尹昶重(ユン・チャンジュン)前大統領府報道官の米国でのセクハラ疑惑事件は、被害者との合意の有無にかかわらず、米国の警察が捜査を進めることになる。韓国ではセクハラは本人が告訴をして初めて捜査を開始する「親告罪」だが、米国ではセクハラが親告罪ではないためだ。ワシントンD.C.の警察当局関係者は「われわれはセクハラ(misdemeanor sexual abuse)申告に関する調査をしている」と報道機関に発表した。
2011年、米国でホテルの女性従業員に性的暴行を試みたとされたドミニク・ストロス=カーン国際通貨基金(IMF)専務理事(当時)は、ニューヨークのジョン・F・ケネディ国際空港で警察に逮捕・拘束され、警察の取り調べを受けた。しかし、尹前報道官はすでに韓国に戻っているため、捜査手続きが複雑になる。
尹前報道官に対する捜査にはいくつかの方法が考えられる。まず、米国の警察が被害女性に事情を聞いた後、尹前報道官に召喚状を送って現地に呼び寄せ、取り調べをする方法だ。しかし、尹前報道官が米国の警察の召喚を拒否した場合は状況が変わってくる。
もしそうなれば、米国の警察は尹前報道官の容疑が「韓米犯罪人引き渡し条約」に基づく引き渡し請求対象犯罪になるかどうかを判断する。引き渡し条約の対象となる犯罪は「1年以上の自由刑またはそれ以上の重刑」だが、尹前報道官の行為がどれほどの刑に該当するかは米国の捜査を見守る必要がある。尹前報道官の引き渡し請求が行われ、韓国の裁判所が許可すれば、尹前報道官は米国で捜査を受けることになる。
一方、米国の警察の捜査で「軽犯罪」と判断されれば、犯罪人引き渡し請求の対象から除外される可能性もある。こうなれば、この事件は「捜査中の未済事件」になる。米国が犯罪人引き渡し請求を行っても、韓国は自国民の保護などに関する条約に明記された例外規定を理由に、引き渡し要求を拒否することもできる。外交関係者の間では「韓米両国は政治的影響を考慮して尹前報道官の容疑を適切なところで線引きし、引き渡し請求をせずに終わらせる可能性が高い」との声もある。
米国とは違い、韓国ではセクハラが親告罪であるため、現時点では韓国の司法当局が尹前報道官について捜査することはできない。被害女性が韓国の司法当局に訴えて初めて捜査が開始されることになる。法律の変更に伴い、韓国でも来月19日からはセクハラが親告罪の対象から外されるが、過去にさかのぼって尹前報道官に適用されることはない。