島よし子さん(70)は開局と同時に、最も近い支店で車で約1時間かかるJAから、年金の振込先を切り替えた。「歩いて行ける郵便局があるのは便利。本当に助かるんや」
■ ■
住民の「金庫番」だった紀南信用組合は02年2月に破綻(はたん)。JA三重南紀育生支店も04年9月末、不採算を理由に金融部門が撤退した。
尾川局の開局まで半年間、住民は車で約5分先の和歌山県大沼郵便局まで県境を越えるか、週1回訪れるJAの移動金融店舗の車両を待つしかなかった。体の不自由な人は、集配に訪れる約8.5キロ離れた神川郵便局(熊野市神川町神上)の配達員に通帳と印鑑を託して引き出しを依頼した。
過疎地域の不安に対応するため、与党の郵政改革方針では、最大2兆円の基金を設け、それを郵便局網の維持に振り向けるとしている。
だが、川畑さんは「5年後、10年後、さらに過疎化が進んで、採算性がなくなったらどうなるんや」と不安を募らせる。尾川局と日本郵政公社とは3年契約で、以後は更新の申請が必要だ。「100年は存続させると法案に明記してくれんと、民営化には賛成できん」
■ ■
志摩市の賢島から定期船で約15分。間崎島の間崎簡易郵便局は、廃業した民宿を改造し、事務所に利用している。間崎真珠養殖漁業協同組合が経営し、漁協職員が窓口業務にあたっている。
漁協にも金融部門があったが、採算が合わず02年3月に廃止。郵便だけだった業務に、翌4月からは郵貯も加わった。
島には84世帯が暮らし、65歳以上は122人(7月末現在)。間崎局は一日10人前後が利用する。従業員の田辺敏巳さん(43)によると、ほとんどの世帯が郵貯利用者という。
仮に局がなくなった場合、年金を引き出すには船で5〜15分離れた本土の金融機関に行くしかない。定期船はほぼ1時間に1本あるものの、台風などで海が荒れたら当然、欠航になる。
食料品店を営む女性(72)は「陸続きじゃないで、船に乗って行かなならんのは大変なことや。郵便局とお医者さんだけは、身近にないと意味がないわ」。
■ ■
県都・津市の中心街にある津中央郵便局。小泉首相が衆院を解散した8日、窓口を訪れた市内の50代の主婦はきっぱりと言った。
「郵政民営化には条件付きで賛成。だけど、郵政の法案の審議よりも年金問題の解決の方が先だと思う」
民営化については、郵便事業はこれまで通り信頼感のある公的事業として継続を望む一方、郵貯の資金が財政投融資で特殊法人に流れるのは「際限のない垂れ流し。納得できないの」と憤る。
その上で、こう言った。「都市部と山間地や離島では、郵便局の果たす役割も違うはず。郵貯や郵便簡易保険の取り扱いも、その点を分けて考えるべきじゃないのかしらねえ」