アステカにおける欲望と肉体的愛を司る女神。また地母神であり
シワコアトルや
コアトリクエと関連がある。中央アメリカ諸族に広く知られているが、もともとワステカ起源の女神であり、アステカ湾岸北部の征服後にアステカの神体系の中に組み込まれた。名前はナワトル語で「不浄の女王」を意味する。ワステカ族においては「綿の女王」と呼ばれることもある。愛の女神にしてトウモロコシの母であり、また古くから伝わる大地の女神でもある。トラソルテオトルは「あらゆる不浄な行為の陰に潜む力」であり、罪をあがないたいと願う者と全能神
テスカトリポカとの間を取り持ってくれる女神だと考えられた。特に「不潔」な行為を具現化した「
トラエルクアニ」という別称を持っている。トラソルテオトル自信は特に性的な罪との関係が深く、アステカの湖上都市テノチティトランにおいて戦士達のために一般家庭から集められた娼婦達は、トラソルテオトルないしトラエルクアニに帰依した。彼女達はトラソルテオトルの道具として務めを果たしたあと、口を黒く塗られ、儀式において殺された。
20ある暦日(センポワリ)の14番目「オセロトル(ジャガーの意)」の守護神であり、また「昼の神々」
トナルテウクティンの5番目であると同時に「夜の神々」
ヨワルテウクティンの7番目でもあった。さらに暦上でのトラソルテオトルの祭日は「6のシパクトリ」であった。365日暦の第12月には
チコメコアトルや
テテオインナンとともに、「オチュパニストリ」という祭りで祀られた。原始的な地母神
トシと結びついており、ワステカ起源の地母神
イシュクイナン、塩の神
ウィシュトシワトルはトラソルテオトルの化身ないし関連する神と考えられる。またある意味でマヤの
イシュチェルを対応神とみなすことも出来る。
トラソルテオトルはコデックス(絵文書)では綿のバンドと2つの紡錘ないし糸巻きを頭飾りとする姿で描かれている。時には
シペ・トテックのように生贄から剥いだ皮をきている姿でも表され、これは子宮からの新しい命の誕生を象徴したものだと考えられる。