2012年11月26日(月)

狙われる“ご神木”

鈴木
「神社の境内に立つ、『ご神木』。
地域の信仰の対象として大切にされ、中には樹齢数百年というものも珍しくありません。」


阿部
「ところが今、そのご神木が、不自然な枯れ方をしているケースが四国を中心に相次いでいます。
何が起きているのか、取材しました。」

“ご神木” 枯れた謎

今年7月、愛媛県東温市(とうおんし)で枯れたご神木が見つかりました。

およそ1300年の歴史を持つ神社の境内で、2本のヒノキだけが枯れていたのです。

いずれも樹齢500年を超えていて、幹周りは4メートル前後の大木です。

およそ1か月後、神社の管理を任されている地域住民のもとに木材業者が現れました。

業者からは、「枯れた木は危ないから早く切ったほうがいい。自分たちが伐採して買い取ろう」と申し出があったといいます。

住民
「『危ない』、『危険性』。
それは何とかしなきゃという気持ちになる。」

住民
「自分たちが木を切リ倒す費用を全然出すことができないという気持ちもあった。」

住民たちは地域で話し合った末、ご神木2本を550万円で業者に売却する契約を結びました。

しかし、木を伐採しようとした直前、大きな問題が発覚します。

「こちらにあります。」

木の根元に、直径5ミリほどの穴が複数見つかったのです。

不審に思った神社側が警察に相談すると、穴は人がドリルのようなもので開けたものだとわかりました。

さらに、警察の捜査で、穴の中から除草剤で使う薬品の一種、「グリホサート」が検出されたのです。

総河内大明神社 綿崎祥子宮司
「言葉にならなかったです。
えー、そんなことする人がいるのって。
信じられない。
憤りはもう通り越している。」

ご神木は、誰が、何のために枯らしたのか。

現場を独自に調査した愛媛県林業研究センターの豊田信行(とよた・のぶゆき)さんです。
豊田さんは、木材に詳しい人物が関わっていると推測しています。

根拠は、4センチという穴の深さにあります。

木は、表面から4センチほどの部分に、根が吸った水分を運ぶ管が通っています。

穴は、その管まで的確に掘られていて、除草剤が枝へと行き渡り、枯れたとみています。

このような方法で枯れるのは、葉や枝だけで、幹の中心部には影響はなく、木材としての質は下がらないといいます。

愛媛県林業研究センター 豊田信行さん
「有効的に効率的に薬を入れようとすれば、4センチ前後入れるのは 十分効果的な方法。
木を扱っている人々は常識的に知っている話。」


取材を進めると、ご神木が枯らされるという被害が愛媛県内の別の神社でも起きていることがわかりました。

この神社には以前からご神木を売ってほしいと複数の業者が訪ねていました。


去年(2011年)、ご神木4本が枯れ、2つの業者に売却されました。
これらの木でも同じような穴が見つかったのです。




こうした被害は愛媛県だけにとどまらないことがわかりました。
NHKの取材で、不自然な枯れ方をしたご神木は、四国を中心にここ10年で、少なくとも25本にのぼっています。


相次ぐご神木の被害。
木材業界の事情に詳しい人物に話を聞くことができました。

この人物は、薬剤で木を枯らす手法は、持ち主に木を手放させるためのもので、かつては九州などでも見られたと話しました。

業界関係者
「木を枯らせば神社は売るから、それで枯らす。
『売ってくれ、売ってくれ』と来て、そのうち枯れる。
『あのとき売ればよかった』、『今になったら枯れた』、それで安く買う。」

高まる“ご神木”の価値

ご神木は木材としてどれほどの価値があるのか。

奈良県にある、大木を専門に扱う木材市場です。

国内では木材価格が低迷していますが、直径1メートルを超えるような大木はほとんど出回らず、高値での取り引きが続いています。

奈良県銘木協同組合 林秀樹課長
「去年売らしてもらったやつは600万、700万という木もあった、1本単価。
もっと太いのになってくれば、もっと(高価な木も)あると思う。」



特に質のいい大木は、歴史的建造物の再建や文化財の修復などで、常に一定の需要があります。

しかし、国産の大木はすでに多くが伐採されていて、神社や寺の境内にしか残っていないというのです。

業界関係者
「昔からお宮の木は切っちゃいけない。
大きい木が残っているのは神社とお寺しかない。
個人はみんな売っちゃっているから。」

何者かの手によって枯らされた、愛媛県東温市のご神木。

契約では、年内に伐採されることになっていますが、神社側は一連の経緯が不透明だとして、伐採に「待った」をかけています。

ご神木をめぐる騒動の行方は、いまだ見えていません。

枯れる“ご神木” 警察は

阿部
「スタジオには、松山放送局の大西記者です。
警察の捜査はどこまで進んでいるんでしょうか?」

大西記者
「警察が検出された成分を含む除草剤は、市販されていて誰でも手に入れられることができるので、枯らした人物の特定は難しいというのが現状です。
目撃証言などもなく、捜査は難航しています。
また、私たち(NHK)も多くの関係者に重ねて取材をしましたが、いずれも今回の件に関して、関与を否定しているんです。」

枯れる“ご神木” 背景に大木不足

鈴木
「文化財の補修などに使う大きな木材が不足していることもその背景にあるということなんですね?」

大西記者
「神社やお城、お寺などの大修理や再建に使う大木は、国内にはほとんど残っていないと言われています。
例えば国宝・阿修羅像で知られる奈良県の興福寺では、現在、江戸時代に焼失した『中金堂』(ちゅうこんどう)という建物の再建工事が行われているんですけれども、国内ではなかなかいい木材が見つからず、カメルーン産の木材を輸入して使っているんです。
今回のご神木をめぐる騒動は、世界に誇る日本の木造建築を今後も守っていくことができるのかという、大きな問題を投げかけているように思います。」

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